表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
719/839

樹里ちゃん、上から目線作家に懇願される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、樹里は上から目線作家の大村美紗の頼みで、新作発表会に出席しました。


 地の文の予想通り、樹里の人気にあやかって、人はたくさん集まったのですが、中身がどうしようもない凡作で、売上には結びつきませんでした。


 美紗の作品の中で、群を抜いて売れなかった記録を叩き出してしまったのです。


「あああ!」


 美紗はショックのあまり、寝込んでしまいました。


 いよいよ引退かと地の文は期待しましたが、


「そうよ! 樹里さんを主役にして、映画化すれば、きっと大ヒットするわ! そうすれば、小説もそれによって売り上げが伸びるはず!」


 捕らぬ狸の皮算用を始める美紗です。


「それはいい考えかもしれません!」


 美紗の作品をあてにしていた編集長も乗り気です。


「いいですね。それでいきましょう」


 そこに居合わせたジャパンテレビのゼネラルプロデューサーの一手いって九蔵きゅうぞうがけしかけました。


「よろしくお願いしますわ」


 すっかりその気になってしまった美紗は、大ヒットを夢見ました。


 夢に終わると思う地の文です。


 


 その頃、樹里はいろいろ省略して、五反田邸に着いていました。


「それではお帰りの時にまた」


 出番の少ない昭和眼鏡男と愉快な仲間達は覇気のない声で告げると、去って行きました。


 全く出番のない不甲斐ない夫よりはマシだと思う地の文です。


「うるせえ!」


 どこかで地の文に切れる杉下左京です。

 

「ありがとうございました」


 樹里は笑顔全開で深々と頭を下げました。


「樹里さーん!」


 そこへ元コソ泥が走って来ました。


「やめて!」


 昔の事を時々思い出す地の文に血の涙を流して切れる目黒弥生です。


「おはようございます、弥生さん」


 樹里は笑顔全開で応じました。弥生は苦笑いして、


「おはようございます。先程、大村先生からお電話がありまして、今からこちらに見えるそうです」


「そうなんですか」


 樹里はまた笑顔全開で応じました。


 


 そして、樹里達が庭掃除を終えて、玄関に戻った時、黒塗りのリムジンが車寄せに来ました。


「樹里さん、ご機嫌よう」


 後部座席から現れたのは、美紗でした。


(クソババア、何しに来たんだよ?)


 弥生は顔は笑顔でも、心の中では美紗をののしっていました。


 早速、美紗に教えようと思う地の文です。


「よしなさいよ!」


 往年のツッコミ芸人のような言葉で地の文に切れる弥生です。


「あら、裕子さん、ご機嫌よう」


 美紗はまた弥生の名前を間違えました。


「双子の演歌歌手じゃないです!」


 弥生はあまりにも昔の名前で出ています的な間違いをした美紗に抗議しました。


「樹里さん、実はお願いがあって来ましたのよ」


 弥生をガン無視で樹里に話している美紗です。


「そうなんですか」


 樹里は更に笑顔全開で応じました。


(クソババア、許さねえ!)


 弥生は憎しみの目を美紗に向けました。


 


 美紗はいつものように応接間に通され、紅茶を出されました。


「まあ、今日はアールグレイなのね」


 美紗はカップを手に取って香りを嗅いで言いました。


「いえ、スリランカのウバです」


 樹里は笑顔全開で忖度なしの訂正をしました。


「そ、そんな事わかっていたわよ! 貴女を試したのよ!」


 嫌な汗をしこたま掻きながら、美紗は苦しい言い訳をしました。


 しかも、アールグレイは茶葉の名ではなく、フレーバーティの事なので、美紗は二重に間違えていると指摘する地の文です。


 知ったかぶりをすると恥を掻くという良い例です。


「また私の悪口を言っている人がいるわ! きっと、さっきの双子のメイドね! 樹里さん、すぐに呼んでくださいな!」


 美紗は自分の無知を棚に上げて、何の罪もない弥生を犯人扱いしました。


 さすが、他の推理作家の小説を読んでも、全然犯人がわからないだけの事はあると思う地の文です。


「ほら、またあのメイドが私の悪口を言っているわ! 早く呼んでちょうだい!」


 美紗はソファから立ち上がって叫びました。


「誰も何も言っておりませんよ、大村様」


 樹里は笑顔全開で告げました。美紗はバツが悪くなったのか、


「そ、そうみたいね。取り乱してしまいましたわ」


 芸人みたいな事を言いました。


「樹里さん、先日出席してもらった新作の発表会なのですけど、その映画化が決まりましたの」


 美紗はソファに座って踏ん反り返りました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「それで、貴女にその主人公を演じさせてあげる事を決めましたので、お伝えしておきますわ。ありがたいでしょ?」


 美紗は樹里がすぐに承諾すると思って言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「決まりね。早速、いつから撮影を開始するか、話しましょうか」


 美紗が言うと、


「旦那様に許可をいただかないと、お返事できません」


 樹里は思ってもいない事を告げたので、


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で応じてしまう美紗です。そして、


「では、すぐに五反田さんに確認してくださいな。撮影はすぐにでも入りたいのよ」


 樹里を急かしました。


「旦那様はこの時間ですと、会議中で、お電話にお出になりません」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「どれくらいかかりますの?」


 相手が五反田氏なので、美紗は微笑んで尋ねました。他の人間だったら、すぐに怒り出していると思う地の文です。


「今日中には終わると思います」


 樹里が笑顔全開で予想の遥か斜め上の成層圏の答えを言ったので、美紗は卒倒しそうになりました。


「きょ、きょ、今日中!?」


 美紗はソファに沈み込んで、


(そんなにかかったら、撮影のスケジュールを変更しないといけないわ。どうしましょう?)


 焦り出していました。樹里は美紗が慌てているのを見て、五反田氏の携帯電話にかけてみました。


「どうしたね、樹里さん?」


 意外にも五反田氏はワンコールで出ました。


「旦那様、お時間よろしいでしょうか?」


 樹里は美紗をチラッと見てから訊きました。


「大丈夫だよ。会議は終わったから」


 五反田氏の声が聞こえたらしく、美紗はソファから立ち上がって、樹里に近づきました。


「大村様が、私に映画の主演をするようにおっしゃっています。よろしいでしょうか?」


 樹里が尋ねました。


「ああ、構わないよ。邸の事は目黒さんがいれば大丈夫だろう?」


 すぐに承諾する五反田氏です。


「おおお!」


 美紗はガッツポーズをしました。


(えええ!?)


 いつものようにドアで聞き耳を立てていた弥生は、大ピンチなのを知り、慌てていました。


 はてさて、どうなりますか? 楽しみな地の文です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ