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樹里ちゃん、ドロントと意気投合する?

 御徒町おかちまち樹里じゅりは、新聞配達をしながら、探偵事務所と居酒屋で働くメイドです。


 居酒屋では今、「今日は誰かな?クイズ」が大流行しています。


 樹里の母親の由里と、姉の璃里りりが樹里と入れ替って働いているので、店長が考え出したものです。


 誰が働いているのか当てた人には、もれなくそのメイドさんとツーショット撮影ができます。


 樹里が一番人気なのは当然ですが、バツイチ(最近判明?)の由里と、夫とラブラブの璃里の人気も相当なものです。


 世の中にはマニアがたくさんいるのです。


 


 そして、今日は樹里は探偵事務所で伝票整理です。


「これも経費で落としといてね」


 所員の宮部ありさが、領収書を樹里に差し出します。


「何だ、それは?」


 不意に彼女の後ろに現れた所長の杉下左京がそれを手に取ります。


「わああ、ダメーッ、左京ってばあ!」


 ありさが慌てますが、すでに領収書は左京の手の中です。


「こらありさ、どうしてお前のアパートの電気料までウチで払わなきゃならないんだ?」


 左京はムッとして領収書をありさの鼻先に突きつけます。


「ああん、怒らないでよお、左京ゥ。後で私が身体で払うからあ」


 ありさはクネクネして左京に貼りつきます。


「バ、バカな事を言うな!」


 左京は真っ赤になってありさを突き放します。


「はい、ありささん」


 何も聞いていなかったのか、樹里はあっさりありさに電気料分の現金を渡しました。


「渡さなくていいよ、樹里」


 左京は受け取ろうとするありさを押しのけて樹里に現金を返します。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔で応じます。


「左京のケチ」


 ありさが毒づきます。


「ケチじゃない!」


 左京はさすがに怒り出しました。


「お前には、何とかやり繰りして給料を渡しているだろう!? いい加減にしてくれ」


 するとありさはその剣幕に涙ぐみます。


「左京が苛めるゥ」


「苛めてるんじゃない!」


 左京はますますイラつきます。


「相変わらず、騒がしい事務所ですね」


 そこへ警視庁特捜班の亀島警部補が来ました。


「おっと、今日付けで警部に昇進しましたので」


 彼は地の文の訂正を促します。わかりました、警部ですね。


「お前のような役立たずが警部とは、警視庁も人材不足だな」


 左京が嫌味を言います。


「ホントね、左京」


 いつの間にか立ち直ったありさが、左京に抱きついて亀島を口撃こうげきします。


 しかし、亀島はそんな二人をまるで無視して、


「樹里さん、怪盗ドロントから予告状が届きました」


「そうなんですか」


 樹里は相変わらず笑顔全開です。


「おい、何で樹里に話すんだ? そういう話は所長の俺にしろ、役立たず!」


 左京は二人の間に割り込み、亀島を睨みつけます。


「ほお、そうですか。今までの事件は、全て樹里さんのおかげで解決していると思われるのですがねえ」


 亀島の「痛いところを突いて来る」作戦にぐうの音も出ない左京です。


「パー」


 突然ありさが叫びました。全くの意味不明としてそれは処理されてしまい、ありさは凹みました。


「明日午後十一時、国立歴史研究所にある金のオマルを盗むそうです」


「金のオマル?」


 左京はキョトンとしました。亀島は左京をバカにしたような目で見て、


「知らないのですか? つい先日、豊臣秀吉の研究チームが、大阪城の地下で発見したのですよ。秀吉が実際に使用していたと思われるものです」


 すると左京は気持ち悪そうな顔をして、


「使っていたオマルを盗むのか? 変態かよ、あの貧乳は?」


「誰が貧乳なのよ!?」


 どこからか、ドロントの声がしました。


 しかも突っ込んだのが「変態」ではないところが彼女らしいです。


「また天井裏か? ワンパターンだな、貧乳!」


 左京がニヤッとして言うと、


「違うわよ」


 ドロントは床の一部を開いて現れました。


「てめえ、また性懲りもなく!」


 左京が飛び掛ろうとすると、ドロントはサッと飛びのいて、


「では明日の午後十一時に会いましょう」


と言い、煙幕を張りました。


「わわ!」


「キャー、左京、どこ触ってるのよお!」


 妄想ありさの叫び声が聞こえます。


「ち!」


 煙が消えると、ドロントはいなくなっていました。


「逃げられたか」

 

 左京は舌打ちしました。


「では、また頼みますよ、樹里さん」


 亀島は左京を無視して事務所を出て行きました。


「はい、亀島さん」


 樹里は笑顔全開です。


「どいつもこいつも!」


 左京は脳の血管が切れそうです。


 


 そして、予告の日の午後十一時直前。


 国立歴史研究所の敷地には、例によって警官隊がひしめいています。


 左京達は、オマルが展示されているフロアにいました。


「予告の時間まであと少しです。大丈夫なんですか、刑事さん?」


 研究所の所長が心配そうに言います。


「大丈夫ですよ、所長さん。絶対に盗ませはしません」


 亀島はガハハと笑いながら、扇子で顔を扇ぎます。


「しかし、オマルってこんなに小さい物なんですか? 子供用ほどもない」


 左京が展示されているオマルをマジマジと見て言います。


「もしかすると、オマルではなく、別の物かも知れませんが、調べてみない事には何とも言えませんね」


 所長は言いました。確かにオマルにしては小さいです。両手の上に載りそうです。


「実は秀吉がすごく小さかったんじゃないの?」


 ありさがボケます。しかし誰もそれに乗ってくれず、


「ああん、左京の意地悪ゥ」


 ありさが左京に抱きつきます。


「お、おい、何考えてるんだ!?」


 そう言いながら巨乳を堪能する左京です。


「ホホホ」


 ドロントの笑い声がフロアに響きます。


「来たか?」


 左京が周囲を見渡します。


「ドロントだ!」


 ドロントは例によって天窓から飛び降りて来ました。


「金のオマル、頂くわよ!」


 ドロントは降下しながら、煙幕を張ります。


「ああん、左京、どこ触ってるのよお」


 またありさが騒ぎます。


「ああ!」


 煙が消えると、オマルも消えていました。


「待てーッ!」


 逃げるドロントを追う亀島と警官隊。しかし左京は動きません。


「どうしたのよ、左京。何でドロントを追わないの?」


 ありさが不思議そうな顔で尋ねます。


「ドロントはここにいるからさ」


「え?」


 ありさが所長を見ます。


「わ、私はドロントじゃない!」


 所長は慌てて否定しました。左京はフッと笑って、


「そう。貴方はドロントではない。ドロントは、お前だ!」


 左京はありさの巨乳を鷲掴わしづかみにしました。


「いやん、左京、何するのよ、公衆の面前でえ」


 ありさが顔を赤らめて言いますが、左京は、


「俺が何度ありさに抱きつかれていると思ってるんだ、貧乳? これが偽物だと気づかないと思っていたのか!?」


「くっ!」


 ありさは左京の手を振り払い、後ろに飛びました。


「ばれちゃしょうがないわね」


 ありさの顔が破られ、下からドロントのマスクが現れました。


「貧乳を生かした隠し場所までは良かったが、俺に抱きついたのは間違いだったな」


 左京が得意そうに言うと、ドロントは、


「私の変装を見破っても、詰めが甘いのよね、ヘボ探偵さん」


「何!?」


 ドロントは偽の巨乳からオマルを取り出し、更にガスマスクを取り出します。


「お前の貧乳は四次元ポケットか!?」


 左京が愕然としました。


「貧乳って言うな!」


 ドロントはそう叫ぶと、睡眠ガスを放ちます。


「くそ、またこれか……」


 左京と所長はガスを吸ってしまい、気を失いました。


「じゃあねえ、ヘボ探偵」


 ドロントは意気揚々とフロアを立ち去りました。


 


 そして。


 ドロントは研究所の外へと逃げ、車に乗り込むと、


「出して」


と命じ、その場から走り去ります。


「これって、オマルじゃないわ。きっと、食器か何かよ」


 彼女はそれに頬ずりします。


「あああ、金てホントに冷たくていい感触」


 ドロントは獲物を足元に置いて、


「今日は祝杯を上げましょう」


「そうなんですか」


 ギクッとします。嫌な予感です。


「あ、貴女誰?」


 わかっているのに訊いてしまいます。車が停止しました。


「私は御徒町樹里です」


 運転手は、何故か樹里でした。


「どうして貴女がそこにいるのよ!?」


「代行の運転手をしているからです」


 樹里は笑顔で答えます。


「そんな事を訊いてるんじゃないわよ!」


 嫌なデジャブを見せられている気がするドロントです。


「逃げられないぞ、ドロント!」


 いつの間にか復活した左京が警官隊とパトカーで取り囲んでいます。


「ううう! また貴女にしてやられたわ! 今度はこうはいかないんだから!」


 ドロントは車から飛び出すと、ハンググライダーを出し、夜空に消えました。


「さようなら」


 樹里はドロントに手を降りました。


 こうして、また樹里はドロントとの対決に勝ちました。


 そして、ありさは自分のアパートでよだれを垂らして眠っているのを発見されました。


 


 数日後です。


 研究所に戻されたオマルと思われていたものの正体がわかりました。


 それは、秀吉が飼っていた犬のオマルでした。


 それを知ったドロントは寝込んでしまったそうです。


 


 めでたし、めでたし。

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