表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
677/839

樹里ちゃん、誕生日を祝われる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は十一月二十七日、樹里の誕生日です。


 見た目は長女の瑠里(十歳)と姉妹に思える程若く見える樹里ですが、遂に三十一歳になりました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。年齢の事を述べると烈火の如く怒る由里や璃里とは違い、極めて温厚な性格です。


「何ですって!?」


 どこかで聞きつけた由里と璃里が地の文に詰め寄るように叫びました。


 そのせいで、地の文は身体の水分の大半が漏れ出てしまいました。


「樹里、誕生日おめでとう」


 今日も仕事がない不甲斐ない夫の杉下左京が言いました。


「今日は仕事がないんだよ!」


 樹里の前なので、見栄を張る左京です。この一週間、猫を一匹探しただけなのは確かだと思う地の文です。


「かはあ……」


 正確な情報を提供した地の文の言葉に血反吐を吐く左京です。


「ありがとうございます、左京さん」


 樹里は笑顔全開で左京が手渡した花束を受け取りました。


「ママ、おめでとう」


 瑠里と次女の冴里、そして三女の乃里がキッチンのテーブルにバースデーケーキを運んできました。


「ありがとう、瑠里、冴里、乃里」


 樹里は涙ぐんで言いました。


(涙ぐむ樹里、可愛い)


 左京は変態的な事を思いました。


「変態的じゃねえよ!」


 正しい評価をしたはずの地の文に切れる左京です。


 左京と娘達もテーブルに着きました。そして、瑠里がケーキのろうそくに火をともしました。


「ママ、けして」


 冴里が言いました。樹里は一気に火を吹き消しました。


「わあい!」


 瑠里と冴里と乃里は拍手をして大喜びました。


「それじゃあ、切り分けようか」


 左京がナイフを持って言いました。


「それはわたしがするの!」


 瑠里がナイフを奪い取り、手際よくケーキを切り分けました。


「瑠里、綺麗に切れましたね」


 樹里が笑顔全開で褒めました。左京は何となく面白くなさそうです。


「はい、一番大きいのはママ」


 瑠里が皿に取り分けたケーキを樹里の前に置きました。


「いちばんちいさいのは、パパね」


 冴里が左京の前に皿を置きました。


「はい……」


 反論できない左京は項垂れて応じました。


「乃里はこれね」


 次に小さいケーキを瑠里が渡しました。


「ありがとう、おねえちゃん!」


 乃里は喜んで受け取りました。


「残りはじゃんけんね」


 瑠里と冴里は壮絶なじゃんけん合戦を繰り広げました。


 結局、冴里が勝ち、瑠里は嫌々ながら二番目に大きいケーキを冴里に渡しました。


(もっと頑張ろう)


 一番小さいケーキを見ながら、左京は思いました。


「左京さん、食べきれないので、少しお願います」


 樹里が言いました。


「そうか?」


 左京が嬉しそうに応じると、


「ダメ! パパは一番小さいのだけでしょ!」


 瑠里がすかさず言いました。すると樹里は、


「このケーキはママのものだから、誰にあげてもいいのですよ」


 笑顔全開で言いましたが、目が笑っていないのに気づいた瑠里は、


「はい、ママ」


 顔を引きつらせて引き下がりました。


「俺、甘いもの苦手だから、瑠里にあげるよ」


 左京が心にもない事を言いました。


「そんな事ねえよ!」


 深層心理を見抜いた地の文に切れる左京です。


「え? ホント?」


 瑠里が目を輝かせました。


「ずるい、おねえちゃん!」


 冴里が異を唱えました。


「左京さん、ダメです。瑠里も冴里も、自分の分を食べなさい」


 樹里が遂に真顔全開になりました。


「はい……」


 涙ぐんで応じる瑠里と冴里です。


(樹里、怖いよ)


 左京ももう少しで泣きそうになりました。


(それにしても、樹里から分けてもらったケーキ、食べるの気が引けるなあ)


 左京は自分の分よりも大きい樹里から分けてもらったケーキを見ました。


(これを俺が食べてしまったら、樹里が一番小さいケーキを食べる事になる。それも気が引ける)


 稼ぎが樹里の十分の一にも満たない左京にはそんなにケーキを食べる資格がないと思う地の文です。


「やめろ!」


 現実を突きつけた地の文に血の涙を流して切れる左京です。


「樹里、これはやっぱり樹里が食べるべきだよ」


 左京はケーキを樹里に返そうとしました。


「そうなんですか?」


 樹里は小首を傾げて応じました。


(また可愛い!)


 左京はその仕草に胸がドキドキしました。通報しましょう。


「何でだよ!」


 コンプライアンス的に正しい事を述べたはずの地の文に抗議する左京です。


「このケーキは瑠里と冴里がお小遣いを出し合って買ったものなんだ。主役の樹里が遠慮したら、ダメだよ」


 左京が小声で言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じると、左京が差し出したケーキを受け取りました。


 左京も出したのですが、その分は食べたので、満足なのです。


「くはあ……」


 負担分相応のケーキを食べた左京は、悶絶するしかありませんでした。


「では、いただきます」


 樹里は戻ってきたケーキを切り分けて食べ始めました。


 すでに食べ終わった瑠里と冴里はそれをジッと見ています。


「もっと食べたいのですか?」


 樹里が尋ねました。瑠里と冴里は首を横に振りました。


「では、ママはお腹がいっぱいになりましたから、これは明日分けて食べましょう」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「うん、ママ!」


 目を輝かせて応じる瑠里と冴里です。


(ああ、俺も食べたかったなあ)


 本当は甘いものが好きな左京は悲しそうです。


 


 しばらくして、瑠里と冴里と乃里は一緒にお風呂に入りに行きました。


 四女の萌里が目を覚ましたので、樹里は授乳をしました。


「樹里、これ、気に入ってもらえるかな」


 左京は樹里に指輪を見せました。


「左京さん、それは?」


 樹里は萌里にゲップをさせながら尋ねました。


「誕生日プレゼント」


 左京は照れ臭そうに言いました。


「ありがとうございます」


 樹里は指輪を受け取ると、左京とキスをしました。長いキスです。


「わああ、パパとママがキスしてる」


 戻ってきた冴里が言いました。


「シッ!」


 瑠里が冴里をたしなめました。


「さーたんもわっくんとしたいなあ」


 冴里がぼそりと言ったので、


「まだ早い!」


 保育所に行っていた時、ボーイフレンドのあっちゃんとキスしまくっていた瑠里が言いました。


 


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ