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樹里ちゃん、由里の実家へ遊びにゆく(後編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里は、四人の娘と愛犬のルーサ、そして役立たずの夫と共に祖母の美玖里みくりが経営するG県S市のI温泉の「御徒町旅館」へ出かけました。


「ううう……」


 実際に役立たずなので、反論する事ができない不甲斐ない夫の杉下左京です。


 そこへやかましいだけが取り柄の芸人であるアリゲーター北岳が現れました。


「クロコダイル藤山だよ!」


 いつものように得意の水芸で叫ぶ藤山です。


「キレ芸だよ!」


 畳み掛けるように切れる藤山です。


「そうなんですか」


 車を駐車場に停めて戻ってきた樹里が笑顔全開で応じました。


「クロコダイル藤山さん、お久しぶりです」


 樹里が笑顔全開で挨拶したので、


「あ、ど、ど、どうも、お久しぶりです」


 美人にはからっきしの藤山が動揺しながら応じました。


「また会えて嬉しいです」


 樹里が更に言いました。


「そ、そ、そうなんですか」


 気絶しそうになりながら樹里の口癖で応じる藤山です。


「藤山さん、次のロケ現場に行きますよ」


 番組のスタッフが言いました。


「わかってるよ!」


 藤山は樹里に何度も頭を下げながら去りました。


「誰だ、あいつ?」


 未だに藤山の名前を思い出せない左京です。


 知らない芸人には全く興味がない長女の瑠里と次女の冴里は三女の乃里を連れてサッサと旅館へ入って行きました。


「また来たのかい、ヒモ亭主」


 そこへ美玖里が瑠里達と現れました。


「お久しぶりです、美玖里さん」


 左京は苦笑いして応じました。


「あんまり樹里に苦労かけるんじゃないよ。しっかり働きなよ」


 美玖里はそう言うと、瑠里達を伴って戻って行きました。


「左京さんは十分働いていますよ」


 四女の萌里をベビーカーに乗せた樹里が笑顔全開で言いました。


「ありがとう、樹里」


 嬉しさのあまり涙ぐむ左京です。


 


 左京達は旅館の客間の一室に通され、昼食までそこでくつろぐ事になりました。


「あ、ベランダに露天風呂がある!」


 瑠里が言いました。


(樹里と混浴!)


 早速変態が発動する左京です。


「変態じゃねえよ!」


 深層心理の奥底を見抜かれた左京がドギマギしながら地の文に切れました。


「パパ、のぞかないでよ」


 冴里に言われ、思い切り落ち込む左京です。


「では、お先に入らせてもらいますね」


 樹里は四人の娘を連れてベランダの露天風呂へ行きました。


 瑠里が部屋との仕切りをしっかり立てたので、左京は覗きができませんでした。


「覗くつもりはねえよ!」


 血の涙を流して地の文に切れる左京です。


「ううう……」


 樹里との混浴が夢と消えた左京は部屋の隅で体育すわりをして泣いていました。


「お待たせ、パパ。どうぞお入りください」


 浴衣に着替えた瑠里が出て来て言いました。


「どうぞ」


 同じく浴衣に着替えた冴里が言いました。


「パパ、どーぞ」


 浴衣に着替えた乃里が言いました。


「え? いいのか?」


 まだ樹里と萌里が出て来ていないので、嬉しそうに応じる左京です。そして、そそくさと露天風呂へ行きました。


「左京さん、入るのですか?」


 樹里が萌里を抱いて露天風呂から上がって来たところでした。


「わっ!」


 しばらくぶりに樹里の裸を見てしまった左京は鼻血を噴き出して倒れました。


「左京さん、大丈夫ですか?」


 樹里は手でそっと左京の鼻血を拭いました。


「だ、大丈夫れす……」


 眩暈めまいを起こしながら応じる左京です。


「瑠里、来てください」


 樹里の声が鋭かったので、


「はい!」


 素早く現れる瑠里です。そして、父親が倒れているのを見ました。


「パパを運ぶのを手伝ってください」


 樹里はその間に浴衣を着て、萌里をバスタオルでくるみました。


「さーたん、来て!」


 手に負えないと悟った瑠里が冴里を呼びました。


「パパ、なにしてるの?」


 冴里は倒れている左京を見て言いました。


「冴里は萌里を連れて行ってください」


 樹里は萌里を冴里に任せて、瑠里と二人で左京を部屋へ運びました。


 


「う、うん……」


 しばらくして、鼻にティッシュを詰められた左京が目を覚ましました。


「パパ、情けないよ、もう」


 瑠里が言いました。


「ほんとだよ」


 冴里が言いました。


「だよ」


 乃里が言いました。


「すみません……」


 左京は娘達に非常に恥ずかしい状態を見られたので、消え入りそうに言いました。


「左京さん、気がつきましたか?」


 萌里を寝かせつけた樹里が言いました。


「ちょうどお昼ごはんが来ましたから、食べましょう」


 樹里が笑顔全開で告げました。


「はい……」


 左京はゆっくりと起き上がりました。


 瑠里と冴里は子供用のお膳で、乃里はお子様ランチです。左京はねこまんまです。


「違うよ!」


 家の序列的にはそれが正解の左京が地の文に切れました。


 かろうじて、左京は樹里と同じお膳でした。


「ううう……」


 それが嬉しかったのか、泣きながら食べる左京です。


 


 食事を終えた樹里達は石段街を散策する事になりました。


(結局、露天風呂に入れなかった)


 左京はがっかりして外に出ました。


「わーい!」


 嬉しそうに石段に向かって走り出す瑠里と冴里です。


 樹里は何も言わずに萌里を乗せたベビーカーを押しています。


「危ないぞ」


 左京は微笑んで言いました。乃里は二人のお姉ちゃんがじゃれ合っているのを見ています。


(瑠里は、また一段と樹里に似て来たな)


 左京は樹里と歩きながら二人を見比べました。


「どうしたのですか、左京さん?」


 樹里は小首を傾げて尋ねました。左京は頭を掻いて、


「いや、瑠里が樹里に似て来たなって思ったのさ」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「瑠里は母に似て来たと思います」


 樹里が恐ろしい事を言ったので、


「そうなんですか」


 左京は顔を引きつらせました。


「冴里は璃里お姉さんに似て来たと思います」


 樹里は更に言いました。


「そうなの?」


 左京は樹里と姉の璃里が同じ格好をしたら、見分ける自信がないので、不思議に思いました。


「乃里が一番私に似ていると思いますよ」


 樹里は乃里の頭を撫でました。


「ママ、だいすき!」


 乃里は樹里の脚に抱きつきました。


「ありがとう、乃里」


 樹里は更に乃里の頭を撫でました。


「そうなんですか」


 乃里は小さい頃の瑠里にそっくりだと思う左京は、更に不思議な思いがしました。


 


 めでたし、めでたし。

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