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樹里ちゃん、花火大会へゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。


 不甲斐ない夫の杉下左京はいつも通り仕事がなく、ほぼ毎日が日曜日です。


「うるせえ!」


 実際にはちょっとした単位の猫探しはありましたが、見つけられなかったので、仕事がなかったのと同じです。


「ううう……」


 核心に触れた地の文になす術なく項垂れるしかない左京です。


 樹里達は、五反田グループが主催する大江戸大花火大会に行く事になっています。


 左京は仕事がないので、同行する事ができました。


「その言い方は勘弁してください」


 地の文の執拗な言葉責めに精も根も尽きた左京が全面降伏しました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


 そうこうしているうちに日暮れ時になり、五反田氏が差し向けたリムジンが家の前に来ました。


「お行儀よくするのですよ」


 樹里は真顔で三人の娘達に告げました。


「はい」


 長女の瑠里、次女の冴里、三女の乃里は畏まって応じました。


 四女の萌里は樹里に抱かれて眠っています。


「どうぞ」


 リムジンの運転手が後部座席のドアを開いて、瑠里達を乗せました。萌里はチャイルドシートに樹里が載せました。


 そして、左京をトランクに詰めると、リムジンは発車しました。


「樹里と一緒に座席に座ってるよ!」


 事実を捏造した地の文に切れる左京です。


 


 リムジンは何事もなく花火大会が催される五反田グループ所有の某県の海岸に到着しました。


 辺りは人工的な灯りがほとんどなく、薄暗くなっています。


 そこにはグループの人達が家族と一緒にたくさん来ています。


 すぐそばに某夢の国がありますが、それの数倍の大きさがある五反田グループ専用のビーチです。


 五反田氏は某夢の国を買収しようとしましたが、愛娘の麻耶に大反対されて諦めました。


「私が大学に行けなくなるような事をしないで!」


 麻耶はその夢の国が大好きなのです。買収をしたら、友達だと思い込んでいる人達が友達ではなくなってしまうからです。


「思い込んでいるんじゃなくて、本当に友達なの!」


 どこかで聞きつけて地の文に切れる麻耶です。


「私も同じ会場にいるわよ!」


 恋人のふりをしている市川はじめと強引に手をつないでいる麻耶が更に地の文に切れました。


「恋人のふりじゃないし、強引じゃないわよ!」


 立て続けにからかってくる地の文に律儀に切れる麻耶です。


(麻耶ちゃん、怖い)


 何もいない空間に向かって怒っている麻耶を見て、いつも以上に怯えるはじめです。


「樹里さん、いらっしゃい。今日は、左京さんもいらしたのね」


 麻耶が微笑んで言いました。


「お嬢様、お招きいただきありがとうございます」


 樹里が笑顔全開で深々と頭を下げました。隣で左京も頭を下げました。


「まやちゃん、ひさしぶり!」


 瑠里と冴里と乃里が言いました。


「久しぶりね、瑠里ちゃん、冴里ちゃん、乃里ちゃん」


 麻耶は瑠里達とハイタッチしました。


「はじめお兄ちゃん、こんばんは」


 瑠里がはじめに挨拶しました。


「こ、こんばんは」


 ほぼ樹里に見える瑠里に顔を赤らめて応じるはじめです。


「おっぱいはないけど」


 冴里がすかさず小声で言いました。


「さーたん、うるさい!」


 聞き逃さなかった瑠里が冴里を睨みました。


(瑠里ちゃん、樹里さんにそっくりになって来たわ。将来的にまずい事になりそう)


 麻耶は早速瑠里を要注意人物のリストに記録しようと思いました。


「ヤッホー、樹里」


 そこへ松下なぎさ・栄一郎夫妻と、長男の海流わたると長女の紗栄さえが来ました。


「わっくん!」


 冴里はすぐに海流に近づくと、腕を組みました。海流は顔を引きつらせています。


「冴里ちゃんと海流くんは、そういう仲なのね」


 麻耶がなぎさに言いました。


「そうだよ。あと何年かすれば、孫の顔が見られるので、楽しみなんだよ」


 あっけらんかんとした顔でなぎさが言ったので、


「そうなの」


 顔を引きつらせて応じる麻耶です。


「困った事があったら、何でも相談してね」


 同じ匂いを感じた栄一郎がそっとはじめに近づき、名刺を渡しました。


「あ、ありがとうございます」


 はじめは苦笑いをして名刺を受け取りました。


(何だか、ジェネレーションギャップを感じるなあ)


 世代が全然違う左京は会話に入り込めません。


「始まるみたいですよ」


 何故そうなのか地の文には理解不能ですが、左京の事が大好きな樹里が声をかけました。


「あ、そう?」


 左京は樹里と共に夜空を見上げました。


 打ち上げ花火独特の音がして、一発目が打ち上がりました。


 夜空に大輪の花が咲きました。


「わああ!」


 瑠里達はそれを見て歓声をあげました。


「凄いね! さっすが六ちゃんだね」


 なぎさは笑顔で麻耶に言いました。


「そうね」


 父親を「六ちゃん」と呼ぶなぎさの豪快さに微笑んで、麻耶は夜空を見上げました。


 花火は次第にその数を増していき、夜空を明るく照らしました。


「ママ、おなかすいた」


 乃里が言いました。


「こっちに屋台が出てるから、何でも好きなものを食べて」


 麻耶が言いましたが、乃里は樹里を見ました。瑠里と冴里がそれを見守っています。


「三人共、麻耶お嬢様についておいきなさい」


 樹里が笑顔全開で許可したので、


「はい!」


 三人は大喜びで麻耶について行きました。


「よし、私も! 海流、紗栄、行くよ」


 なぎさは子供達より先に駆けて行きました。海流と紗栄は顔を見合わせてから、なぎさを追いかけました。


「俺達も行こうか」


 左京が言うと、樹里は、


「たまには二人きりになりたいです」


 ギュウッと左京に腕を絡めて来ました。


「そ、そうだな」


 左京は顔を赤らめながら応じました。その時、一際ひときわ大きな花火が上がりました。


「左京さん」


 声に応じて樹里を見ると、目を瞑っていました。


「樹里」


 左京は皆の視線が花火に向けられているのに乗じて、樹里とキスをしました。


「ずっと一緒にいましょうね」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「もちろんさ」


 左京は微笑んで応じると、樹里の肩をそっと抱き寄せました。


 


 めでたし、めでたし。

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