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樹里ちゃん、左京の家のお墓へゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は八月十三日で、迎え盆です。


 樹里達は不甲斐ない夫であり、甲斐性なしの父親でもある杉下左京の家のお墓へ行く事になりました。


「ううう……」


 ダブルでその通りなので項垂れるしかない左京です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里と長女の瑠里と次女の冴里は笑顔全開です。


「そーなんですか」


 三女の乃里も笑顔全開です。四女の萌里は睡眠全開で樹里に抱かれています。


「出発しますよ」


 樹里がミニバンの運転席で言いました。


「はい」


 助手席で左京が小さく頷きました。


 萌里と乃里はチャイルドシートに乗り、中部座席に、瑠里は二人の見守り役として間に座り、冴里は後尾座席に座り、時々停車中にトランクに乗せられたゴールデンレトリバーのルーサのケージの見守りをしています。


 要するに何も役に立っていないのは左京だけです。


「うるさい!」


 細かく指摘する地の文に切れる左京です。


 やがて、ミニバンは関越自動車道に乗り、埼玉県を目指しました。


「早めに出たので、空いていますね」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「そうだな。樹里、疲れたら交代するからな」


 左京が微笑んで告げると、


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開でやんわり断わりました。


 いくら番組の賞品としてもらったものだとしても、大事に乗りたいのです。


「かはあ……」


 図星を突かれた左京は血反吐を吐きました。


(確かに樹里は俺より運転うまいよな……)


 左京は項垂れて思いました。


 


 そして、ミニバンは関越自動車道を降り、国道を西へと進みました。


 次第に周囲は人家が減り、鬱蒼とした木々の間をミニバンは走りました。


「ママ、おしっこ」


 恒例のトイレタイムを要求する乃里です。


(乃里、いつもナイスなタイミングだ)


 膀胱が決壊寸前だった左京は乃里に感謝しました。


「コンビニに寄りますね」


 樹里は少し先のコンビニにミニバンを停めました。


「私も!」


 瑠里と冴里は乃里を連れて走りました。


「お、俺も!」


 左京は股間を押さえながら走りました。


 樹里は瑠里達が醜い争いをしている間に脱水対策の飲料を買いました。


「持つよ」


 男子用のトイレは空いていたので、用をすませた左京が来ました。


「ありがとうございます」


 樹里は笑顔全開で応じて、レジ袋を左京に渡しました。


「重い!」


 想像以上に重量があったので、左京は悲鳴をあげました。


「出発しますよ」


 樹里が笑顔全開で言いました。


 ミニバンはスウッとコンビニの駐車場を出て、国道を更に山奥へと進みました。


「ママ、何か飲みたい」


 乃里が言いました。


「どれでも好きなものをお飲みなさい」


 樹里は笑顔全開で言いました。


(てっきり、トイレに寄ったばかりだからダメですと言うかと思った)


 ヘボ推理をしていた左京です。


「うるせえよ!」


 チャチャが趣味の地の文に切れる左京です。


「お姉ちゃんが取ってあげるね」


 瑠里が言って、乃里にスポーツ飲料を渡しました。


「萌里は麦茶ね」


 瑠里は樹里が用意してきた麦茶の入った蓋付きのコップを萌里に渡しました。


 萌里は凄まじい勢いでそれを飲みました。


(何だか、瑠里はお母さんみたいだな)


 口にすると怒られそうなので、心の中で思う左京です。


 後でこっそり瑠里に教えようと思う地の文です。


「やめろ!」


 血の涙を流して地の文に切れる左京です。


「さーたんも!」


 後部座席から冴里が言いました。


「はい」


 瑠里はレジ袋からりんご味のジュースを渡しました。


「ありがとう、おねえちゃん」


 冴里は嬉しそうに受け取りました。


「パパも欲しいな」


 左京が振り返って言うと、


「左京さんはトイレが近いですから、お墓に着くまで我慢してください」


 樹里は真顔で言いました。


「はい」


 全部見抜かれていた左京は顔を引きつらせて応じました。


 


 そんな事をしているうちに、ミニバンは霊園に着きました。


「結構人が来ているな」


 左京が言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 桶と柄杓を管理事務所で借り、左京のご先祖様のお墓へと向かいました。


 途中で買った花とお供え物を用意し、樹里と左京でお墓の掃除をしました。


 その間、瑠里と冴里は乃里と萌里の面倒を見たり、ルーサに水を飲ませたりしました。


「さあ、お線香をあげるぞ」


 左京が言いました。瑠里と冴里は自分の線香を持ち、乃里と萌里の分の線香は樹里が持ちました。


「蝋燭に火を点けて」


 左京が提灯の蝋燭に火を点けました。


 管理事務所に桶と柄杓を返し、ミニバンに戻りました。


 左京以下、四人の娘達も霊園のトイレで用をすませ、車に乗りました。


「危ないから、車の中では火を消すぞ」


 左京は手であおいで蝋燭の火を消しました。


「さあ、帰りましょう」


 樹里が笑顔全開で告げました。ミニバンは霊園を後にしました。


 関越自動車道に乗る頃には、萌里と乃里は眠ってしまい、冴里もうつらうつらしていました。


「さーたん、眠いなら寝ていいんだよ」


 瑠里が言うと、


「さーたん、眠くないもん」


 両目をこすりながら、冴里は強がりました。


(可愛いな)


 左京はそれを見て思いました。気持ち悪いです。


「やかましい!」


 率直な感想を述べただけの地の文に理不尽に切れる左京です。


「ふあああ」


 左京がつい大アクビをすると、


「パパ、眠いなら寝ていいんだよ」


 瑠里に言われました。


「そうだよ」


 そのせいで目が冴えたのか、冴里が言いました。


「あはは、大丈夫だよ」


 左京はずっと運転してくれている樹里の手前、寝る訳にはいかないと思いました。


「左京さん、休んでください。大丈夫ですから」


 樹里に笑顔全開で言われ、


「そうなんですか」


 涙ぐんで樹里に口癖で応じる左京です。


 


 めでたし、めでたし。

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