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樹里ちゃん、上から目線作家の新作発表会に出席する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。樹里は上から目線の推理作家である大村美紗の招きにより、彼女の新作発表会に出席する事になっています。


 どうせ大して面白くもなく、目新しくもない凡作だと思うので、やめた方がいいと思う地の文です。


「また誰かが私の悪口を言っているわ!」


 どこかで叫んでいる美紗です。


 地の文の心配も虚しく、心優しい樹里は発表会が開かれる大日本帝国ホテルへ向かいました。


「そうなんですか」


 樹里はいつものように笑顔全開です。


「樹里様、お帰りの時にまたァッ!」


 ホテルの車寄せで警備員に確保された昭和眼鏡男と愉快な仲間達が叫んでいました。


「御徒町樹里様ですね。お待ちしておりました」


 ホテルの支配人と出版社の編集長がロビーで出迎えました。


「お待たせして申し訳ありません」


 初対面の人がやらかす事にいつも通りに深々と頭を下げて応じる樹里です。


「いえ、そういう意味で言ったのではありませんので……」


 アタフタして応じる支配人と編集長です。


「あら、樹里さん、いらしてくださったのね。ありがとう」


 招待したくせにそんな事を言って出迎える傲岸不遜な美紗です。新作が全く売れなければいいのにと思う地の文です。


「また誰かが私の悪口を言っているわ! 出てらっしゃい!」


 美紗はあたりの見渡しながら叫びました。


「誰も何も言ってないわよ、お母さん」


 それをたしなめる娘の内田もみじです。今ではもみじの方が美紗より売れっ子作家なのです。


「やめて!」


 美紗を刺激するような事を言い続ける地の文に切れるもみじです。


「では、よろしくお願いします」


 もみじは美紗を強引に引っ張って行きました。


「樹里さん、こちらへどうぞ」


 支配人と編集長が樹里を来賓の控え室に案内しました。


「樹里さん、お久しぶりです」


 そこには、もみじの夫でホームセンター最大手の御曹司でもある内田京太郎がいました。


「お久しぶりです、京太郎さん」


 樹里は笑顔全開で挨拶しました。


「やはり、なぎささんとはご一緒ではないのですね?」


 京太郎は苦笑いをして言いました。


「なぎささんは来ていないのですか?」


 樹里は笑顔全開で尋ねました。京太郎は控え室のドアを閉め直してから、


「ええ。義母ははは招待状を送らなかったみたいなのですが、妻が内緒で知らせたのです。それを義母が知って、妻と揉めまして……。僕達は仲直りしてほしいのですが、義母は全くその気はないですし、なぎささんは仲が悪いと思っていないので、どうにもなりません」


 溜息混じりに話しました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。その時、ドアがノックされました。


「どうぞ」


 京太郎が応じると、ドアが開いて、ホテルの従業員が顔を出しました。


「式が始まりますので、大広間の方へご移動願います」


 従業員は頭を下げて告げました。


「わかりました。では樹里さん、行きましょう」


 京太郎は樹里に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 樹里と京太郎は従業員の先導で大広間へ行きました。


 そこには、数多くの出版社の人やテレビ局、新聞社、インターネットメディアの記者などがいました。


 美紗が記者達と談笑していましたが、


「あ、樹里さん!」


 樹里が入って来たのを知ると、美紗を振り切るようにして樹里に全員が駆け寄りました。


「きいいッ!」


 美紗はあからさまに悔しがりましたが、


「大村先生、式が始まりますので、壇上へお願いします」


 司会進行役の女性が告げたので、


「わかりました」


 いつものように仰け反って応じると、壇上へ上がりました。


 司会の女性、どこかで見た事があると思ったら、ジャパンテレビのおまんじゅうアナです。


「浦見益代です!」


 ふくよかなイメージが先行した地の文に切れる浦見アナです。


 どうやら、テレビ夕焼は美紗に縁を切られたようです。


「やめろ!」


 どこかで地の文に抗議する指紋のないプロデューサーです。


「では、日本が世界に誇る推理作家である大村美紗先生の最新作の発表会を開催致します」


 浦見アナが司会席で言いました。美紗は壇上中央に設置された女王が座るような大きな椅子に腰掛けています。


 如何にも悪役の親玉な雰囲気が醸し出されています。


「誰が◯◯よ!」


 コンプライアンス的にまずい発言をしたので、自主規制する地の文です。


 記者やカメラマン達が仕方なく美紗に注目しました。


「頼むからやめてください」


 真実を白日の下に晒してしまう地の文に懇願する一同です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず樹里は笑顔全開です。


「大村先生の最新作のタイトルは『黄泉の国のシンデレラ』です!」


 浦見アナが言うと、天井から垂れ幕が下げられました。そこには「黄泉の国のシンデレラ」と大きく描かれていました。


「先生、この作品の見どころをお教えください」


 浦見アナがにこやかに尋ねました。すると美紗はますます仰け反って、


「タイトルの通り、舞台は黄泉の国への入り口の黄泉比良坂よもつひらさかがあると言われている山陰地方です。そこで、薄幸の美女を巡る連続殺人事件が起こります」


「なるほど。非常にその先が気になりますね」


 浦見アナが言うと、


「それ以上は読んでのお楽しみですわ」


 美紗はそう言って高笑いしました。美紗が黄泉の魔物に見えてくる地の文です。


「ここで、サプライズゲストのご登場です!」


 浦見アナが告げると、美紗はピクンとしました。


(聞いていないわよ。誰なの? まさか、まさか……)


 嫌な予感がして汗まみれになる美紗です。


「新作を心待ちにしていたわ、大村」


 現れたのは、美紗の師匠とも言うべき存在の大御所作家の加藤佐和子でした。


「えええ!?」


 予想と違う人物の登場にまさにサプライズする美紗です。


「でも、全然面白くなかったわ。犯人はすぐにわかってしまうし、登場人物はありきたりで個性がないし、致命傷なのは、探偵役の女性がロボットみたいな感じがするところね」


 辛口批評をズバズバされて、魂の抜け殻のようになってしまう美紗です。


「貴女、そろそろ引退して、あとは娘さんに託した方がいいわね」


 佐和子は美紗に近づくと、左の肩をポンポンと叩きました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


 


 翌日、スポーツ紙の一面トップは「推理作家大村美紗、師匠加藤佐和子に引導を渡される」でした。


 めでたし、めでたし。

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