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樹里ちゃん、左京を迎えにゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


「はい」


 樹里が笑顔全開でスマホの通話を開始しました。


「ああ、樹里か。俺だよ、俺」


 オレオレ詐欺の電話のようです。


「違う! 夫の杉下左京だ!」


 電話越しに地の文に切れる左京です。久しぶりの登場です。


「左京さん! お元気でしたか?」


 樹里は涙ぐんで尋ねました。


「ああ、元気だよ。坂本先生が仕事を世話してくれて、食うには困っていないから」


 妻に愛人の事を平気で話す無神経な左京です。


「愛人じゃねえよ! ビジネスパートナーだよ!」


 更に地の文に切れる左京です。


「樹里も元気そうだな。子供達も元気か?」


 左京が尋ねました。


「はい、元気ですよ。私はもうすぐお邸に着きますので、かけ直しますね」


 樹里はそう告げると、スマホを切り、五反田邸に入りました。


「樹里様! お帰りの時にまた!」


 一瞬だけ登場できた昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「樹里さーん!」


 しばらく登場しなかったもう一人のメイドの目黒弥生がが走って来ました。


「おはようございます、弥生さん」


 樹里は笑顔全開で挨拶しました。


「おはようございます。いらしてくださって、嬉しいです!」


 弥生は涙ぐんで言いました。最近、樹里が撮影で来ない事が多いので、一人で仕事をこなさなければならず、しんどかったようです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。そして、邸の更衣室でメイド服に着替えると、猛スピードで掃除を始めました。


「樹里さん、飛ばしてますね」


 ヒイヒイ言いながら、弥生は仕事をこなしました。


(一人の時より疲れる……)


 通常の三倍のスピードでこなす樹里についていくのがやっとの弥生です。


「弥生さん、ちょっと休みますね」


 樹里は庭掃除を終えたところで言いました。


「そ、そうですか……」


 精魂尽き果てそうになっている弥生は顔を引きつらせて応じました。


 樹里はスマホを取り出して、左京に連絡しました。


「ようやく吊り橋が完成して、隣の嬬恋村に来られたよ。ここなら携帯も繋がるんだ」


 左京が言いました。


「そうなんですか」


 樹里はまた涙ぐんで応じました。


「それで、申し訳ないんだが、俺の車はタイヤがパンクして走れないので、迎えに来てくれないか?」


 左京は図々しい事を言いました。


「うるせえ!」


 正当な事を言ったはずの地の文に理不尽に切れる左京です。


「わかりました。お仕事を早めに切り上げて、迎えに行きますね」


 樹里は涙をこぼして言いました。


「すまない、樹里。頼むよ」


 左京は樹里が泣いているのに気づかず、言いました。


「はい。近くに着いたら、電話しますね」


「わかった。すまない、樹里。気をつけてな」


「はい」


 樹里は涙を拭って応じると、スマホを切り、ポケットに入れました。


「左京さんですか? 迎えに行くんですか?」


 弥生が不安そうに訊きました。


「はい。仕事は終わりにしますので、早退させてください」


 樹里が言うと、


「大丈夫です。もう上がってください」


 弥生は言いました。一人でこなす方が楽だからです。


「やめて!」


 本音をバラされた弥生が地の文に切れました。


「そうなんですか。ありがとうございます、弥生さん」


 樹里は涙ぐんでお礼を言いました。


「いえ、大した事ないですから」


 照れて赤くなる弥生です。




 樹里はまもなく仕事を切り上げ、帰宅しました。そして、ミニバンに乗ると、一路群馬県吾妻郡を目指しました。


 抜け道マップのバイトのおかげで、樹里はたちまち都内を出て、関越道で群馬県へと向かいました。


 そして、渋川伊香保インターで一般道に降りると、国道353号線を走り、山神村を目指しました。


 一時間半後、樹里は山神村の吊り橋を渡って、休憩所に寄りました。


「左京さん、今、山神村に着きました。どちらにいますか?」


 樹里がスマホで尋ねました。


「今、役場にいる。龍子さんも一緒だけど、大丈夫かな?」


 左京が言いました。


「大丈夫ですよ。ミニバンで来ましたから」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「わかった。待ってるよ」


 左京が言いました。樹里は通話を終えると、山神村役場を目指しました。


 


「樹里さん、怒っていませんか?」


 坂本龍子弁護士が左京に尋ねました。


「大丈夫ですよ。樹里はそんな怖い人間ではないですから」


 左京は苦笑いをして言いました。


「そうですか」


 龍子はやや不安になりながら言いました。


「あ、もう来た」


 左京はミニバンが役場の駐車場に入って来るのを見ました。


「樹里!」


 我慢し切れなくなり、左京は駆け出しました。


「ああ、左京さん!」


 龍子もそれに続きました。


「左京さん!」


 樹里はミニバンを駐めると、運転席から飛び出し、左京と抱き合いました。


「あ……」


 龍子は立ち止まりました。左京と樹里は人目を憚らずにキスをしました。


(やっぱり、あの二人の間に入り込む事はできないな……)


 龍子は苦笑いをして、こぼれそうになった涙を拭いました。


「会いたかったよ、樹里」


「私もです」


 二人は見つめ合い、またキスをしました。


「左京さんの車、いい機会ですから、買い替えませんか?」


 樹里が言いました。左京は駐車場にある愛車を見て、


「そうだな。もう引退させてあげてもいいな」


 目を細めて応じました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 左京は樹里が全額出してくれるといいなと思いました。


「やめろ! 報酬はもらえたんだから、俺が出すよ!」


 深層心理を見抜いたはずの地の文に切れる左京です。


「もうすぐお誕生日ですから、私がプレゼントします」


 樹里が笑顔全開でサプライズな事を告げました。


「ええ? でも、俺、樹里の誕生日に何もできなかったから……」


 左京はバツが悪そうに言いました。龍子と不倫の真っ最中でしたね。


「違う! 不倫なんかしてない!」


 更にまた切れる左京です。


「帰りましょうか」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「龍子さん、乗ってください」


 樹里は笑顔全開で龍子に言いました。


「あ、はい」


 場違いな気がしていた龍子ですが、樹里に笑顔全開で言われると、逆らえない気がしました。


(樹里さんには勝てない)


 改めて思う龍子でした。


 


 めでたし、めでたし。

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