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樹里ちゃん、内田陽紅に招待される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。樹里と不甲斐ない夫の杉下左京は、内田陽紅こと内田もみじの家に招待されています。


 樹里はともかく、何故左京までもが招待されているのか、腑に落ちない地の文です。


「うるせえよ!」


 細かい事が気になってしまう地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず笑顔全開です。


 例によって、四女の萌里は樹里の姉の璃里に預かってもらっています。


 そして、例によって、左京は家に残るか残らないかで葛藤しました。


「やめろ!」


 璃里と一緒に留守番が心残りな左京が地の文に切れました。


 でも今回も、長女の瑠里と次女の冴里、そして三女の乃里がいるので、不倫は難しいと思う地の文です。


「不倫なんかした事ねえよ!」


 大嘘を吐く左京です。


「嘘じゃねえよ!」


 いつにも増して切れまくる左京です。




 左京がバカをしているうちに、二人は内田邸に到着しました。


 五反田邸には引けをとりますが、大豪邸です。


「ようこそいらっしゃいました、左京さん、樹里さん」


 背中が大きく開いた赤いパーティドレスを着たもみじとモーニングを着た夫の京太郎が出迎えました。


「本日はお招きくださり、ありがとうございます」


 樹里が笑顔全開で挨拶しました。左京はもみじのドレスに見惚みとれています。


「見惚れてねえよ!」


 図星を突いたはずの地の文に理不尽に切れる左京です。


「どうぞ」


 もみじの案内で、樹里と左京はまずは応接間に通されました。


 その間中左京はもみじの背中を見ていました。


「勘弁してください」


 正確に描写をしている地の文に土下座をして懇願する左京です。


「ウエルカムドリンクをどうぞ」


 もみじが二人にグラスに入った飲み物を持ってきました。


「ソフトドリンクですから、ご安心ください」


 京太郎が樹里にグラスを渡しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で受け取りました。


「左京さんは、アルコールでいいですよね?」


 もみじがグラスを渡しました。


「ありがとうございます」


 今度はもみじの胸元を覗き込むエロ左京です。


「見てねえよ!」


 しつこい地の文に切れる左京です。


「ウチのグループが製造したクラフトビールです」


 京太郎が言い添えました。お忘れの方も多いかと思いますが、京太郎は野本最大のホームセンターの創業者の跡継ぎです。


「そうですか。では、いただきます」


 酒癖の悪い左京がぐっと飲み干しました。


「悪くねえよ!」


 正しい事を言った地の文に切れる左京です。


「では、こちらへどうぞ」


 もみじが二人をキッチンに案内しました。


 キッチンはかつて左京が住んでいたアパートより広いです。


「ううう……」


 あまりの生活レベルの差に悲しくなってくる左京です。


「どうぞ」


 京太郎ともみじが左京と樹里を大きなダイニングテーブルの席に案内しました。


 樹里と左京は並んで腰掛けました。もみじと京太郎はその向かいに並んで座りました。


「お願いします」


 京太郎が言うと、厨房からウエイターがオードブルを運んできました。


「いくらとクリームチーズのきゅうりカナッペです」


 ウエイターが皿を置きながら告げました。


「そ、そうですか」


 緊張してしまっている左京は顔を引きつらせて応じました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「いただきます」


 左京はいつも通りに手を合わせて言うと、箸を探しましたがフォークとスプーンとナイフしかありません。


「左京さん、それは手でどうぞ」


 もみじが微笑んで言いました。


「そ、そうでしたか」


 左京は顔を赤らめてカナッペを取ると、口に入れました。


「うまい!」


 思わず大声で言ってしまう左京です。


「ありがとうございます。それは妻が作りました」


 京太郎が微笑んで告げました。


「そ、そうでしたか」


 左京はまた顔を赤らめました。


「そうなんですか」


 樹里も一口で食べ、笑顔全開で応じました。


 こうして、フルコースを食べ終えた樹里と左京は、食後のコーヒーを出されました。


「カフェイン抜きのコーヒーです。樹里さんにも安心してお飲みいただけます」


 京太郎が言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「左京さん、樹里さん、如何でしたか?」


 もみじが尋ねました。


「美味しかったです」


 左京が言いました。


「非常に丁寧にお作りになっていて、味わい深かったです」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「妻がここまで料理をしたのは、結婚以来初めてなんです」


 京太郎が言うと、もみじはムッとして、


「それは言わない約束でしょ、京太郎さん!」


「ああ、ごめん。でも、何だかヤキモチを妬いてしまいまして」


 京太郎は左京を見て言いました。


「え? どういう事ですか?」


 左京は京太郎の視線の意味がわからず、キョトンとしました。


「妻が料理を作ったのは、左京さんのためなんですよ」


 京太郎はもみじを見て言いました。もみじは真っ赤になっています。シャレではありません。


「最初は嫉妬してしまったのですが、よくよく訊いてみると、そうではなかったんです」


 京太郎はまた左京を見ました。


「そうなんですか」


 左京は引きつり全開、樹里は笑顔全開で応じました。


「妻は左京さんに父親を投影していたのです。妻の両親は妻が高校生の頃に離婚しており、妻はその前にも父親とほとんど話す事なく育ったのです」


 京太郎が更に言いました。


「そうなんですか」

 

 父親に見られていたのか、とショックを受ける左京です。それに気づいたもみじが、


「もちろん、私の父は左京さんよりずっと年上です。左京さんを父親と思った訳ではないですから、お気を悪くなさらないでください」


 赤面しながら言いました。


「左京さん、またお食事にお誘いしてもいいですか?」


 もみじが樹里をちらっと見て訊きました。左京はそれに気づいて、


「もちろん。いつでも呼んでください」


 笑顔で言いました。


「ありがとうございます」


 もみじは涙ぐんで言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 めでたし、めでたし。

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