樹里ちゃん、父の日を祝う
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
今日は父の日です。
不甲斐ない夫の杉下左京は何かを期待した顔で朝からそわそわしています。
多分、何ももらえないと思う地の文です。
「やめろ!」
血の涙を流して地の文に切れる左京です。
「パパ、おはよう」
長女の瑠里と次女の冴里が二階から降りて来て言いました。
「お、おはよう」
更に何かを期待している顔で応じる左京ですが、二人はさっさと洗面所へ行ってしまいました。
「ああ……」
当てが外れて項垂れる左京です。
「パパ、おはよう」
そこへ三女の乃里と四女の萌里がやって来ました。
「おはよう、乃里、萌里」
左京は笑顔で応じました。期待している顔は封印したようですが、乃里と萌里も洗面所へ行ってしまいました。
「おはようございます、左京さん」
そこへ笑顔全開の樹里が来ました。
「お、おはよう、樹里」
樹里は左京の娘ではないので、何も期待せずに応じました。でも、他人が見ると親子に見えます。
「それもやめろ!」
心ない発言が目立つ地の文に切れる左京です。
「今日は、父と義父が来ますので、よろしくお願いします」
樹里は笑顔全開で言いました。
「そうなんですか」
左京は引きつり全開で応じました。
(俺は誰にも祝ってもらえないが、樹里のお父さんとお義父さんにはお礼をしなければならないのか)
納得がいかない左京は、二人を殺害する事にしました。
「しねえよ!」
物騒な事を平気で述べた地の文に激ギレする左京です。
「おはようございます」
するとそこへ璃里が娘の実里と阿里を連れて訪れました。
「いらっしゃい」
左京は満面の笑みを浮かべて玄関で出迎えました。都合がいい事に、璃里の夫の竹之内一豊が来ていないのです。
左京は不倫をする絶好の機会だと思いました。
「そんな事思わねえよ!」
ほんの少しだけ当たっているので、左京は顔を赤らめて地の文に切れました。
「いらっしゃーい!」
瑠里と冴里はそっくりな従姉妹達を笑顔全開で出迎えました。
実里は小学校六年生、阿里は小学校三年生です。どちらも左京好みです。
「勘弁してください」
ロリコン疑惑までかけられた左京は、涙ぐんで地の文に懇願しました。
「準備を始めましょうか」
樹里と璃里はキッチンへ行きました。
「私も手伝う」
瑠里と冴里と実里と阿里が言い、キッチンへ行きました。
「乃里と萌里はパパと遊ぼうか」
左京が言うと、
「嫌だ」
はっきりと拒絶され、キッチンへ行かれてしまいました。
「ううう……」
悲しみのあまり、左京はその場に膝から崩れ落ちました。
しばらく左京が落ち込んでいると、樹里の実の父親の赤川康夫と義理の父親の西村夏彦が来ました。
「いらっしゃい、お父さん、お義父さん」
左京は作り笑顔で応じました。
「お招きありがとう、左京君」
康夫が笑顔全開で言いました。
「お招きありがとうございます、左京さん」
夏彦が言いました。
「どうぞ、おあがりください」
左京は二人をリヴィングルームへ案内しました。
「お父さん、お義父さん、いつもありがとうございます」
樹里と璃里がエプロン姿で二人を出迎えました。
「おお!」
夏彦と左京が思わず感動の声をあげましたが、
「そうなのかね」
康夫はごく普通に応じました。
「さあ、おかけください」
樹里が康夫と夏彦をテーブルの上座に誘導して座らせました。
「左京さん、何してるんですか、貴方もここへ」
璃里が手招きました。
「え?」
左京はキョトンとしました。
「パパ、こっち!」
瑠里と冴里が左京の手を引いて康夫の隣の席に座らせました。
「え?」
左京は思ってもいなかったので、涙で何も見えなくなりました。
テーブルの上には、二つのホールケーキと樹里と璃里手作りのちらし寿司が大きな更に盛られて、置かれています。
「パパ、いつもありがとう」
瑠里と冴里が笑顔全開で言いました。
「瑠里、冴里……」
左京は涙ぐんで二人を見ました。
「どうぞ召し上がれ」
璃里が言いました。
「ありがとう、樹里、璃里」
康夫が笑顔全開で言いました。
「ありがとう、樹里さん、璃里さん」
夏彦も涙ぐんで言いました。
「パパはこっちのケーキね」
瑠里と冴里が左京の前に二人が作ったホールケーキを出しました。
生クリームの塗りが甘く、あちこちスポンジケーキが見えています。
「ありがとう、瑠里、冴里」
とうとう左京は泣き出してしまいました。
「パパ、ありがと」
乃里と萌里は左京にリボンで飾られたグミを渡しました。
「ありがとう、乃里、萌里」
左京は涙でぐちゃぐちゃになりながら、受け取りました。
「遅くなりました」
そこへ一豊が来ました。
「パパ!」
実里と阿里が大喜びで一豊に抱きつきました。それを羨ましそうに見ている左京です。
「ここに座って」
一豊は夏彦の隣に座りました。目の前には実里と阿里が作ったホールケーキがあります。瑠里と冴里が作ったのより綺麗にできているのは内緒です。
「内緒にしなさいよ!」
口が軽い地の文に切れる瑠里と冴里です。
「これだけ揃うのは珍しいね」
康夫が言いました。
「そうですね」
夏彦が応じました。
「パパ、ありがとう」
実里と阿里が一豊の頬にキスをしました。
「おお!」
一豊は真っ赤になりました。
「パパ、ありがとう!」
左京は瑠里と冴里に頬にキスをされました。
「パパ、ありがとう」
乃里と萌里は瑠里と冴里に抱っこされて左京の頬にキスをしました。
(いつ死んでもいい)
左京は思いましたが、
「お父さん、お義父さん、ありがとうございます」
樹里と璃里が康夫と夏彦の頬にキスをしているのを見て、
(羨ましい)
羨望の眼差しで見ました。後で樹里に教えようと思う地の文です。
「やめてください、この通りです」
左京は会心の土下座で地の文に懇願しました。
「左京さんには後でしますね」
すると樹里が耳元で言いました。
「そうなんですか」
左京は樹里の口癖で応じました。
めでたし、めでたし。