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樹里ちゃん、五反田氏に相談される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、樹里は五反田氏の愛娘の麻耶に就職の事で相談されました。


 樹里は麻耶の迷いを解き、お礼を言われました。


 ところが、麻耶の反応に打ちのめされてしまった五反田氏が、樹里に相談をして来たのです。


「樹里さん、申し訳ないが、今日は邸には行かずに本社ビルに来て欲しい」


 五反田氏に電話で言われ、樹里はいつもより早く家を出ました。


 当然の事ながら、住所不定の変態集団にはその事は伝わりませんでした。


「我らは住所不定ではありません! そして、変態集団でもありません!」


 どこかで切れる昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。




 この事に一番驚いたのは、元泥棒のキャビーでした。


「やめて!」


 涙ぐんで地の文に切れる目黒弥生です。


(樹里さんが今日はこっちに来ないという事は、私一人で邸の掃除をするって事?)


 目眩めまいがしてしまう弥生ですが、かつて樹里は一人でこなしていたと思う地の文です。


「ううう……」


 それを言われると一言もない弥生です。




 樹里は五反田氏が差し向けたリムジンに乗り、五反田グループの本社ビルへ向かいました。


(樹里がどんどん遠い存在になっていくような気がするのは気のせいだろうか?)


 眠っている四女の萌里を抱いてリムジンを見送った不甲斐ない夫の杉下左京は思いました。


 気のせいではなく現実ですと教えてあげたい地の文です。


「かはあ……」


 地の文の大きめの独り言に血反吐を吐きそうになる左京ですが、萌里を抱いているので何とか踏み止まりました。


 


 そして、当然の事ながら、樹里は何事もなく五反田グループの本社ビルに到着しました。


「お待ちしておりました」


 五反田氏の秘書の女性が出迎えました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里はいつものように深々と頭を下げて詫びました。


「いえ、その、そんなつもりで申したのではありませんので……」


 秘書の女性は周囲の視線を気にしながら言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「私、第一秘書の烏丸からすまエミリー千明ちあきと申します」


 女性は樹里に名刺を渡しました。


「そうなんですか」


 樹里は名刺を両手で受け取り、しげしげと見ました。


「よろしくお願い致します、ホランさん」


 早速名前ボケで返す樹里です。


「そのちあきではありません」


 苦笑いをして応じる烏丸です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 そして二人はエレベーターで最上階にある五反田氏の執務室へ行きました。


「樹里様をお連れしました」


 烏丸がドアの脇にあるインターフォンに言いました。


「どうぞ」


 五反田氏の声が応じてドアロックが解除されました。烏丸がドアを開き、樹里を入らせてからドアを閉じました。


「樹里さん、忙しいのに申し訳ないね。さ、かけて」


 五反田氏はデスクから顔を上げて立ち上がると、目の前にある大きなソファに移動しました。


「失礼致します」


 樹里は深々とお辞儀をして進み、五反田氏の向かいのソファに座りました。


「お飲み物は?」


 烏丸が尋ねました。


「樹里さんは?」


 五反田氏が微笑んで尋ねました。


「では、ミルクティーを」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「私はブラックで」


 五反田氏が言いました。


「畏まりました」


 烏丸は部屋の一角にあるカウンターへ歩を進めました。


「早速で申し訳ないんだが、相談というのは、麻耶の事なんだよ」


 五反田氏は樹里を見ました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「麻耶には就職活動などしなくてもいいように、グループに新しい部署を用意してそこに入ってもらうつもりだったのだが、拒否されてね。妻にも叱られて、どうしたらいいのかわからないんだよ」


 五反田氏は烏丸が出したコーヒーを一口飲みました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。そしてミルクティーを一口飲みました。


「お嬢様が他の人と同じように会社の面接を受けて、同じように所属を決められ、同じように研修を受けるのであれば、喜んで旦那様の会社で働かれると思います」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「それでは麻耶が可哀想だから、部署を用意したのだが……」


 五反田氏は腕組みをしました。


「お嬢様がお可哀想だというのであれば、用意された椅子に座るだけの方がお可哀想だと思います」


 樹里は更に笑顔全開で言いました。五反田氏はハッとしました。


「旦那様がご自分が通られた道をお嬢様に通って欲しくないので、そのようなお考えをお持ちなのだと思いますが、それはお嬢様を全く信用されていないという事になりませんか?」


 樹里は真顔で言いました。五反田氏はビクッとしました。


(樹里さんの真顔、初めて見たが、怖い)


 樹里の真顔にビビる五反田氏です。


「旦那様のお子さんなのですから、お嬢様を信用なさってください。きっと実力でご自分の道を切り開かれると思います」


 樹里の言葉に五反田氏は苦笑いをしました。


「その通りだね。私は麻耶を全然信用していなかった。就職活動をすれば、その波に呑まれて挫折してしまうと思っていた。確かに樹里さんの言う通りだよ。父親として恥ずかしい限りだ」


 五反田氏はもう一口コーヒーを飲みました。


「お嬢様なら、旦那様のご期待にお答えになれると思っています」


 樹里はミルクティーを飲んで言いました。


「ありがとう、樹里さん。助かったよ」


 五反田氏は立ち上がりました。樹里も立ち上がり、


「良い跡継ぎが育ちますね」


 笑顔全開で言いました。五反田氏は微笑んで、


「そうだな。婿殿に期待するよりも、麻耶に期待しようか」


「では、お嬢様とはじめ君の結婚をお認めになるのですね?」


 樹里が笑顔全開で尋ねました。五反田氏は苦笑いをして、


「それはまた別の話、と言いたいところだが、麻耶は絶対に譲らんだろうね」


 そして、


「引き止めてしまって悪かったね。目黒さんから救難信号が出ているようだから、申し訳ないが、邸に行ってくれるかね?」


 烏丸に渡されたメモを見て言いました。


「承知しました」


 樹里は笑顔全開で会釈しました。


 


「樹里さん、助かりますう」


 樹里が邸に着くと、涙ぐんで出迎えた弥生です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 めでたし、めでたし。

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