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樹里ちゃん、忘年会に呼ばれる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 長かった上から目線作家原作の映画の撮影も無事に終わり、樹里は通常通りの生活に戻りました。


 ただ一点、浮気症の夫の杉下左京はまだ不倫旅行から帰って来ていません。


「不倫旅行じゃない! 陸の孤島に閉じ込められているんだよ!」


 群馬県吾妻郡にある山神村で地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


「樹里様と瑠里様と冴里様と乃里様と萌里様にはご機嫌麗しく」


 こちらも通常運転に戻った昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。


「いつもありがとうございます」


 樹里が笑顔全開でお礼を言いました。


「こちらこそ感謝に絶えません」


 眼鏡男達は涙ぐんで応じました。


「それよりも、ご主人はまだ戻っていないのですか?」


 眼鏡男が樹里に尋ねました。


「はい、まだ戻っていませんよ」


 樹里が笑顔全開で応じたので、ちょっとだけ引いてしまう眼鏡男です。


「そうなんですか」


 そして、つい、樹里の口癖で応じてしまいました。


「村への唯一の通り道である橋が崩落してしまって、未だに復旧作業が進んでいないらしいです」


 更に笑顔全開で事情を説明する樹里です。


「不運ですね」


 所詮、左京の事などどうでもいいと思っているので、リアクションが薄い眼鏡男です。


「やめてください! 我らは樹里様のご主人を心の底から案じているのです!」


 図星を突いた地の文に抗議する眼鏡男です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里は隊員達と共にJR水道橋駅へと向かっており、長女の瑠里と次女の冴里は集団登校の一団に加わって小学校へ向かっていて、三女の乃里と四女の萌里は、いつの間にか現れた樹里の姉の璃里と共に保育所へ向かっていました。


「樹里様、お待ちください!」


 放置プレーに感涙している間もなく、眼鏡男は樹里を追いかけました。


 


 こうして、樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。


「では樹里様、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼して去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は深々と頭を下げました。


「樹里さーん!」


 そこへ騒がしいだけが取り柄の目黒のさんま弥生が走って来ました。


「いろいろと失礼よ!」


 ボケ倒した地の文に切れる弥生です。


「おはようございます。今日はテレビ局の方がお見えになるそうです」


 弥生は息を切らせて告げました。年には勝てないようです。


「うるさいわね!」


 遂に三十路になったので、疲れが翌日に繰り越されるようになったのです。


「更にうるさい!」


 余計な事を言うのが趣味の地の文に更に切れる弥生です。


「おはようございます。そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じると、玄関に向かって歩き出しました。


「あ、待ってください、樹里さん!」


 地の文に切れるのに夢中で、置いておかれる弥生です。


 樹里は素早く着替えると、早速庭掃除に取りかかりました。弥生も慌てて続きました。


 庭掃除を終え、樹里と弥生が玄関に戻った時、黒塗りの車が四台、続け様に入って来ました。


「来たみたいですね」


 弥生が樹里に囁きました。


「そうなんですか」


 樹里が弥生に囁き返しました。


「ああん……」


 また妙な声を出してしまう弥生です。


 黒塗りの車は車寄せで停まり、中からいつものメンバーが降りて来ました。


 どうでもいいので、紹介を省略する地の文です。


「名前くらい言えよ!」


 地の文に切れるメンバーです。


「いらっしゃいませ、山梶さん、大神さん、酒野さん、一手さん」


 樹里が挨拶しながら紹介しました。


「お忙しいところ、失礼致します」


 四人は愛想笑いをして言いました。


 そして、いつも通りに四人は応接間に通されました。


「実はですね、樹里さんに我々の合同忘年会にご出席いただきたいと思いまして、お願いにあがりました」


 代表して、テレビ夕焼の山梶欣三が言いました。


「そうなんですか」


 樹里は紅茶を出しながら笑顔全開で応じました。


「是非、ご出席ください」


 ジャパンテレビの一手九蔵いってきゅうぞうが揉み手をしながら言いました。


「いつでしょうか?」


 樹里はスマホを取り出してスケジュールを確認しました。


「十八日の日曜日の午後六時です」


 ブジテレビの酒野投馬美さけのつまみが言いました。


「如何でしょうか?」


 大東京テレビ放送の大神少年おおがみすくなとしが訊きました。


「その日は西園寺伝助さんと忘年会の予定が入っていますので、無理です」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「ええええ!?」


 仰天する四人です。お笑い芸人一人に東京キー四局が負けたのです。


(西園寺の野郎、図に乗りやがって! 干してやろうか?)


 四人は思いました。


 本人の知らないところで、残忍な事が決まりかけていました。


「では、その翌週は?」


 焦った山梶が尋ねました。


「二十五日は、子供達とクリスマスパーティの予定が入っています」


 樹里はまた笑顔全開で告げました。


「ああ、そうですね……」


 酒野はその日、恋人とクリスマスパーティの予定が入っていたので、ホッとしました。


「では、西園寺さんと一緒ではダメですか?」


 樹里が折衷案を言いました。


「おお!」


 四人はその案に乗り、樹里が西園寺伝助に連絡しました。


「樹里さん、どうしましたか? 忘年会、ダメですか?」


 弱気な伝助のか細い声が言いました。


「違いますよ。テレビ局の方と一緒に忘年会をするのはどうですか?」


 樹里が尋ねると、


「ええ? テレビ局の連中とですか? 仕方ないですね。奴らにもいい顔しとかないと、後々、困りますからね」


 伝助はスピーカにされているとは知らず、大声で言いました。


(西園寺ーッ! 覚えてろよ!)


 更に四人を怒らせてしまう伝助です。


「わかりました。皆さんここにいるので、伝えておきますね」


 樹里は笑顔全開で通話を終えました。


 伝助が蒼ざめたのは言うまでもありません。


 めでたし、めでたし。

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