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樹里ちゃん、学園祭に参加する(後編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里は五反田氏の愛娘である麻耶が通う大学の学園祭に来ています。


 麻耶が意図的に召し使いである市川はじめと顔を合わせないようにしているのを樹里は気づきました。


「召し使いじゃなくて、恋人よ!」


 顔を赤らめながら、地の文に抗議する麻耶です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


「さあ、ここが会場の控え室。樹里さん専用だから、誰も入って来ないわよ」


 麻耶は会場の裏手にあるユニットハウスに樹里を案内しました。


「ありがとうございます、お嬢様」


 樹里は深々と頭を下げてお礼を言いました。


「エアコンも付いているから、快適でしょ? それじゃあ、私は実行委員会の仕事があるから、行くわね」


 麻耶はドアを開けて出て行こうとしました。


「お嬢様、はじめ君とお話ししてください」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「だから、はじめ君とは何もないから……」


 振り返って言い返した麻耶ですが、樹里にはそんな口から出まかせは通用しないと悟り、溜息を吐きました。


「負けたわ、樹里さん。何もかもお見通しなのね」


 麻耶は肩をすくめました。


「はじめ君は真面目な人です。お嬢様が試すような事をなさっても、彼にはそれはわかりませんよ」


 樹里は言いました。要するにはじめはチンパンジーよりバカだという事ですね。


「違います!」


 奴隷の悪口を言われて地の文に切れる心優しい麻耶です。


「奴隷じゃないわよ! いい加減にしなさいよね!」


 麻耶は地獄の鬼も裸足で逃げ出すような怖い顔で地の文に凄みました。


 地の文は身体中の水分を放出してしまいました。


「そうね。私、意地悪だったわね。はじめ君に謝る」


 麻耶は自嘲気味に言うと、ユニットハウスを出て行きました。


 


 一方、実行委員会の本部では、お化け屋敷とはじめが無言のまま向かい合っていました。


「高屋敷だよ!」


 回りくどい名前ボケをした地の文に切れる高屋敷たかやしき麟之助りんのすけです。


「麻耶さん、遅いね」


 間を持て余した高屋敷が言いました。


「そう、ですね」


 麻耶の名前を出されて、あからさまに動揺する不甲斐ないはじめです。


(もしかして、麻耶ちゃんは委員長が好きなのだろうか?)


 妙な邪推を始めるはじめです。やっぱり、チンパンジー以下だと思う地の文です。


「只今戻りました」


 麻耶が息を切らせて入ってきたので、はじめはビクッとし、高屋敷はどきっとしました。


(麻耶さん、可愛い)


 高屋敷は下心丸出しの顔で思いました。


「やめろ!」


 心の奥底を覗き見た地の文に激ギレする高屋敷です。


「はじめ君、ちょっといいかな?」


 麻耶ははじめを見ずに言いました。


「あ、はい」


 返事がまるで召し使いのはじめです。


「ほら、早く!」


 麻耶はおどおどしているはじめの右手を掴むと、本部を出て行きました。


(ああ、二人は仲直りしたのか?)


 ずれた事を想像している高屋敷です。


 


「ごめんね、はじめ君。私、意地悪だった」


 麻耶は今更な事を言って謝罪しました。


「うるさいわよ!」


 いちいちチャチャを入れてくる地の文に切れる麻耶です。


「謝るのは僕の方だよ。不甲斐なくてごめん」


 はじめは頭を下げました。


「何言ってるのよ。私、はじめ君をそんな風に思った事ないよ」


 麻耶は心にもない事を言いました。


「そんな事ないわよ!」


 深層心理を見抜いたはずの地の文に切れる麻耶です。


「本当に?」


 はじめは涙ぐんで訊きました。


「本当よ」


 麻耶はスッとはじめに近づくと、キスをしました。


「ま、麻耶ちゃん!」


 はじめはびっくりして飛び退きました。


「何よ。私とのキスは嫌なの?」


 麻耶は涙ぐんで尋ねました。


「そんな事ないよ。麻耶ちゃんとのキスはとても嬉しいよ」


 はじめは顔を真っ赤にして言いました。


「嬉しい!」


 麻耶はまたはじめにキスしました。それは長いキスでした。


「おおっと」


 それを通りかかったテレビ夕焼のチーフプロデューサーである山梶欣三が見てしまいました。


(これはとんでもないスクープだけど、公表は無理だな)


 山梶はカメラを向けたスタッフの頭を軽く叩くと、その場を去りました。


 


 やがて、学園祭は夜の部に突入し、東京キー局の特別番組の時間が迫りました。


「樹里さん、会場へお願いします」


 大東京テレビ放送の編成局長である大神おおがみ少年すくなとしとブジテレビの常務取締役の酒野さけの投馬美つまみが顔を出しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。




「樹里さん、入ります」


 ADが言いました。会場の最前列に陣取っているジャパンテレビのゼネラルプロデューサーの一手いって九蔵きゅうぞうとテレビ江戸の専務取締役の屋隈やくま熊蔵くまぞうが会場の演壇を見上げました。


「樹里さん、しばらくです」


 そこへ売れていない芸人が現れました。


「売れてるよ! 言ってしまえば、売れ過ぎてるよ!」


 西園寺伝助が身の程知らずの事を言いました。


「また始まったよ、伝助さんの悪い癖」


 それを白い目で見ているうぃんたーずのムッツリスケべの下柳誠です。


「そうだな」


 相槌を打つ露骨なスケベの丸谷一男です。


「はい、うぃんたーずさんは客席の方へお願いします」


 そこへ隠れ樹里ファンのブジテレビアナウンサーの崎山陽子が現れ、立ち塞がりました。


「ああ、そう」


 うぃんたーずの二人は残念そうに離れて行きました。


「西園寺さん、お久しぶりです」


 樹里は笑顔全開で応じて、伝助の手を握りしめました。


「お、お、お……」


 あまりの嬉しさに意識が飛びそうになる伝助です。


「はい、西園寺さんも客席へどうぞ」


 そこへテレビ夕焼の新人アナウンサーの長田おさだ祥子しょうこが現れ、伝助を連れて行きました。


「む?」


 長田アナは崎山アナと火花を散らしてすれ違いました。


(おばさんが)


 長田アナは思いました。


(乳臭いガキが)


 崎山アナは思いました。


「はい、こちらは樹里さんがいらっしゃる学園祭の特設会場前のジャパンテレビアナウンサーの浦見益代です」


 漁夫の利を得て実況を始める浦見アナです。


「あ!」


 それに気づき、歯軋りして悔しがる長田アナと崎山アナです。


「そうなんですか」


 特設会場の大画面に笑顔全開の樹里の顔が映りました。会場全体がドッと盛り上がりました。


(よし、大成功間違いなしだ!)


 特設会場裏の中継車の中でガッツポーズをする山梶です。


 


 めでたし、めでたし。

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