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樹里ちゃん、上から目線作家の映画の打ち合わせにゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は樹里は大御所気取りの上から目線作家の大村美紗の全く売れていない新作小説を爆売れさせるために企画された映画の打ち合わせに行く事になっています。


「また誰かが私の悪口を言っているけど、幻聴なのよ!」


 撮影スタジオに向かうリムジンの中で叫ぶ美紗です。運転手は怯えています。




 数日前の事です。


「樹里さん、ちょっとお話いいですか?」


 庭掃除をしている時に、もう一人のメイドの目黒弥生に言われました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「あの、樹里さんのお姉さんて、性格変わりました?」


 弥生は苦笑いをして尋ねました。樹里の姉の璃里が、樹里が撮影所に行く時、代わりに来ているのです。


「そんな事はないと思いますよ」


 樹里は更に笑顔割増全開で言いました。


「すっごく怖いんですよお。階段の手すりに埃が残っていると、指でこすってみせて、『これで掃除をしたと言えるのですか?』って言われたんですう」


 弥生はその時の事を思い出したのか、涙ぐみました。


「では、姉に来るのをやめてもらいますか?」


 樹里が悪気のない笑顔全開で言いました。


「それも困りますう。じゃあ、いいですう」


 弥生は泣きながら廊下を駆け去りました。何かのCMの真似をしていると思う地の文です。


「そうなんですか?」


 樹里は首を傾げて応じました。




 そして、時は現在に戻ります。


 樹里は世田谷区の西のはずれにある都内最大の室内スタジオに着きました。


 五反田邸からは近いので、樹里はいつも通りの通勤です。


「では、樹里様、お帰りの時にまた」


 よって、昭和眼鏡男と愉快な仲間達は降板を免れました。


「そのような不吉な事を言わないでください!」


 それなりに気にしている眼鏡男が地の文に切れました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。眼鏡男達は涙を拭いながら立ち去りました。


「おはようございます、樹里さん。こちらへどうぞ」


 樹里の対応に慣れている映画プロデューサーの榊原さかきばらとおるが出迎えました。


「おはようございます。本日はよろしくお願いします」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 榊原は樹里を伴って廊下を進みました。


「樹里さん、お待ちしていました」


 会議室のドアの前に立っていた監督を務める板倉いたくらあつしがNGワードを言ってしまいました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里は深々と頭を下げました。


「いや、その、そういうつもりで言った訳ではないので……」


 板倉監督はアタフタしました。彼は榊原に睨まれました。


 樹里は二人と共に会議室に入りました。


「樹里さん、ご機嫌よう」


 すると、先に来ていた美紗が会議テーブルの上座にある肘掛け付きの回転椅子に踏ん反り返って座っていました。


 樹里が来てくれたのですから、立ち上がって出迎えるべきだと思う地の文です。


 常識がないバアさんです。


「誰? 今、絶対に私の悪口を言った人がいるでしょ!?」


 美紗は図らずも立ち上がって天井を見渡しながら叫びました。


「先生、お疲れですか? 誰も何も言っていませんよ」


 榊原が揉み手をしながら美紗に近づきました。


「そう? そうね。誰も何も言っていないわよね?」


 美紗は作り笑顔で椅子に戻りました。


「資料を配って」


 板倉監督の指示で、助監督の若い女性がA4のコピー用紙を数枚ずつ、全員に配りました。


 榊原、板倉監督、樹里の順に椅子に座り、資料を手に取りました。


 決して、某団体との関係を釈明するペライチの紙ではありません。


「樹里さんは原作の小説を読まれましたか?」


 板倉監督が尋ねました。


「はい。三回程読みました」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「そうですの。それは嬉しいですわ。で、犯人はわかりましたか?」


 美紗はったままで訊きました。それを見て顔を引きつらせる榊原と板倉です。


「はい。冒頭の登場人物が全員出て来たところでわかりました」


 樹里は笑顔全開、悪気なし全開で言いました。


「そうなんですか」


 美紗は顔を引きつらせて、樹里の口癖で応じました。


(登場人物が勢揃いしたところでわかる訳ないでしょ! いい加減な事を言わないで欲しいわ)


 美紗はそう思いましたが、樹里に映画に出て欲しいので、グッと我慢しました。


「具体的にはどこでわかりましたか?」


 板倉監督が更に顔を引きつらせて尋ねました。すると樹里は板倉を見て、


「名前でわかりました。メイドの半沢仁美さんが犯人だと」


「え?」


 美紗がギクッとしました。


(まさか……)


 嫌な汗をしこたま垂れ流す美紗です。


「ああ、確かに犯人はその女性ですが、どうしてわかったのですか?」


 榊原も興味をそそられて訊きました。


「先生は犯人にそれとわかるように名前を付けているのです。半沢仁美さんの名字と名前の一文字目を読むと、『はんにん』と読めるのです」


 樹里は笑顔全開で言いました。美紗の汗が酷くなりました。


「ああ、ホントだ」


 榊原も板倉も気づいていなかったようです。類は友を呼ぶとはこの事です。


「うるさい!」


 美紗と榊原と板倉が同時に地の文に切れました。


「これは、私の親友で、先生の姪御さんでもある松下なぎささんに教えてもらったのです」


 樹里は更に悪気なく笑顔全開で告げました。


「そうなんですか」


 美紗となぎさの確執は知っている榊原と板倉は引きつり全開で応じました。


「きいいい!」


 美紗はなぎさの名前を聞いた途端に、雄叫びをあげ、卒倒してしまいました。


「先生!」


 榊原と板倉が美紗に駆け寄りました。


「なぎさ、なぎさ、なぎさ……」


 床に倒れて譫言うわごとを言う美紗です。


「心配ありません。脈拍、呼吸共に正常です」


 看護師の顔になった樹里が美紗をて言いました。


「そうですか」


 榊原と板倉はホッとして顔を見合わせました。


 めでたし、めでたし。

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