樹里ちゃん、テレビ江戸の特番に出演する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
今日は土曜日です。樹里は予告通り、テレビ江戸のスタジオに来ています。
長女の瑠里、次女の冴里、三女の乃里、四女の萌里は知らないおじさんに連れられて、スタジオの隅にある休憩所にいました。
「知らないおじさんじゃねえ! 父親の杉下左京だ!」
地の文の軽いジョークに激ギレする左京です。
「ねえ、パケモンはどこにいるの?」
冴里が瑠里に訊きました。瑠里は呆れ顔で、
「あれはアニメだから、実際にいるわけじゃないのよ。小学生なんだから、それくらいわかりなさいよ」
すると冴里は、
「おねえちゃんだって、ちょうじんバルテンをさがしてたくせに」
負けずに言い返しました。
「う、うるさいわね!」
痛いところを突かれ、顔を赤らめて怒る瑠里です。
「わんだゆうはいないの?」
乃里が瑠里に尋ねました。
「テレビ局が違うから、いないよ」
瑠里は乃里の頭を撫でながら言いました。
「じゃあ、のり、かえりたい」
乃里は涙ぐんで言いました。それを聞きつけて、
「はい、ワン太夫のお人形ですよ」
番組のアシスタントプロデューサー(以下APと省略)が乃里に人形を差し出して言いました。
「わあ、わんだゆうだ!」
乃里はそれを受け取って大喜びしました。
「すみませんねえ」
左京は若くて美人のAPにデレデレしてお礼を言いました。
「いえ、大した事じゃありませんから」
APは左京から飛び退いて、逃げるように去りました。
(テレビ局の人は忙しいんだな)
APは怖くなって逃げたのに気づかない左京です。幸せな人だと思う地の文です。
「いいなあ、のりは。わたしもわんだゆうほしいなあ」
冴里が口を尖らせて言うと、
「冴里、わがままはいけません」
スタッフとの打ち合わせを終えた樹里が戻ってきて、真顔で言いました。
「はい」
冴里は顔を引きつらせて言いました。瑠里も乃里もビクッとしています。
(樹里、怖い)
左京は涙ぐんでいました。
「ヤッホー、樹里」
そこへ松下なぎさが現れました。
「お待ちしていました、なぎささん」
プロデューサーが手揉みをしながら出迎えました。
「ええ? 待ってるなんて聞いてないよ。そんな事言われると、今後の仕事に差し支えるよ」
なぎさが突然意味不明な事を言い出したので、
「そうなんですか」
プロデューサーは引きつり全開で応じました。
「うぃんたーずさん、入ります」
ADが言いました。そして、うぃんたーずの下柳誠と丸谷一男がスタジオに入ってきました。
「三千世界は来ないんですか?」
瑠里がプロデューサーに訊きました。三千世界は今人気の若手お笑いトリオです。
「う……」
それを聞きつけて、少し落ち込んでしまううぃんたーずです。ネタが下品なので子供には不人気なのです。
「やめろ!」
事実を指摘した地の文に切れるうぃんたーずです。
(これからは子供に人気がないと生き残れない)
丸谷はジッと瑠里達を見つめました。
(丸谷さん、ロリコンに転向?)
それを見ていたディレクターが思いました。
「じゃあ、もう帰ろうよ、つまんないから」
瑠里が左京に甘えました。
(瑠里、可愛い!)
バカ親代表の左京はデレデレしました。
「ううう……」
それを更に聞きつけたうぃんたーずはまた落ち込みました。
「これから面白くなりますから、もう少しお待ちください」
プロデューサーが瑠里を宥めました。
「ほんとですか?」
瑠里が疑いの眼差しで尋ねました。
「もちろんです」
プロデューサーは嫌な汗を掻きながら応じました。
「もう少しいようか、瑠里」
左京は相変わらずのギリギリコーデのなぎさに見とれながら言いました。
「やめてくれ!」
真実を追求する地の文に懇願する左京です。
なぎさの服装は左京だけではなく、スタジオにいる男性全員の目を釘付けにしました。
(やっぱり、なぎささんの方がいいな)
露骨なスケべの丸谷はすぐにロリコンを返上しました。
「俺はロリコンじゃねえよ!」
真相を見抜いた地の文に切れる丸谷です。
(俺は断然樹里ちゃんだ)
むっつりスケべの下柳はずっと樹里を目で追っていました。
一番危ないスケべです。
「うぃんたーずさん、所定の位置に着いてください」
ディレクターが言いました。樹里となぎさもADに誘導されて席に着きました。
「テレビ江戸のアナウンサーの中田富美子です。今日はよろしくお願いします」
今年の四月からうぃんたーずの一歩二歩散歩の進行を務めている入社二年目のアナウンサーです。
名前は昭和感がありますが、生まれは平成です。
「気にしている事を言わないでください!」
祖母が名付け親の中田アナウンサーが心ない発言をした地の文に抗議しました。
「では、五秒前、四、三、二、一、スタート!」
ディレクターの合図で生番組が始まりました。
「はい、始まりました、うぃんたーずの一歩二歩散歩。今日はね、特番という事でね」
下柳がいつものようにやる気のない声で話しました。
「どうして特番かというと、豪華なゲストが来ているんですよね」
丸谷が言いました。
「ヤッホー、なぎさだよ!」
そこへ指示を待たずに割り込んでくるなぎさです。
(摘まみ出したいが、メインスポンサーの五反田グループの五反田六郎氏の親友なので、何もできない)
項垂れるプロデューサーです。
「なぎささん、相変わらず段取り無視ですね」
そう言いながら、しっかりなぎさの胸元を覗き込む丸谷です。下柳は横目で見ています。
「久しぶりだね、丸出しさんと下ネタさん」
なぎさの強烈な名前ボケに固まってしまううぃんたーずの二人です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
(なぎささん、凄いなあ)
なぎさの暴れぶりに左京は感心していました。
「丸出しはダメでしょ。下ネタは正解だけど」
丸谷がボケ返すと、
「お前、いつも楽屋で丸出しだろ! 下ネタは正解じゃねえよ!」
下柳が暴露しました。
「そうなんですか」
樹里はそれにも関わらず笑顔全開です。
「そんな事言ってるから、女性に嫌われるんだよ」
なぎさは肩をすくめて言いました。
「え?」
子供だけではなく、女性にも不人気だと知ったうぃんたーずはまた固まってしまいました。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開です。
めでたし、めでたし。