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樹里ちゃん、モデルに逆恨みされる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六朗氏の邸の専属メイドです。


 樹里は上から目線作家の大村美紗に懇願されて、彼女の最新作の「黄泉の国のシンデレラ」の映画に主演することになりました。


 そして、撮影は順調に進み、樹里はダブル主演の川崎彗星と何度もキスシーンを演じました。


 今は亡き夫の杉下左京が知れば、血の涙を流した事でしょう。


「俺は生きてるよ!」


 群馬県の山神村で地の文に切れる左京です。


「樹里ー!」


 そして、自分の妻が、イケメン俳優と濃厚なキスをしている事を知り、雄叫びをあげる左京です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。




「いい、あんた達。御徒町樹里を誘拐して、ちょっと怖い目に遭わせて。そしたら、デートしてあげるから」


 モデルの貫井美優ぬくいみゆは、恋人である川崎が樹里とキスを何度もしただけではなく、自分と別れて樹里と付き合おうとしていると思い込み、良からぬ連中を集めて、怖い事を考えていました。


「はい、あねさん」


 ゴツい身体をした五人の男達が、みゆゆこと貫井美優にヘラヘラしながら応じました。


「いい返事だねえ」


 みゆゆはVネックの胸元を無理に強調して谷間を男達に見せました。


「でへへ……」


 それを見て、鼻の下をだらしなく伸ばすバカ共です。

 

 


 そして、月曜日になりました。樹里はいつものように笑顔全開で出勤します。


「樹里様と瑠里様と冴里様と乃里様と萌里様にはご機嫌麗しく」


 そこへ別の良からぬ集団が現れました。


「我らは正義と愛に生きる善良な集団です!」


 地の文の説明に抗議する昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里は一人でJR水道橋駅へと向かっていました。


「お待ちください、樹里様!」


 眼鏡男達は慌てて樹里を追いかけました。


「御徒町樹里だな?」


 樹里達が水道橋駅の近くまで来た時、電柱の陰からみゆゆの手下共が現れました。


「何奴!?」


 眼鏡男達が立ちはだかりましたが、一瞬のうちに叩きのめされ、側溝に落とされてしまいました。


「いいえ、違います」


 樹里は笑顔全開で告げると、唖然とする手下達の間を通り抜け、駅へと歩いて行きました。


「嘘を吐くな! お前が御徒町樹里だって事は、わかってるんだよ! とぼけた事抜かしやがると、只じゃおかねえぞ!」


 手下のリーダーらしきバカそうな顔をした男がおぞましい顔で叫びました。


「では、いくらなら置いてくれるのですか?」


 樹里は更に笑顔全開でリーダーの感情を逆撫でするような事を他意なく言いました。


「ああ、もう、うるせえ! お前は御徒町樹里だよな!?」


 リーダーはイライラして尋ねました。


「いえ、私は杉下樹里です」


 樹里は笑顔全開で反則技を繰り出しました。


「禅問答してるんじゃねえんだよ! どっちでもいい、ちょっと顔を貸してもらおうか?」


 リーダーは血の涙を流しながら言いました。


「顔は貸せませんが、お金ならお貸しできると思います」


 樹里は更に無意識のボケをかましました。


「そういう事を言ってるんじゃねえんだよ! 一緒に来いって言ってるんだ!」


 リーダーは眩暈めまいがしそうなくらい大声を出しました。実際、クラクラしています。


「そうなんですか」


 樹里は側溝から眼鏡男達を助け出しながら応じました。


「ありがとうございます、樹里様」


 眼鏡男達は号泣しました。


「その前に、この方達にした事を謝罪してください」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「うるせえ! さっさと俺たちと来い!」


 リーダーは樹里の襟首を掴もうとしました。その瞬間、


「どわああああ!」


 リーダーは宙を舞い、背中から地面に叩きつけられました。


「ひいい!」


 それを見ていた他の手下達は腰を抜かしました。樹里が身長差が五十センチ以上あるリーダーを軽々と背負い投げしたのを見たからです。


「謝罪してください」


 樹里はそれでも笑顔全開でリーダーに言いました。


「は、はひ……」


 恐ろしいものを見るような目で樹里を見て、リーダーは言いました。

 

「どうかしましたか?」


 付近の交番から制服警官が三人駆けつけました。


「なんでもありません。側溝に落ちた人達を助けているところです」


 樹里は眼鏡男達をタオルで拭きながら言いました。


「ああ、貴女は、御徒町樹里さんではないですか! いつもお世話になっています!」


 警官達は樹里に気づいて敬礼しました。


「それで、そこに寝ている男は何ですか?」


 警官の一人が尋ねました。


「何でもありません!」


 警察が出てきたので、みゆゆの手下達は慌てて逃げて行きました。


「何者ですか、あいつらは?」


 警官が尋ねましたが、


「わかりません」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「では、仕事があるので」


 樹里は警官達に会釈すると、駅へ向かいました。


「失礼致します」


 眼鏡男達もタオルで顔を拭いながら、樹里を追いかけました。


 警官達は唖然として、顔を見合わせました。


 


「何やってんのよ、あんた達は! 大の男が、揃いも揃って!」


 作戦失敗を報告されたみゆゆは激怒しました。でも、セリヌンティウスは関係ありません。


「申し訳ありません、姐さん。御徒町樹里が、思いの外、強かったものですから、その……」


 手下のリーダーはみゆゆの剣幕に震えながら言いました。


(御徒町樹里、次はこうはいかないんだから! 覚悟してなさいよ!)


 みゆゆは歯軋りして悔しがりました。


(よく見ると、御徒町樹里さんの方が可愛い)


 手下達はみゆゆではなく、樹里について行こうと考えていました。


 こうして、みゆゆは手下を失ったのでした。


 めでたし、めでたし。

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