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樹里ちゃん、左京にホワイトデーの贈り物をもらう

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は三月十四日。ホワイトデーです。


 不甲斐ない夫で名を馳せている杉下左京は、バレンタインデーのお返しを買うために必死になって猫を探しました。


「名を馳せてはいねえよ!」


 褒めたつもりの地の文に何故か切れてくる左京です。


 仕事はあったのですが、寄る年波で捕まえられず、成功報酬がもらえなかったのです。


 廃業した方がいいと思う地の文です。


「うるさい!」


 真実を突きつけた地の文に理不尽に切れる左京です。


(ここ何日か、仕事はあったのに猫が捕まえられずに無収入とは情けない限りだ)


 そう思った左京は、切腹する事にしました。


「切腹なんかしねえよ! シリーズを間違えるな!」


 信長公記が完結して一ヶ月経ったにも関わらず、混同してしまった地の文に切れる左京です。


 しかし、まだ余裕があるから大丈夫だろうと考え、直前までどんどん経費を使ってしまった自分を反省した方がいいと思う地の文です。


「ううう……」


 痛いところを突かれたので、ぐうの音も出ずにうめくしかない左京です。


(樹里が帰って来る前に何とか報酬を得て、お返しを買わなければ!)


 左京は焦っていました。何しろ、お返しする相手が多いため、猫を一匹捕まえたくらいではまかない切れないのです。


 不倫をしてはいけないという見本のようだと思う地の文です。


「だから不倫はしてない!」


 取ってつけたような白々しさで切れる左京です。


「白々しくねえよ!」


 更に切れる左京です。前回切れられなかったので、いつもより多めに切れています。


(今年に限って、多かったなあ。坂本先生、斎藤さん、勝先生、隅田川さん、沖田先生……。そして、樹里と瑠里と冴里と乃里か……)


 特にお気に入りの沖田総子には真珠のネックレスをあげようと思っているのです。


「やめろ!」


 下心満載の左京が、図星を突かれて切れました。


(でも、実際のところ、沖田先生には一番お世話になっているから、坂本先生達よりは値の張ったものをあげたいのは事実だ)


 色々と言い訳をしつつ、結局のところ、総子に媚びたい左京です。


「勘弁してください」


 執拗しつようなまでの地の文の追求に土下座して懇願する左京です。


 午前中で何とか一匹捕まえた左京は、すでにヘロヘロです。


(ダメだ。やっぱり年なのかな? こんなに疲れた事はない)


 左京は昼休みを簡単な食事ですませ、栄養ドリンクを飲みました。


 不倫する気満々です。


「違う! そういうドリンクじゃない!」

 

 あらぬ疑いをかけた地の文に血の涙を流して切れる左京です。


「お!」


 調子が上がってきた左京は、一時間で二匹捕まえました。


(あと六匹か)


 左京は脱水症予防に経口補水液を飲み、次の猫を探しました。


「うおお!」


 続けざまに三匹捕まえ、あと三匹になりました。


「よし!」


 気合いを入れ直して、三時過ぎに残りの三匹を捕まえました。


「やった!」


 左京はガッツポーズをして喜びました。


 ところが、依頼人が不在の家が多く、集金になったのは五軒だけでした。


(足りない……)


 目の前が真っ暗になりました。


(瑠里達は樹里と一緒でいいかな?)


 そんな事を考えてしまう父親失格のクズです。


「かはあ……」


 厳しい言葉を浴びせた地の文のせいで、悶絶する左京です。


(それはダメだ。どうすればいい?)


 左京は恥を忍んで、義理の姉の璃里の夫である竹之内一豊に電話をしました。


「はい」


 ところが電話に出たのは璃里でした。嬉しくなる左京です。


「やめろ!」

 

 こんな状況でもいじって来る地の文に涙ぐんで切れる左京です。


「あ、お義姉さん、一豊さんはいらっしゃいますか?」


 左京は恐縮して尋ねました。


「スマホを置いて出かけてしまったんです。ご用件は?」


 璃里が言いました。左京は流石に璃里には知られたくないと思い、


「いえ、急ぎではないので」


 嘘を吐いて通話を切りました。そして次に電話したのは、加藤真澄警部でした。


「ああ、ちょうどよかった。ありさにホワイトデーの贈り物をする金がないので、貸してもらえないか?」


 左京はそれには何も答えずに通話を切りました。


(加藤に電話した俺がバカだった)


 左京は後悔しました。


(仕方がない)


 左京は樹里に連絡しました。


「左京さん、どうしましたか?」


 樹里が訊きました。左京は、


「大変申し訳ないんだが、バレンタインデーのお返し、少し遅れてもいいかな?」


 すると樹里は、


「いいですよ。というか、お返しは必要ありません。瑠里達にもそう言ってあります」


 涙が出てしまうような事を言ってくれました。


「いや、そういう訳にはいかない。必ずお返しはするから」


 左京は涙ぐみながら言いました。


「そうなんですか。わかりました。お待ちしていますね」


 樹里はそれだけ言うと、通話を切りました。


 左京は涙を拭い、不倫相手に贈るものを買いに行きました。


「不倫相手じゃねえよ!」


 走りながら地の文に切れる左京です。


 


「申し訳ありません、お気遣い無用だったのに」


 坂本龍子弁護士は隠しきれない程の喜びを顔に出して、左京から贈り物を受け取りました。


「斎藤さんと勝先生と隅田川さんの分も預かってもらえますか?」


 左京は龍子が嫌がると思ったのですが、


「そうですか。渡しておきますね」


 龍子にしてみれば、直接渡しに行かれるよりいいので、快諾しました。


「あれ、総子の分はいいんですか?」


 龍子が言いました。左京は顔を引きつらせて、


「沖田先生は明日監査にいらっしゃるので、その時お渡しします」


 苦しい言い訳をしました。本当は中身に差があるので、知られたくないのは内緒にする地の文です。


「内緒にしろ!」


 結局バラしてしまう地の文に激ギレする左京です。


 


「ごめんなさいね、探偵さん。留守にしてしまって」


 帰宅すると、ちょうど依頼人の一人の老夫婦が来ていました。


「わざわざお越しくださり、ありがとうございます」


 左京は事務所のケージに入れていた猫を老夫婦に渡しました。


「お詫びの印です」


 老夫婦は成功報酬を倍額払ってくれました。


「ありがとうございます」


 喉から手が出る程お金に困っている左京は、遠慮もせずにもらいました。


(これで樹里達にも買える)


 左京は老夫婦を送り出すと、すぐに出かけました。


 そして、お返しを買い揃え、瑠里達には何も言わず、樹里が帰るのを待ちました。


「遅くなってごめんな。はい、お返しだよ」


 瑠里、冴里、乃里、樹里の順にラッピングされた箱を渡しました。


「わーい、ありがとう、パパ。大好き!」


 瑠里が言いました。


「ありがとう、パパ。だいすき」


 冴里が言いました。


「ありがとう、パパ」


 乃里は左京に抱きつきました。


「開けていい?」


「いいとも」


 三人は大喜びでリヴィングルームへ行きました。


「ありがとうございます、左京さん」


 樹里は言い、左京とキスをしました。


 


 めでたし、めでたし。

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