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樹里ちゃん、ドラマの最終回の試写会にゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。樹里は不甲斐ない夫の杉下左京の遺影を持ち、先日無事にクランクアップしたドラマの最終回の試写会に出席します。


「死んでねえよ!」


 草葉の陰で地の文に切れる左京です。


「だから、生きてるんだよ!」


 更に存在を抹殺しようとする地の文に続けざまに切れる左京です。


「楽しみだな。もみじさんの最初のドラマ化された作品なんだろ?」


 大村美紗の愛娘のもみじにも不倫を持ちかける気満々の左京です。


「違う、断じて違う!」


 今は昔の某進君の名台詞をパクって地の文に切れる左京です。


「もみじさんは、大村先生にも試写会の招待状を送ったそうですよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「え? 大村先生も来るのか?」


 嫌な汗が出る左京です。実は美紗が大嫌いなのです。


 早速、もみじに教えようと思う地の文です。


「やめろ!」


 血の涙を流して地の文に抗議する左京です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


 やがて、テレビ江戸の迎えの車が来ました。


「ゆっくりしてらっしゃい」


 四女の萌里を抱いた樹里の姉の璃里が言いました。


 左京は、璃里と一緒に留守番をしてもいいかなと思いました。


「思ってねえよ」


 少しだけ図星だったので、声が小さくなる左京です。


 


 そして、車は何事もなくテレビ江戸に着きました。


「樹里さん、お休みの日にお越しいただき、恐縮です」


 言葉を選んで言うテレビ江戸の社長の門田篤典かどたあつのりです。


「ご招待いただき、ありがとうございます」


 樹里と左京が口を揃えて言いました。


(どうして樹里さんのご主人がいるんだ? 呼んだ覚えはないぞ)


 門田社長は左京を見て思いましたが、樹里の手前何も言いませんでした。


「そんな事は思っていない! 名探偵の杉下左京さんもご招待しているよ!」


 群馬県の山奥で起こった連続殺人事件を表向きは見事に解決した左京を呼べば、ドラマの宣伝になると思った計算高い人物です。


「嫌な言い方をするな!」


 正直に事実を述べたはずの地の文に切れる門田社長です。


「どうぞ、こちらです」


 門田社長は樹里と左京を案内しました。


(御徒町樹里、今日こそ恥を書かせてあげるわ!)


 柱の陰から、樹里を見ている二流の大根役者がいました。


「二流じゃないし、大根役者でもないわ!」


 真実を指摘した地の文に切れる大利根中学校です。


「大利根中学校は存在しないのよ! そして、私の名前は大利根美羽子よ!」


 細かい事が気になる美羽子が地の文に切れました。


「招待された方以外は入れません」


 こっそり試写室に行こうとして、警備員に制止される美羽子です。


「次こそー!」


 涙ぐんで叫んだので、不審者扱いされ、強制退去させられる美羽子です。


 


 樹里と左京が社長と一緒に試写室に入ると、森平章嗣と能登鞠絵が大村美紗と話していました。


「ああ、樹里さん、久しぶりだね」


 森平は、隣にいる左京を無視して、樹里の肩に腕を回しました。


「妻がお世話になりました。夫の杉下左京です」


 左京が森平に詰め寄りました。


「おお、そうでしたか。貴方があの有名な迷探偵の杉下先生ですか」


 森平はバカにした口調で言いました。


「まあ、そうですの。お会いしたかったわ、先生」


 鞠絵が嬉しそうに左京の手を取りました。


「ああ、どうも」


 お婆さんにはまるで興味がない左京は無表情に応じました。


「そんな事はない!」


 感情を捏造する地の文に切れる左京です。


「あら、樹里さん、ご機嫌よう」


 りスタイルで言う美紗です。


「お久しぶりです、大村先生」


 樹里は笑顔全開で応じました。そこへ監督の左熊と共に原作者である内田陽紅こと内田もみじが来ました。


「もみじ、おめでとう。どんな結末になるのか、楽しみだわ」


 美紗が言いました。


「お母様は結末をご存じでしょ?」


 やや呆れ気味に応じるもみじです。


「ああ、そうだったわね」


 本当は忘れていたのにわかっているふりをするバアさんです。


「誰かが悪口を言っている気がするけど、気のせいなのよ!」


 頭を抱えて叫ぶ美紗です。


「お母様、落ち着いて」


 また発作が始まったと思ったもみじがなだめました。


(もう完全に時代は内田陽紅先生だな)


 奇行が噂になっている美紗を見て、もみじに乗り換えようと考えている森平です。


「皆さん、試写会を始めますので、お席にお着きください」


 ADの女の子がマイクを通じて告げました。樹里達はシートに腰を下ろしました。場内が暗くなり、試写が始まりました。


 最終回は静かに物語が始まりました。皆、固唾を呑んで見守っています。


(これはすごい。俺が解決した事件より犯人がわからない。誰なんだ、犯人は?)


 バカな左京はそんな事を思っていました。


「うるせえ!」


 的確な事を述べた地の文に理不尽に切れる左京です。


 そして、クライマックスです。


「えええっ!?」


 あまりにも意外な犯人に左京が大声を出してしまいました。


「貴女が真犯人ですね、麻弓さん」


 警視庁の敏腕警部の大森左近が言いました。


(樹里が犯人役なんて、悲し過ぎる……)


 左京は涙ぐんでいました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「お嬢様は亡くなった先代の旦那様に命じられて罪を犯しました。どうか、見逃してください」


 メイド役の稲垣琉衣が言いました。


「それはできません。どこかの推理小説みたいに犯人に自殺の機会を与えるような真似は偽善です。それに私は刑事です。罪は罪。償ってこそ、未来が開けるのです」


 大森警部が言いました。そして、BGMが流れ、エンディングです。


(感動的だった……)


 号泣している左京です。


 こうして、試写会は終わりました。


「左京さん」


 もみじがシートに座ったまま泣いている左京に声をかけました。


「はい?」


 涙を拭ってもみじを見上げる左京です。


「お気づきになりましたか? 大森左近は貴方がモデルなんです」


 もみじが照れ臭そうに言ったので、


「え?」


 びっくりして立ち上がる左京です。これなら不倫ができると。


「違う!」


 チャチャを入れるのが大好きな地の文に切れる左京です。


「貴方が山神村で解決した事件の真犯人に告げた言葉を樹里さんから聞いて、大森左近の人物像を大きく変更しました。そして、結末も変えたのです。ドラマ化が成功したのは、貴方のおかげです」


 もみじが涙ぐんで言ったので、


「そうなんですか」


 樹里と左京は口を揃えていいました。樹里は笑顔全開、左京は引きつり全開です。


 めでたし、めでたし。

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