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樹里ちゃん、全日本推理小説大賞授賞式に招待される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


「樹里さん、貴女を名誉ある全日本推理小説大賞の授賞式に招待しますわ」


 あの上から目線の推理作家である大村美紗が五反田邸まで押しかけて、いつものように偉そうに告げました。


「またどこかで私の悪口を言っている人がいるようだけど、空耳なのよ!」


 幻聴と戦う美紗を陰ながら応援する地の文です。


 何故樹里が招待されたのかというと、美紗は五反田氏を招待したかったのですが、


「多忙につき辞退致します」


 丁重に断られてしまいました。そこで、かつて美紗の小説が原作となった映画に主演した樹里に目を付けたのです。


(大賞の受賞者はこの私に決まっていますわ。知名度の高い樹里さんを賓客として招待すれば、私の次回作の良い宣伝になる事間違いなし!)

 

 計算高い美紗はそんな事を考えていました。


 メイド探偵の映画は確かに美紗の小説が原作ですが、その元となったのは、メイドである樹里の存在だと思う地の文です。


 いずれにしても、樹里におんぶに抱っこの美紗です。


 そういう事で、樹里は仕事をお休みして、受賞会場のある品川区の高級ホテルへ行きました。


 例によって、四女の萌里は樹里の姉の璃里が預かっています。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、今回登場できなかった数多くの人達は項垂れ全開です。


 何か叫んでいる人がいますが、全部無視する地の文です。


 そして、護衛する人がいなくても、樹里は無事にホテルに着きました。


 そろそろ彼らの降板を真剣に考えた方がいいと思う地の文です。


「お待ちしておりました、樹里さん。私、本日の授賞式を主催しております、丸山書店の丸山丸男です」


 丸顔の巨漢の男が不用意な発言をしました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里は深々と頭を下げて謝罪しました。


「あ、いや、そういう意味で言った訳ではありませんので……」


 嫌な汗をたくさん掻いて焦りまくる丸山です。


「あら、樹里さん、いらしたの。こちらですわ」


 いつも以上にそっくり返った美紗が現れて、横柄に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。美紗はサッサと樹里を伴ってロビーを歩いて行きました。


 丸山は唖然としてその場に取り残されました。


(この賞はもっと売れている作家に受賞してもらうものなんだぞ。どうして最近ヒット作がないあんたが図々しく取り仕切っているんだよ!)


 丸山は美紗の後ろ姿を見て思いました。


 


「樹里さん、忙しいのにありがとうございます」


 会場の受付に美紗の娘で、人気作家となっているもみじがいました。


「お久しぶりです、もみじさん」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「もみじ、樹里さんを来賓席にご案内して。私は社長と話があるから」


 美紗はそれだけ告げると、丸山のところへ戻って行きました。


「本当に勝手なんだから」


 もみじは溜息混じりに言ってから、


「こちらです」


 樹里を先導して会場となっている大広間に入って行きます。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じてついて行きました。


 樹里が入っていくと、広間のあちこちで関係者に取材していた報道陣が一斉に駆け寄ってきました。


「樹里さん、今回大賞を受賞した作品を映画化する事が決まっていますが、主演をするのですか?」


 貴社の一人が尋ねました。


「知りません」


 樹里は笑顔全開で答えました。考えてもいなかった答えを返され、唖然としてしまう記者です。


 やがて会場に審査員や主催の丸山書店の人達が現れ、式が始まりました。


 美紗が強引に出席をねじ込んだ樹里が紹介され、会場に歓声が湧きました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 新人賞や特別賞が発表され、遂に大賞の発表だけとなりました。


(いよいよだわ。私の作品が呼ばれるのよ!)


 期待に胸を膨らませ、司会席にいるテレビ夕焼の新人アナウンサーの長田おさだ祥子しょうこを見つめました。


「ひっ!」


 美紗にジッと見られているのに気づき、思わず小さな悲鳴をあげてしまう長田アナです。


「それでは発表致します」


 長田アナは渡された封筒を開き、中の紙を広げ、顔を引きつらせました。


(これを発表して、私は無事にこの会場を出られるのかしら?)


 長田アナは美紗の視線を避けるように顔を動かして、


「今年度の全日本推理小説大賞は……」


 言葉を切りました。


(早くお言いなさい!)


 美紗は長田アナを睨みつけましたが、長田アナは目を合わせようとしません。


「『白い死神』、内田陽紅うちだようこうさんです!」


 長田アナはそれだけ言うと、身をかがめました。


「え?」


 美紗は呆然としました。


「は?」


 受付から会場へ入ってきて、いきなりスポットライトを当てられたもみじはキョトンとしました。


(ざまあみろ、強欲ババアめ!)


 美紗に見えない位置に立ち、ほくそ笑む丸山です。


 美紗はとうとうその場に倒れてしまいました。


「お母様!」


 もみじ、そして裏方にいたその夫の内田京太郎が駆け寄りました。


「気を失っているだけです」


 誰よりも早く駆けつけ、美紗の脈拍をた樹里が言いました。


「そうなんですか」


 もみじと京太郎は樹里の口癖で応じました。


「樹里さん、主演お願いしますね」


 気を取り直したもみじが微笑んで言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「おめでとう、もみじ! 私、サプライズゲストだよ!」


 そこへいきなり花束を抱えた松下なぎさが現れました。


 自らサプライズと言ってしまうのはどうかと思う地の文です。


「なぎさお姉ちゃん!」


 もみじは驚きました。京太郎は唖然としています。なぎさは倒れている美紗に気づきました。


「あら、叔母様ったら、まだ気絶ギャグしているの? 被せがしつこいね。○○○○○○みたい」


 なぎさが非常に微妙な事を言ったので、慌てて伏せ字にする地の文です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


 


 めでたし、めでたし。

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