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樹里ちゃん、ナンパされる

沢木先生、ごめんなさい。

 御徒町おかちまち樹里じゅりは、居酒屋で時々働き、怪盗とも対決するメイドです。


 今日は久しぶりに仕事が全部お休みです。


「たまには、俺とは別行動がいいだろう」


 婚約者の杉下左京にそう言われ、樹里は一人で街に出かけます。


 普通の女性なら、婚約者にそんな事を言われたら、


「浮気でもする気?」


と疑いますが、樹里はそんな事はミドリムシのべん毛ほども考えません。


「そうなんですか」


 樹里はあっさり左京の申し出を受け入れました。


 今日はお友達の船越なぎさとお食事する予定です。


 樹里にお友達がいるのが、連載開始後初めてわかり、作者も驚いているようです。


「へい、彼女、一人ィ?」


 今時珍しい声のかけ方をするバカっぽい男が樹里の前に現れました。


 でも樹里は自分に声をかけられたとは思わず、そのまま歩いて行ってしまいます。


「へいへい、彼女ォ。無視しないでよォ。どこ行くのォ?」


 男は懲りずに樹里にまとわりつきます。


「あっちに行きます」


 樹里は笑顔全開で前を指差しました。男は転びそうになりましたが、何とかこらえ、


「あはは、彼女、面白いねえ。ねえねえ、俺とお茶しない?」


とまだしつこく誘って来ます。


「いいですよ」


 樹里はあっさりOKしました。男の顔が一瞬だけ兇悪になります。


「ささ、こっちこっち」


 男はどんどん人気のないところへと樹里を連れて行きます。


 そして、全く人通りのない路地にある喫茶店に樹里を連れ込みます。


 樹里がピンチです。左京のバカは何をしているのでしょう?


「ささ、座って」


 男は樹里を一番奥のボックス席に座らせ、


「ちょっとトイレ行って来るね」


と言い、その場を離れます。


「おい、どうだ、上玉だろ?」


 男は喫茶店のマスターに声をかけました。


 マスターは樹里をチラッと見て、


「そうだな。あれなら、風俗で相当稼げそうだぜ」


「へへへ」


 どうやら、とんでもない連中のようです。


 マスターはコーヒーにこれでもかというくらい睡眠薬を入れ、男に渡します。


 男はニヤリとしてそれを受け取り、樹里のところに戻ります。


「はい。マスターのおごりだよ。さ、飲んで飲んで」


 男は樹里にコーヒーを渡しました。


「そうなんですか」


 樹里はそれを受け取ると、何の躊躇いもなく、一気に飲んでしまいました。


「ぐひ」


 男はあまりにもあっさり事が運ぶので、思わず不気味な声で笑ってしまいます。


「美味しかったです」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「ええっ!?」


 男は仰天してマスターを見ます。


「あ、あのさ、眠くならない?」


「いえ、全然」


 樹里はニコニコしています。男は慌ててマスターに駆け寄り、


「どういう事だよ!? 眠らねえぞ、あの女」


「信じられねえ。シロナガスクジラだって眠っちまう薬だぜ」


 マスターも首を傾げています。


 そして更に驚愕の出来事が二人を襲います。


「待ったァ、樹里?」


 一人の可愛らしい女性が入ってきました。歩くと「キャピキャピ」音がしそうです。


「私も今来たところです」


 樹里はその女性に答えます。どうやら、彼女が樹里のお友達の船越なぎさのようです。


「私、道に迷っちゃってさあ。樹里は迷わなかった?」


 なぎさは疲れているみたいで、樹里の向かいに座るとグッタリしました。


「はい。親切な方が、ここまで連れて来て下さったので」


 樹里は男を見てニコッとしました。男はギクッとして作り笑いを返します。


「ここねえ、コーヒーが美味しいのよ。あれ、もう頼んだの?」


 なぎさが尋ねます。樹里は笑顔全開で、


「マスターさんがご馳走して下さったんです」


「へえ、そうなんだ。私、ここに随分通ってるけど、一回もそんな事ないよ」


 なぎさが恨めしそうにマスターの方を見たので、男とマスターは慌てて隠れます。


「おい、ここの常連なんているのか?」


 男がマスターに尋ねます。マスターは、


「いる訳ないだろ? ここ、今日だけ開いてる偽の喫茶店だぜ」


「じゃあ、あの二人は何を言ってるんだ?」


 男は身震いして樹里たちの方をソッと覗きます。


「あれ? ここ、よく見ると、私がいつも来るお店じゃないよ。出よう」


 なぎさが立ち上がります。


「そうなんですか」


 樹里はキョトンとして立ち上がります。


「失礼しました」


 なぎさはマスターと男にバツが悪そうに微笑み、樹里と一緒に出て行きました。


「何なんだ、あの二人は?」


 男とマスターは顔を見合わせました。




 そして……。


「こっちだ、こっち。このお店だよ」


 なぎさが樹里を引っ張って連れて来たのは、喫茶店「黒薔薇」でした。




 めでたし、めでたし。

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