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樹里ちゃん、秋祭りにゆく

 御徒町おかちまち樹里じゅりは探偵事務所で働くメイドです。


 今日は事務所の近所でお祭りがあるので、顔を売るために所長の杉下左京が神輿を担ぐ事になっています。


 樹里と、所員の宮部ありさは、実行委員会の手伝いで町内会の公民館に行きました。


「おおお! 本物だ!」


 樹里が公民館に入って行くと、寿司詰め状態で若い男性がいました。


 普段は祭りになど見向きもしないのですが、伝説のメイドである樹里が来ると知り、遠くは鹿児島と北海道からも来ているようです。


 要するに「にわか祭りファン」です。


「よろしくお願いします」


 樹里が深々とお辞儀をすると、携帯やデジカメのストロボが光ります。


「こらこら、勝手に撮影しないで」


 ありさが樹里の前に出て言います。


「お母さん、どいて下さい」


 カメラ小僧の一人が心無い一言を言いました。


「お母さん!?」


 確かにありさは、樹里よりも樹里の母親の由里と年齢が近いですが、「お母さん」は聞き捨てなりません。


「おまんら、許さんぜよお!」


 ありさは激怒し、久々の幽体離脱で、ポルターガイストとなります。


「ひえええ!」


 公民館の中を座布団が飛びかい、カメラ小僧達は恐怖に震えました。


 ありさのおかげで大人しくなった樹里信者達を置いて、樹里とありさは炊き出しをしている奥様方がいるキッチンに行きました。


「お手伝いに来ました」


 ありさが笑顔で言います。しかし奥様方は、


「貴女、本当に手伝う気あるの?」


 確かにありさは付け爪全開で、ブレスレットにネックレス、大き目のイヤリングを着けていて、タックトップにショートパンツ、ペディキュアもキラキラです。


 奥様方が眉をひそめるのも仕方ありません。


「な、何よお……」


 ありさが反論しようとした時、樹里が進み出て、


「ありささんはお神輿担当です。私がお手伝いします」


と言いました。樹里はいつものメイド服なので、奥様方はご満悦のようです。


「まあ、貴女、確か、雑誌にも載ったメイドさんよね? あのお料理、作って下さらない?」


「はい、喜んで」


 樹里は早速奥様方と打ち解けたようです。


「け」


 ありさは舌打ちして、公民館を出ました。


「どうした、ありさ? 元気ないな?」


 そこへハッピ姿の左京が現れました。


「ああん、左京のバカバカ、私を苛めないでよお」


 ありさは急に泣き出し、左京に抱きつきます。


「何だよ、ありさ、よせって……」


 そう言いながらも、ありさの巨乳の感触を堪能しているスケベな左京です。


「左京のバカ、バカ、バカァッ!」


 何故「バカ」をそれほど連発されるのかわからない左京です。


「何だかわからないが、神輿を一緒に担ぐか?」


「嫌よお。ありさ、重いの苦手え」


 瞳をウルウルさせて、ありさが左京を見ます。


「そうか、わかった。じゃあな」


 左京が慰めてくれると思ったありさは、あまりに淡白な彼の態度に唖然とします。


 左京は町内会の人達と話しながら立ち去ってしまいました。


「左京のバカ。嫌い」


 ありさはすねてしまいました。


「ありささん」


 そこへ樹里が来ました。ありさがいなくなってしまったので、探しに来たのです。


「何よ? 私なんて、料理の邪魔でしょ?」


「千切りを手伝って下さい」


 樹里が笑顔で言います。


「せん○り?」


 ありさは聞き間違えたようです。お伝えできません。


「はい。一緒に来て下さい」


 樹里も聞き間違えたようです。ありさの言った事を訂正しません。


「いや、私、そんな事できないィ」


 そう言いながらも、妙な妄想をしたありさは、ヘラヘラしながら樹里について行きます。


 


 そして。


 左京が神輿を担ぐのを楽しく見た樹里とありさは、手が空いた左京と一緒に夜店が立ち並ぶ神社の境内に行きました。


「どうしたんだ、ありさ、その手は?」


 左京は絆創膏だらけのありさの手を見て尋ねました。


「包丁で切っちゃった」


 テヘと笑い、ありさは舌を出しました。


「そうか。頑張ったんだな、ありさ」


 左京がそう言うと、ありさはとてもジーンとしてしまい、


「左京のバカァッ! 急に誉めないでよお!」


と泣き出しました。


「何なんだよ、お前は?」


 左京は訳がわかりません。


「金魚すくいだ。やるか?」


 左京はそんなありさを放置し、夜店を見ます。


「はい」


 樹里が早速チャレンジです。


「おおお!」


 樹里はまるで魔術師のように金魚を次々にすくいます。


 左京とありさも驚愕しています。


「凄いな、嬢ちゃん。相当練習したな?」


 オジさんが顔を引きつらせながら言いました。


 商売あがったりなくらいすくわれてしまったのです。


 しかし、樹里は笑顔全開で、


「いえ、生まれて初めてしました」


と強烈なバックハンドボレーを返します。


 オジさんは燃え尽きたように動かなくなりました。




 こうして、樹里は、次々に夜店を制覇して行きました。


「もう持ち切れないから、事務所に帰ろう」


 左京は両手いっぱいに景品と金魚の入ったビニール袋を持っています。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 そして翌日、左京は町内会の人達に、


「もう祭りに来ないでくれ」


と言われてしまいました。


 


 めでたし、めでたし。

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