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樹里ちゃん、誕生日を祝われる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は十一月二十七日です。樹里の誕生日です。しかも日曜日なので、家族揃ってお祝いできます。


 今は亡き不甲斐ない夫の杉下左京も、さぞ喜んでいる事でしょう。


「俺は生きてるよ!」


 群馬県吾妻郡山神村にいる左京が地の文に切れました。


 左京はいない方がいいので、何も差し支えがないと思う地の文です。


「やめろー!」


 うすうす気づいてはいるので、血の涙を流して雄叫びをあげる左京です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


 


「よし、飾り付け終わり!」


 樹里の姉の璃里が監督をして、樹里の娘の瑠里達と、璃里の娘の実里達を総動員して、リヴィングルームとキッチンを色とりどりのデコレーションで飾りました。


「見事だね」


 樹里の実の父親の赤川康夫は目を細めて頷きました。


「そうですね」


 樹里の義理の父親で、母親の由里の現在の夫である西村夏彦が応じました。


「二人は何もしてないじゃないの」


 それを呆れて見ている由里ですが、自分も何もしていません。


「何だって?」


 氷点下の声で背後から言われたので、地の文は全部漏らしてしまいました。


「こういう肝心な時に、左京さんがいないんだから」


 璃里は腕組みして不満を言いました。


「仕方ないじゃないか。事件に巻き込まれて、村から他の市町村に行く唯一の吊り橋が崩落事故で通れなくなってしまったんだから」


 璃里の夫の竹之内一豊が言いました。


「報酬が百万円らしいから、許してあげなよ、璃里」


 由里がニヤニヤして言いました。由里は左京が璃里に惚れているのを知っているのです。


「違うぞ!」


 また山神村から地の文に抗議する左京です。


「しかも、左京さんを探しに行った坂本龍子弁護士が一緒にいるらしいのよ。どういうつもりなのかしら?」


 璃里は左京が不倫しているのを知っているのです。


「不倫はしてねえよ!」


 またしても切れる左京です。


「樹里、もう入って来ていいよ」


 由里は樹里自身は何とも思っていないのに何故か左京に怒っている璃里を尻目に、廊下に出て待っている樹里を呼びました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じて、入って来ました。


「お姉さん、ありがとうございます。とても綺麗ですね」


 樹里は飾り付けを見てお礼を言いました。


「まあ、実際に飾ったのは、娘達だけどね」


 璃里は苦笑いをして、瑠里達を見ました。


「ありがとう、みんな」


 樹里は笑顔全開で瑠里達にお礼を言いました。


「ママ、お誕生日おめでとう!」


 瑠里が代表して花束を渡しました。


「ママ、おめでとう」


 冴里と乃里が言いました。


「おででとう!」


 萌里が言いました。


「樹里おばさん、おめでとう」


 実里と阿里が言いました。


「ありがとう」


 樹里は涙ぐんで笑顔全開で言いました。


「樹里、おめでとう。御徒町のみんなは、いつまでも若くて羨ましいよ」


 康夫が言いました。


「ありがとう、お父さん」


 樹里が康夫に抱きつきました。


「樹里ちゃん、おめでとう」


 何かを期待した顔の夏彦が言いましたが、


「ありがとうございます、お義父さん」


 樹里は笑顔全開で言っただけで、抱きついてくれませんでした。


「残念そうな顔してるんじゃないよ」


 それに気づいた由里が夏彦の脇を思い切りつねりました。


「いでで! 痛いよ、由里さん!」


 涙目で由里を見る夏彦です。


「さあ、バースデーケーキよ。樹里、一気に吹き消してね」


 璃里と実里と瑠里が直径三十センチ程の白いホールケーキを持って来ました。中央には「Happybirthday」と描かれたホワイトチョコレートのプレートがあります。縁に苺が飾られ、その内側にろうそくが年の数はありませんが、たくさん火が点いた状態で立てられています。


「では、消灯」


 璃里が部屋の明かりを消しました。ろうそくの明かりだけになった部屋は幻想的です。皆の影が炎の揺れに応じて、ゆらゆらと動きました。


「ふうっ!」


 樹里が一気にろうそくの火を吹き消すと、部屋は真っ暗になりました。


「はい、ハッピーバースデー!」


 璃里が素早く明かりを点けて言いました。


「ハッピーバースデー!」


 皆が口々にいい、瑠里達がクラッカーを鳴らしました。萌里が驚いて泣き出してしまいました。


「萌里、ごめんなさいね。驚いたよね」


 樹里がすぐに抱き上げると、萌里は安心したのか、泣き止みました。


「ごめんね、萌里」


 瑠里と実里が萌里に近づきました。


「おばさんて、いくつになったの?」


 実里が訊きました。


「実里、女性に年を訊くなんて、失礼よ」


 次に訊かれそうな予感がした璃里がたしなめました。


「うるさいわね!」


 図星を突かれた璃里が地の文に切れました。


「三十二歳ですよ」


 樹里は笑顔全開で即答しました。由里と璃里は顔を見合わせました。


(樹里って、そういうの、全然気にしないタイプなのよね)


 璃里は苦笑いしました。


「そうなんだ」


 実里は目を見開いてから、璃里を見ました。すると璃里が鬼の形相で睨みました。


「ひっ!」


 実里は訊いてはいけないのだと悟り、俯きました。


「ママは何歳なの?」


 阿里が臆面もなく尋ねてしまいました。実里はギョッとし、樹里は笑顔全開です。


「ひ、み、つ」


 璃里は顔を引きつらせて言いました。


「三十五歳だよ」


 由里がニヤニヤして言いました。


「お母さん!」


 璃里が由里を睨みましたが、由里は顔を背けて知らんぷりをしました。


「私のクラス、お母さんが一番若いんだよ。すごく自慢のお母さんなんだよ」


 実里が何とか場をなごませようとして言いました。


「実里、ありがとう」


 璃里は実里の心遣いに気づき、優しく抱きしめました。


「えへへ……」


 照れ臭そうに笑う実里です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 めでたし、めでたし。

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