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樹里ちゃん、学園祭に招待される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は樹里は、五反田氏の愛娘である麻耶に頼まれて、彼女の通っている大学に来ています。


 もちろん、麻耶の召し使いである市川はじめも通っています。


「はじめ君は召し使いじゃありません!」


 地の文の軽いジョークに切れる麻耶です。では下僕ですか?


「もっと悪いでしょ!」


 地の文の言葉のセンスに不満がある麻耶がまた切れました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「樹里さん、忙しいのにごめんなさいね」


 麻耶が言いました。


「大丈夫ですよ。弥生さんがいますから」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうなの」


 麻耶は真実を知らないので、微笑んで応じました。


 その頃、もう一人のメイドの目黒弥生は息も絶え絶えに仕事をこなしていました。


(麻耶お嬢様、恨みます。今日に限って、雨降りで庭掃除が激烈に悲惨です)


 レインコートを着て、撥水加工の帽子をかぶり、汗まみれで庭掃除をしている弥生です。


 弥生は知らなかったのです。雨が降っている日は、庭掃除はしなくてもいい事を。


 そんな事を知らないのもどうかと思いますが、それを敢えて教えない地の文です。


 樹里は学園祭実行委員会の本部がある学生会館の四階に来ていました。


「お待ちしていました、樹里さん」


 実行委員会の委員長である四年生の男子が不用意の発言をしました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里は深々と頭を下げて謝罪しました。パワハラだと思う地の文です。


「あ、いや、その、そういうつもりで言った訳ではなくてですね……」


 その場の空気がどんよりしたため、焦る委員長です。


「申し遅れました、私、学園祭実行委員会の委員長を務めている高屋敷たかやしき麟之助りんのすけです」


 高屋敷と名乗った男子は名刺を差し出しました。


「そうなんですか。ご丁寧にありがとうございます」


 樹里は笑顔全開でそれを受け取りました。


「私は五反田邸の主任メイドを務めます、杉下樹里です」


 樹里は名刺を差し出しました。


(樹里さん、そんな肩書きだったんだ)


 樹里の肩書きを初めて聞いた麻耶です。


「げっ」


 高屋敷は受け取った名刺を見て驚きました。


(五反田ホールディングス取締役部長? どれ程の地位の方なのだろう?)


 高屋敷は震えてしまいました。彼の父親も大手企業の重役ですが、樹里に比べれば下っ端です。


 でも、樹里が取締役部長なのを不甲斐ない夫の杉下左京が知れば、卒倒すると思う地の文です。


 ちなみに弥生は只のメイドで、何の役職にも就いていません。


「やめて! 気にしてるのよ!」


 階段の掃除をしながら地の文に抗議する弥生です。


「どうぞ、おかけください」


 高屋敷は会議テーブルに備えられたパイプ椅子を勧めました。


「ありがとうございます」


 樹里は笑顔全開でパイプ椅子に座りました。高屋敷はその向かいのパイプ椅子に座り、麻耶はその隣に座りました。


 お似合いだと思う地の文です。


「いやあ……」


 高屋敷は照れましたが、麻耶は無表情のままです。はじめ以外は眼中にない麻耶はやや変わり者です。


「変わり者じゃありません!」


 今回は左京の出番がないので、キレ要員になっている麻耶です。


「樹里さんはお忙しいと伺っていますので、早速本題に入らせていただきます」


 高屋敷はA4のクリアファイルに入った書類を樹里に渡しました。


「樹里さんには学園祭の来賓として来ていただき、学園祭を盛り上げて欲しいのです」


 高屋敷が言いました。


「そうなんですか」

 

 樹里は笑顔全開で応じました。


「父にはすでに話を通してあるの。後は樹里さんの返事次第なんだけど、どうかしら?」


 麻耶は恐る恐る尋ねました。樹里が真顔になっているからです。


 樹里の真顔には五反田氏も気圧される程で、左京は涙ぐんでしまいます。


「あ、申し訳ありません、資料に目を通していました」


 樹里が笑顔全開に戻ったので、ホッとする麻耶です。


「では、改めて訊きます。学園祭の来賓として大学に来てくれますか?」


 麻耶が言いました。高屋敷は固唾を呑んで樹里の返事を待っています。


「今月の二十五、二十六の土日は、テレビの仕事を頼まれておりますので、難しいです」


 高屋敷はがっかりしました。美人の人妻と仲良くなれると思っていたからです。


「やめろ!」


 根も葉もない作り話をする地の文に切れる高屋敷です。


「ああ、そうだっけ。私が断わったから、樹里さんは参加しない訳にはいかなくなったのよね」


 自分のせいで樹里のスケジュールが埋まっていた事を忘れていた麻耶です。結構お茶目さんです。


 しかも、樹里が参加する番組は五反田グループもメインスポンサーとして入っているので、麻耶は父である五反田氏に愚痴を言われたのです。


 でも麻耶は、はじめが学園祭実行委員会に加わっているので、何があっても学園祭をすっぽかす事はできません。


 そんな事をしたら、はじめに嫌われてしまうと思っているからです。


 今日、はじめがいないのは樹里が来ているからです。はじめが樹里に特別な感情を抱いていると疑っている麻耶がはじめを別の件で大学から離れた町に行かせているのです。


 意外に腹黒なお嬢様だと思う地の文です。はじめに教えましょう。


「やめて! お願い!」


 麻耶は涙ぐんで地の文に懇願しました。その可憐さにあっさり承諾する地の文です。


「私は何をすればよろしいのでしょうか?」


 樹里が笑顔全開で尋ねました。


「え?」


 思ってもみなかった樹里の言葉に高屋敷はきょとんとしました。


「もし、来賓席に座っているだけでよろしければ、私の姉を代役として立てることが可能です」


 樹里の提案に高屋敷は狂喜しました。


「それで大丈夫です! 樹里さんは来賓席に座って笑顔でいてくれればOKです!」


 すると麻耶が、


「でも、樹里さんは生放送でテレビに出る事になっているから、どちらかが樹里さんではないとわかってしまうのではないかしら?」


 高屋敷は麻耶の言葉にこの世の終わりのような顔になりました。


「では、学園祭の最後は退席して、テレビ局に行く事にしましょう」


 樹里が言いました。


「ですが、最後こそいて欲しいのです。途中までであれば、樹里さんに来ていただく意味がありません」


 高屋敷は涙ぐんで言いました。


「だったら、一気に解決する方法があるわ。樹里さんはずっと大学にいて、放送時間に生中継するのよ。そうすれば、私も参加できるわ!」


 五反田氏の娘ならではの奇想天外な提案を麻耶がしました。


「おお!」


 高屋敷は九回裏に逆転満塁サヨナラホームランが出た気がしました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 はてさて、どうなるのか楽しみな地の文です。


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