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樹里ちゃん、別の旅番組に出演する(後編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里は五反田にある大東京テレビ放送(DTB)の旅番組の収録に参加しています。


 三人で五反田から八王子までバスや電車を乗り継いで所持金をどこまで残せるかを競う旅です。


 他の出演者である女優の高瀬莉維乃たかせりいのとお笑い芸人の佐藤不可子は、スタート直後、大きく出遅れ、すでに樹里の勝利は確定したかに思えました。


「取り越し苦労だよ」


 番組がボツになるのではと案じていたアナウンサーの安掛一郎あんかけいちろうは、編成局長である大神少年おおがみすくなとしに言われました。


(この人は、平気でやらせをする人だった)


 安掛は、大神がそうやってのし上がったのを思い出しました。


「テレビなんて、過剰な演出とお約束でできているんだよ、安掛君。もっとドキドキハラハラな展開が待っているよ」


 大神はニヤリとしました。


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で応じてしまう安掛です。


 安掛と大神はロケバスに乗り、樹里達の先回りをするべく、中央道へ向かいました。




「樹里さんの姿が見えないわ!」


 莉維乃は焦っていました。


(今度の連ドラの番宣なのに、無様な姿は見せられない)


 莉維乃はその連ドラの主演ではありませんが、番宣を成功させ、視聴率に貢献すれば、次の連ドラが約束されているのです。


(申し訳ありませんが、高瀬さんにはビリになってもらいます)


 一方、不可子もお笑いのネタ番組の企画を懸けての出演なので、負けられないのです。


「お先です、高瀬さん」


 不可子が先に切符の購入をし、改札を抜けました。


「仲間じゃないの!?」


 莉維乃は鬼の形相で不可子を追いかけました。莉維乃は大神から、


「佐藤さんがビリ要員ですから、高瀬さんは慌てなくても大丈夫ですよ」


 そう言われていたのです。


 もちろん、不可子も大神に釘を刺されていますが、それ以上に新番組の企画を通したい気持ちが強いので、負ける訳にはいかないのです。




「何?」


 大神は五反田駅にいるスタッフから、不可子が莉維乃を出し抜いて、先に電車に乗り込んだと聞きました。


「佐藤の好きな銘菓を新宿駅に配置しろ。足を止めるんだ」


 大神はすぐに別のスタッフに指示を出しました。


「それから、御徒町樹里には例の作戦を発動しろ。差がつき過ぎては、番組が盛り上がらない」


 更に別のスタッフに携帯で指示を出しました。


 


 すでに樹里は新宿駅に到着し、京王線のホームを目指していました。


「樹里さんはもう京王線に乗ります」


 若手スタッフが携帯で連絡しました。


「すぐに作戦Xを発動しろ。足を止めるんだ」


 上司のスタッフが指示をしました。


「わかりました!」


 若手スタッフは京王線の改札口近くで待機していたお婆さんに指示を出しました。


 お婆さんはエキストラ歴五十年のベテランです。樹里を止めるためにあらゆる手段を講じろと言われています。


「あああ!」


 お婆さんは樹里の目の前でよろけ、持っていた巾着袋を放り出しました。


「大丈夫ですか?」


 樹里はすぐに巾着袋を拾って手渡し、お婆さんを立たせました。


「ありがとうございますう。切符の買い方もわからなくて……」


 お婆さんは京王線ではなく、別の路線へ樹里を連れて行こうとしました。


「何線ですか?」


 樹里はお婆さんの探している路線を聞き出すと、お婆さんをひょいと背負い、スイスイと人混みをかき分けて進みました。


「どこまでですか?」


 樹里は更に行き先を聞き出して、券売機ですぐに切符を購入し、お婆さんを連れて改札を通しました。


「お気をつけて」


 樹里は笑顔全開で告げると、サッと京王線の改札口へと急ぎました。


 お婆さんは茫然自失のていでそれを見送りました。


「樹里さんが作戦Xをクリアしてしまいました!」


 若手スタッフが慌てて連絡しました。


「次だ次!」


 上司のスタッフも慌てて指示しましたが、


「ダメです! 樹里さんはもう乗車してしまいました!」


 若手スタッフは泣きべそをかきながら言いました。


「通常の三倍のスピードだというのか?」


 上司のスタッフは樹里の速さにあるアニメのキャラを思い出しました。


 


 樹里を追っていた不可子は、新宿駅で大好きなスイーツの食べ放題イベントを見つけてしまい、葛藤の末、並んでしまいました。


 凄い行列なのですが、その大半はスタッフの変装です。しかも、一人が大量買いして、時間がかかっています。


「お先に」


 それを横目に見て、莉維乃が不可子を逆転しました。


「あああ!」


 不可子は抜かれた悔しさとスイーツへの執着が激突して、悶々としていました。


「樹里さん、今の電車に乗ったわね!」


 遅れを取り返してきた莉維乃は樹里の乗った次の電車に乗りました。


「高瀬さんは各駅停車に乗ってしまいました」


 若手スタッフが連絡しました。


「それはどうにもできないから、樹里さんを止めろ!」


 上司のスタッフは別のスタッフに指示しました。


 樹里の乗った電車が駅に停車しました。


「樹里さん、ファンです! サインをしてください」


 大勢のサクラの男達が樹里に群がり、電車から下ろしてしまいました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で神対応です。


「おお!」


 サクラの男達は樹里のあまりの優しさに心を打たれ、樹里を次に来た電車に乗せてしまいました。


「何してるんだ! それに乗られたら、高瀬さんが追いつけないだろ!」


 怒り心頭の上司のスタッフですが、後の祭りです。


 結局、不可子はスイーツの誘惑に負け、莉維乃は各駅停車に飛び乗ったのが災いして、樹里はそのまま逃げ切りで優勝しました。


 大神編成局長は地団駄踏見ました。


「ボツだ、ボツ!」


 大神は怒り狂って叫びましたが、


「樹里さんが撮影をしていましたが、いつ放送になりますか?」


 DTBに問い合わせが殺到し、急遽放送が繰り上げられ、高視聴率となりました。


 そのお陰で、大神は重役待遇になり、安掛もアナウンス部の副部長に昇進したそうです。


 割りを食ったのは、莉維乃と不可子だけでした。


 


 めでたし、めでたし。


 

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