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樹里ちゃん、瑠里の宿題を見る

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は樹里は有給休暇を取りました。


 長女の瑠里が、何度言っても宿題を進めるつもりがないからです。


「ママ、今日から一生懸命宿題をするから、お仕事に行って」


 次女の冴里との共同部屋で、瑠里は涙ぐんで懇願しましたが、


「ダメです。今日は一日ママが指導しますから、宿題を計画通りになるまで進めなさい」


 樹里は真顔全開で言いました。


 瑠里ばかりでなく、こっそり聞いていた冴里と不甲斐ない夫の杉下左京まで震え上がりました。


「はい!」


 瑠里は直立不動になって応じました。冴里も左京も直立不動になりました。


 こうして、瑠里は樹里の監視の下、朝食後七時から宿題を進める事になりました。


(おねえちゃん、ほんとにがくしゅうのうりょくがない)


 瑠里のふり見て我がふり直そうと考える冴里です。


 しかし、時間が経つにつれ、冴里は瑠里が羨ましくなっていきました。


(おねえちゃん、ずっとママといっしょ。ずるい)


 口を尖らせて瑠里を睨んでいる冴里を見て、


「冴里、パパとお出かけしようか?」


 左京が声をかけました。


「いや」


 たった二文字で父親を奈落の底に突き落とす冴里です。


「かはあ……」


 左京は血反吐を吐いてのたうち回りました。

 

「あ」


 左京は瑠里が助けを求める目でこちらを見ているのに気づきました。


(瑠里、助けてあげたいのは山々なんだが、無理だ)


 まるで警察の警察と呼ばれる監察官のような顔で瑠里を見守っている樹里の目をかいくぐって、瑠里を連れ出す事などできません。


 左京は瑠里に無言で首を横に振ってみせました。瑠里は悲しそうに顔を背けました。


(ああ、冴里に続いて、瑠里にも嫌われた……)


 がっくりと項垂れる左京です。


(ダメなパパ)


 それを見て呆れている冴里ですが、


「冴里は宿題を予定通りすませていますか?」


 いきなりの飛び火に顔を引きつらせる冴里です。


「す、すんでるよ」


 引きつったままの顔で樹里を見上げる冴里です。


「では、みせてください」


 樹里が真顔で言いました。


「は、はい」


 冴里は自分の机の引き出しからノートを取り出して樹里に渡しました。


「よくできていますね。冴里は今日の分をすませたら、自由にしていいですよ」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「はい、ママ!」


 冴里も笑顔全開で応じました。そして、すぐに本日分の宿題に取りかかりました。


「瑠里、自分の宿題に集中しなさい」


 樹里は冴里を見ていた瑠里に言いました。


「はい」


 瑠里は項垂れて宿題を進めました。でも、何日も溜め込んでいたので、午前十時近くになっても、全然予定の分が終わりません。


「終わったよ、ママ」


 冴里は本日分を済ませて、樹里に見せました。


「はい。では、冴里はパパとお出かけしていいですよ」


 樹里が笑顔全開で言うと、


「そうなんですか」


 若干引きつり気味に応じる冴里です。


(冴里……)


 それを見て項垂れる左京です。


「じゃあ、お出かけしようか、冴里」


 左京も顔を引きつらせて言いました。


「うん、パパ」


 棒読みで応じる冴里です。樹里が見ているので、左京と手をつないで出かけました。


(いいなあ、冴里)


 瑠里はまたそれを目で追ってしまい、


「瑠里」


 樹里の凍りつきそうな声にビクッとしました。


「冴里のように、毎日コツコツと宿題をすませておけば、ママもお休みする必要がありませんでしたし、貴女もこれ程長い時間机に向かう必要はありませんでした。わかりますね?」


 樹里は瑠里の視線まで腰を落として言いました。


「はい、ママ。ごめんなさい」


 瑠里は涙ぐんで頭を下げました。


「では、休憩にしましょう。好きなものをお飲みなさい」


 樹里が笑顔全開で告げたので、


「はい、ママ!」


 瑠里は涙を拭って笑顔全開で応じました。


 


 一方、左京と冴里は、公園で松下なぎさと海流わたる母子に会いました。


「わっくん!」


 冴里は大喜びしましたが、海流は顔を引きつらせました。


「お散歩ですか?」


 左京は、相変わらず目のやり場に困るゆるゆるのタンクトップと短めのショートパンツを着たなぎさに動揺していました。


「うん、そうだよ。左京さんも、今日は瑠里ちゃんとお散歩?」


 なぎさは全く悪気なく尋ねました。


「あの、冴里です。瑠里は樹里と宿題をしています」


 左京は苦笑いをして言いました。


「あれ、そうなんだ。瑠里ちゃんはいくつになるんだっけ?」


 なぎさは肩をすくめてから、更に訊きました。


「来月の十一日で十一歳です」


 左京は海流と遊具で遊び始めた冴里を見て言いました。


「ええ? もうそんな歳なの? それにしては小さくない?」


 なぎさも冴里を見て言いました。


「いや、ですから、あの子は冴里で、瑠里は家にいます」


 更に一段と顔を引きつらせて応じる左京です。


「何だ、そうなの。早く言ってよ、左京さん」


 なぎさは小首を傾げて言いました。


(激かわだ)


 左京はなぎさと不倫したいと思いました。


「思ってねえよ!」


 根も葉もない事から凄まじい捏造をする地の文に切れる左京です。


(相変わらず、不思議ちゃん全開だな)


 嫌な汗を掻いて苦笑いをする左京です。




 お昼近くになり、瑠里はようやく宿題から解放されました。


「明日から、毎日するのですよ、瑠里」


 樹里はまた真顔全開で告げました。


「はい、ママ」


 瑠里は引きつり全開で応じました。


 きっと瑠里は、某国民的アニメの長男の悪影響を受けているのだと思う地の文です。


 また来年の夏休みには、同じ事を繰り返すと思う地の文です。


「そんな事ないわよ!」


 無責任な発言をした地の文に切れる瑠里です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


 めでたし、めでたし。

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