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樹里ちゃん、上から目線作家の新作発表会に招待される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日も樹里は笑顔全開で出勤します。


「ママ、行ってらっしゃい」


 長女の瑠里が笑顔全開で言いました。彼女が晴れ晴れとしているのは、夏休みが終わり、樹里の監視が解けたからです。


「や、やめてよね、そういうこと言うのは!」


 真実を口にした地の文に切れる瑠里です。


「ママ、いってらっしゃい」


 次女の冴里も笑顔全開で言いました。彼女は瑠里と違って、夏休みにしくじりをしていないので、何も後ろめたい事はありません。


 只、樹里の親友の松下なぎさの長男の海流わたるのファーストキスを奪ったらしいという情報を掴んでいる地の文です。


「いいでしょ、べつに!」


 ムッとして地の文に切れる冴里です。開き直られると何も言い返せない地の文です。


「ママ、いってらっしゃい!」


 三女の乃里が笑顔全開で言いました。隣に笑顔全開の四女の萌里がいます。


「行ってらっしゃい」


 不倫が生きがいの不甲斐ない夫の杉下左京が言いました。


「不倫してねえし、生きがいじゃねえし!」


 地の文に切れる左京です。不甲斐ないのは認めるようです。


「では、行って参りますね」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「樹里様と瑠里様と冴里様と乃里様と萌里様にはご機嫌麗しく」


 そこへ昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。


「いつもありがとうございます」


 樹里は眼鏡男達にお礼を言いました。


「いえ、大した事はしておりませんので。お礼を言われるような事ではありません」


 眼鏡男は気取って言いましたが、すでに樹里は隊員達と共にJR水道橋駅を目指していました。


「樹里様、お待ちください!」


 涙ぐんで樹里を追いかける眼鏡男です。


「瑠里ちゃん!」


 そこへ瑠里のボーイフレンドの田村淳が集団登校の一団と共に来ました。でも、モモ神とは無関係です。


「あっちゃん!」


 瑠里は嬉しそうに淳に近づきました。


「いいなあ、おねえちゃんは」


 冴里は口を尖らせて言いました。大好きな海流は学区が違うので、違う小学校に行っているのです。


(ママにたのんでてんこうさせてもらおう)


 一計を案じる冴里ですが、下手の考え休むに似たりだと思う地の文です。


 いい事を思いついたと思っている冴里は、ニコニコしながら小学校へと向かいました。


「さあ、行こうか」


 左京は萌里を抱きかかえると、乃里に言いました。


「うん、パパ!」


 乃里は笑顔全開で左京と手を繋ぎ、歩き出しました。


(いつまで乃里は俺と手を繋いでくれるのだろう?)


 つい寂しい事を考えて、涙ぐんでしまう左京です。


「パパ、ないてるの?」


 乃里が尋ねました。


「いや、泣いてなんかいないよ」


 左京は慌てて顔を背けましたが、


「ないてたよ。キモい、パパ」


 乃里が言ったので、


「ううう……」


 項垂れてしまいました。


 


 樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。


「では樹里様、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼をして立ち去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は深々とお辞儀をしました。


「樹里さーん!」


 そこへいつものようにもう一人のメイドの目黒弥生が走って来ました。


「おはようございます、弥生さん」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「おはようございます。今日は、大村先生がお見えになるそうです」


 露骨に嫌そうな顔をして言う弥生です。


「嫌そうな顔なんかしてないわよ!」


 真実を述べた地の文に理不尽に切れる弥生です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「樹里さんにお願いがあるそうです」


 苦笑いをして告げる弥生です。


「そうなんですか」


 更に笑顔全開で応じる樹里です。


 


 樹里は着替えをすませてから、弥生と共に庭掃除を始めました。


 そして、一通り掃除を終えて玄関に戻ったところで、黒のリムジンが車寄せに入って来て停まりました。


「樹里さん、ご機嫌よう」


 後部座席から現れたのは、最近めっきり新作の構想がまとまらなくなった大村美紗でした。


「今、誰か私の悪口を言ったわね! どうしてこのお邸に来ると、悪口が聞こえるようになるのかしら!?」

 

 やや興奮気味に地の文に反応する美紗です。


「誰も何も言っておりませんよ」


 弥生が言いました。


「そんな事ないわ! はっきり聞こえたのよ! ねえ、樹里さんにも聞こえたでしょう?」


 美紗は樹里に同意を求めました。


「いいえ、何も聞こえませんでした」


 正直者の樹里はあっさり否定しました。


「そ、そうなの……」


 顔を引きつらせて応じる美紗です。


 


 そして、美紗はいつも通り、応接間に通され、ソファに腰を下ろしました。


「どうぞ」


 予想していた弥生があらかじめ用意していたダージリンティーを出しました。


「あら、気が利くわね、はるなさん」


 昔の名前で呼ばれた弥生は、


「私は目黒弥生です。目黒グループの後継者の祐樹の妻です」


 ドヤ顔で言いました。すると美紗は、


「あら、そう? でもね、もう少し嘘とわからない事を言った方がよくてよ、はるなさん」


 ドヤ顔で言い返して来ました。


「嘘じゃありません!」


 弥生はつい熱くなって言い返しましたが、


「はいはい」


 美紗は余裕を見せてもう相手にするつもりはないようです。


(クソババア、腹立つ!)


 弥生は樹里の手前、もうそれ以上言えないので、お辞儀をして応接間を出て行きました。


「やっと静かになったわね」


 美紗は弥生が出て行ったのを見届けてから、樹里を見ました。


「話があるので、かけてくださいな」


 美紗は樹里にソファに座るように指を差しました。


かしこまりました」


 樹里はソファに座りました。


「実は、私の推理小説の新作が出来上がりましたの」


 美紗はって言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「そこで、貴女をその発表会に招待して差し上げますわ。光栄でしょ?」


 美紗はますます仰け反りました。普通、「光栄でしょ?」とか自分から言うバカ者はいないと思う地の文です。


「聞こえたでしょ!? 今、絶対に私の悪口を言った人がいましたわよ!」


 美紗はソファから立ち上がって叫びました。


「何も聞こえませんでした」


 樹里は笑顔全開で否定しました。美紗は、


「もういいですわ! とにかく、招待状を送りますから、必ず出席してくださいな!」


 美紗は大股で歩き、応接間を出て行ってしまいました。樹里はすぐに美紗を追いかけました。


「ご機嫌よう、樹里さん!」


 美紗は素早くリムジンに乗り込むと、去ってしまいました。


「お気をつけて」


 樹里は深々と頭を下げて見送りました。


 波乱の予感はする地の文です。

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