表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
672/839

樹里ちゃん、更に別の旅番組に出演する(後編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里はブジテレビの旅番組である「なりきりぶっつけ本番旅」に出演するために上野にあるヤーク放送センターへ行きました。


 そこで出会ったのは、スケベ俳優の加古井かこいおさむとギャル○根でした。


「誰がスケベ俳優だ!」


 地の文に切れる加古井です。


「私はまだ十八歳よ!」


 同じく地の文に切れるみゆゆこと貫井ぬくい美優みゆです。


 そんな凸凹コンビを束ねるのは、ブジテレビきっての美人アナウンサーの崎山陽子です。


 夫はお笑い芸人です。


「違います! 人気俳優です!」


 崎山アナも地の文に切れました。


 一行は貸切の観光バスに乗り、最初の目的地である浅草へ向かいました。


 なりきりぶっつけ本番旅のはずなのに、行き先が決まっているのはおかしいと思う地の文です。


「細かい事を言わないで!」


 核心を突いた地の文に切れる常務取締役の酒野さけの投馬美つまみです。


「先方の都合とかあるでしょ! アポなしで行くなんて、あり得ないのよ!」


 テレビの裏側を赤裸々に語ってしまう酒野です。


 そんな事をしているうちに、バスは浅草の雷門前に着きました。


「では皆さん、ここでバスを降りて、浅草寺へ向かいます」


 地の文と酒野の議論をよそに、崎山アナが樹里達を先導して、雷門をくぐりました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「ああ、樹里ちゃんだ!」


 どこで情報を入手したのか、樹里ファンのヤバそうな一団が一行を取り囲みました。


「はい、すみません、撮影中ですので、離れてください」


 屈強な黒尽くめの人達がロケバスから降りて来て、ヤバい人達は一瞬にして排除されました。


「では、進みましょう」


 崎山アナは何事もなかったかのように仲見世通りを歩いて行きます。


「加古井さん、みゆゆ、これ欲しいなあ」


 みゆゆが土産物店で木刀を指差しました。


扇子せんすよ!」


 事実を捏造する癖が治らない地の文にみゆゆが切れました。


「いいよ、買ってあげる」


 みゆゆにしなだれかかられ、鼻の下を伸ばして応じる加古井です。


 動画を加古井の妻の稲垣いながき琉衣るいに送ろうと思う地の文です。


「勘弁してください」


 会心の土下座で地の文に懇願する加古井です。


(加古井さんたら、みゆゆにデレデレして!)


 それを見て嫉妬する崎山アナです。離婚間近でしょうか?


「離婚はしないわよ!」


 鋭い分析をした地の文に切れる崎山アナです。


「みゆゆさん、お買い物はカメラが回っていないところでお願いしますね」

 

 崎山アナはやんわりみゆゆをたしなめました。


「はーい」


 みゆゆは最初から加古井をからかって面白がっていただけなので、素直に応じました。


 なかなかしたたかだと思う地の文です。


 そして、一行は浅草寺の前に着きました。


「身体の悪いところにお線香の煙を浴びると良くなるそうですよ」


 崎山アナが今更な情報を言いました。


「そんなの、嘘ですよね。もし本当なら、ここに来た人、全員天才や超美人になれますよね?」


 またみゆゆが暴走しました。


「あはは、そうかもね」


 加古井が同調しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 それを歯軋りして睨んでいる浅草寺の関係者の皆さんに気づいた三竹啓介ディレクターは、


(全面カットしないと、浅草寺出禁になる)


 撮れ高がありそうなみゆゆの発言を全てカットする事を決断していました。


「何度も来る事によって、足腰が丈夫になって、それがきっかけで健康になり、血流が良くなって若返ったり、頭の回転が良くなったりするのかもしれませんね」


 樹里が突然すごく真っ当な事を言ったので、


(使える!)


 全部そのまま放送しようと思う三竹です。浅草寺の関係者の皆さんも笑顔で頷いています。


(御徒町樹里、何で私の発言を上回る事を言うのよ! 早めに潰さないと、邪魔になるわね)


 みゆゆが誰にも見えないところで舌打ちをしました。


「さすが樹里さん、素晴らしいなあ」


 加古井は拍手をして樹里をたたえました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(加古井さんは結局御徒町樹里の味方なのね。だったら、潰しとかないと)


 みゆゆは加古井も敵に認定したようです。


 樹里達はそのままお堂へ行き、お賽銭をあげて、お参りをしました。


(どうか芸能界で一番の稼ぎになりますように)


 線香の煙の効能は信じないのに、しっかり願い事はするみゆゆです。


(どうか、琉衣に浮気がバレませんように)


 とんでもない事をお願いする加古井です。


(皆さんが穏やかに過ごせますように)


 樹里はまさに菩薩様のような願い事をしました。


『其方の望み、叶えようぞ』


 どこからか、ご本尊様である聖観世音菩薩様のお声が聞こえました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「では、バスに戻りましょう」


 崎山アナが言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「加古井さん、みゆゆ、買って欲しいものがあるんだけどお」


 カメラが止まると、早速みゆゆが動きました。


(あの子、本当にとんでもない子ね)


 それを見て、イラッとする崎山アナです。


「ああ、いいよお」


 またデレデレする加古井です。二人は連れ立って土産物店へと歩き出しました。


「ひゃあ!」


 その時、みゆゆが悲鳴をあげました。彼女の頭に鳩のフンが落ちたのです。


「ああ、大丈夫?」


 加古井がハンカチを取り出して拭おうとした時、その手にも鳩のフンが落ちました。


「うわ!」


 加古井が思わずフンを払いのけると、それがみゆゆのミニスカートに飛び散りました。


「いやああ!」


 みゆゆが絶叫しました。


「どなたか、ティッシュをお持ちですか?」


 樹里も自分のティッシュを取り出しながら、スタッフに尋ねました。スタッフが一斉にポケットやバッグを漁り始めます。


「みゆゆ、大丈夫?」


 みゆゆのマネージャーが駆け寄りました。


「鳥のフンは乾いたティッシュでつまみ取るようにしてください。取り終えたら、ウェットティッシュで拭き取ります」


 樹里の的確な処置のおかげで、みゆゆのミニスカートは事なきを得ました。


「鳥のフンは酸性が強いので、生地が傷む恐れがあります。それから、細菌類もたくさんいますので、できるだけ早く、洗浄してください」


 樹里の行動にみゆゆは反省しました。


(こんないい人を陥れようとしたなんて、私は最低だ)


 一瞬にして、樹里信者になってしまったみゆゆです。


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ