樹里ちゃん、引き続きモデルに逆恨みされる
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
「御徒町樹里ッ! 彗星だけではなく、可愛い子分達までも誑し込んで!」
売れないモデルの貫井美優は更に樹里に逆恨みを深めていきました。
「売れないモデルじゃないわよ!」
正確な情報を伝えたはずの地の文に切れるみゆゆです。
(こうなったら、パパにお願いして、芸能界から追い出してあげるわ!)
まるで大村美紗のような顔でニヤリとするみゆゆです。
「また誰かが私の悪口を言っているみたいな気がするけど、幻聴なのよ!」
どこかで雄叫びをあげる上から目線作家です。
「ああ、パパ? みゆゆよ。お願いがあるんだけど……」
みゆゆは早速「パパ」に電話をしました。
その頃、樹里はいつものように五反田邸に出勤していました。
そして庭掃除をしていた時です。
「樹里さん、川崎彗星君とキスしたんですって?」
ミーハー代表の目黒弥生が涙目で尋ねました。
「そうですよ」
樹里は笑顔全開で応じました。
弥生はその応じ方にひどくショックを受けました。
ああ、樹里さんの唇は私だけのものなのに!
「違うわよ!」
当たらずといえども遠からずの地の文の妄想に顔を赤らめて切れる弥生です。
「どんな感じでした? 柔らかかったですか?」
下世話な顔で更に追求する弥生です。
「固かったですよ」
樹里は笑顔全開で予想に反した事を言いました。
「え?」
弥生はまたショックを受けました。
(彗星君の唇、固いの? そんな……。もしかして、樹里さん、何かと間違っているのでは?)
弥生はあらぬ空想を繰り広げて、さっきよりもっと赤くなりました。
「はっ!」
我に返ると、樹里は庭掃除を終えており、弥生は広い庭の真ん中にぽつんと立ってました。
「樹里さん、置いて行かないでくださいッ!」
泣きながら、玄関へと走る弥生です。
「ねえ、どうしたの、ボーッとして?」
みゆゆは久しぶりに恋人の川崎彗星とドライブデートをして、湘南の海に来ていました。
「いや、別に……」
川崎は作り笑顔で応じました。
「もしかして、御徒町樹里の事を考えていたの?」
みゆゆの顔が凶悪になりました。川崎はみゆゆから顔を背けて、
「違うよ」
みゆゆは歯軋りして、
「絶対そうでしょ!? あんな三十超えた年増のどこがいいのよ!?」
川崎の耳元で叫びました。
「うるさいよ! 違うって言ってるだろ!」
川崎はみゆゆを睨みつけて、
「でも、樹里さんの事を三十超えた年増とか言うのは許さないぞ」
みゆゆは川崎の目が本気なので、ビクッとしました。
「ホントの事でしょ? 年増は年増よ!」
みゆゆはビビりながらも更に言いました。
「樹里さんが年増なら、美優は化粧妖怪だろ! 樹里さん、全然お化粧していないんだぞ」
川崎は美優ゆの襟首を掴んで言いました。
「え?」
みゆゆはギョッとしました。
(お化粧をしていない? そんなバカな……。お化粧していないのに、あんなに若く見えるの?)
みゆゆも樹里とバラエティ番組で共演しているので、樹里の肌艶の良さは知っています。
「お前は化粧で誤魔化しいるだけで、すっぴんになったら、樹里さんより老けて見えるだろ。それなのに樹里さんを年増だなんて、お門違いも甚だしいんだよ!」
とうとう川崎は我慢できなくなり、本音を言ってしまいました。
「やっぱり……。御徒町樹里に心を奪われているのね? もう私とは付き合うつもりはないんでしょ?」
みゆゆは涙ぐんで訊きました。
「ああ。樹里さんに嫉妬して、本性を剥き出しにしたお前は、とても醜いよ。顔がどうとかじゃない。お前は心が狭くて、醜いんだ」
川崎の言葉にみゆゆは一瞬言葉が出ませんでしたが、
「ふん。その御徒町樹里も、もうすぐ芸能界から消えるわ。パパに頼んだから」
「何だって?」
川崎の顔が引きつりました。みゆゆが言う「パパ」とは、芸能事務所の最高峰であるレッドドラゴンの社長である道頓堀定満なのを川崎も知っているのです。
「私はパパのお気に入りなの。だから、パパは何でも言う事を聞いてくれるの」
みゆゆはまた大村美紗のような顔になりました。
「更に悪口が聞こえるけど、空耳なのよ!」
またしても幻聴と戦いながら叫ぶ大村美紗です。
「お前、とことん腐ってるな。今日限りで俺達はおしまいだ」
川崎はみゆゆを置いて、車で走り去りました。
「終わるのはあんたもよ、彗星。あんたもパパに言って、芸能界から追放してもらうんだから!」
みゆゆは泣きながら言いました。
「バカ……」
みゆゆは川崎が行ってしまった事を悲しみました。
みゆゆはトボトボと国道を歩き始めました。その時、スマホが鳴りました。
「パパ? 早かったわね。もう終わったの?」
みゆゆは涙を拭って尋ねました。
「すまん、みゆゆ。御徒町樹里さんだけはダメだ。あの人の所属事務所を知らんのか?」
道頓堀の声が言いました。
「え? 知らないけど? パパの力でどうにかならない事務所なんて、日本にないんでしょ?」
みゆゆはパパの弱気な言葉に目を見開きました。
「御徒町樹里さんは、現在フリーなんだが、その後ろ盾がとんでもないんだよ」
道頓堀の声が謎めいた事を言いました。
「え? どういう事?」
意味不明な状態のみゆゆは首を傾げました。でも、全然可愛くありません。
「うるさいわよ!」
絶妙なタイミングでチャチャを入れた地の文に切れるみゆゆです。
「五反田六郎。あの五反田グループのトップだ」
道頓堀の声が更に弱気に聞こえました。
「えええ!?」
いくら無知が服を着て歩いていると言われたおバカなみゆゆでも、五反田氏の名前は知っていました。
「そういう事で、みゆゆの頼みは聞いてあげられない。すまん」
道頓堀は通話を終えました。
「ひいいい!」
みゆゆはとんでもない事をしようとしている事に気づきました。
(私が芸能界を干されてしまう!)
みゆゆはタクシーを拾うと、急いで東京に戻りました。
(取り敢えず、手土産持って謝罪だ!)
みゆゆは銀座で高級メロンを買うと、樹里の勤務先を調べ、五反田邸へと向かいました。
「申し訳ありませんでした!」
みゆゆは五反田邸の玄関の車寄せで土下座をしました。
「そうなんですか?」
樹里はみゆゆの土下座の理由がわからないので、首を傾げました。
「どちら様ですか?」
弥生が顔を引きつらせて訊きました。
「お友達の貫井美優さんですよ」
樹里が笑顔全開で言ったので、みゆゆは号泣しました。
(樹里さん、一生ついていきます!)
また信者が増えたと思う地の文です。
めでたし、めでたし。