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樹里ちゃん、久しぶりにテレビ収録にゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里は芸人である西園寺伝助の旅番組に飛び入り出演したのがきっかけで、民放キー局の番組に出演する事が決まりました。


 五反田氏が反対するかと思われましたが、


「樹里さんがいいのなら、構わないよ。ウチを通さずに直接出演料を受け取っていいから」


 太っ腹な事を言いました。それを誰より喜んだのは、樹里のヒモの杉下左京でした。


「ヒモじゃねえよ! 喜んでもいねえよ!」


 真実を突きつけられても受け入れず、地の文に切れる左京です。


「俺は樹里にテレビに出て欲しくないんだ。また大勢、変な連中が樹里にまとわりつくから」


 左京は樹里が自分を捨てて、もっと若くてかっこいい男と再婚するのではないかと心配しているのです。


「ち、違うぞ!」


 図星なので、動揺しながら地の文に切れる左京です。そして登場はここまでです。


「何でだー!?」


 叫ぶ左京ですが、無視する地の文です。


 


 今日は樹里はテレビ夕焼の本社ビルに来ています。四女の萌里はベビーカーの中で眠っています。


「樹里さん、お久しぶりです」


 アナウンサーの松尾彩が挨拶しました。今日は、天敵の長女の瑠里も次女の冴里もいないので、嬉しそうです。


「そんな事、ありません!」


 すっかりベテランになった松尾アナが地の文に切れました。


「お久しぶりです、松尾さん。今日はよろしくお願いします」


 樹里は深々と頭を下げました。


「樹里さん、お待ちしていました」


 そこへチーフプロデューサーの山梶やまかじ欣三きんぞうが来ました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里はいつものように謝罪しました。


「あ、いや、そういうつもりで言ったのではなくてですね……」


 樹里の取り扱いに不慣れな山梶は動揺しました。


「さ、樹里さん、こちらですよ」


 松尾アナは山梶をひと睨みして、樹里を連れて行きました。


(俺は何をやらかしてしまったんだ?)


 松尾アナに睨まれた理由がわからず、山梶は混乱しました。


 


 樹里は松尾アナの案内でスタジオの中に入りました。萌里はスタジオの外にある育児室に預けられています。


「樹里さん、今日はよろしくお願いします、新人アナウンサーの長田祥子おさだしょうこです」


 ピチピチの若い女性アナウンサーが挨拶をしてきました。


「よろしくお願いします」


 樹里は笑顔全開で挨拶しました。


(長田ちゃんの可愛さも、樹里さんに比べると大した事ないな)


 スタジオ中の男共が酷い事を考えていました。


(どうよ。私の方が若いし、可愛いわ)


 そんな風に思っている長田アナもどうかと思う地の文です。


「樹里さん、お久しぶりです。アナウンス部の部長の中下陽子です」


 この人も、瑠里と冴里がいないので、安心して出て来ました。


「何の事ですか!?」


 秘密にしておきたい事を何でもバラしてしまう地の文に切れる中下アナです。


「ご昇進、おめでとうございます」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「ありがとうございます」


 中下アナは上機嫌で応じました。


「今日は、樹里さんにご出演いただく旅番組の予告映像を撮らせていただきます。よろしくお願いします」


 中下アナが言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「では、私がカンペを出しますので、それをお読みください。すぐに終わります」


 髪の毛の寂しいディレクターが言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。樹里は中下アナと長田アナの間に挟まれる形で立ちました。


「では、本番いきます」


 何度かのテストの後、いよいよ本番です。


「3、2、1、はい!」


 ディレクターが切欠キューを出しました。


「皆さん、お待たせ致しました。いよいよ、あの御徒町樹里さんが旅番組に出演する事が決まりました」


 中下アナが流暢な喋りで始めました。


「私もとても楽しみにしていました」


 次に自分が可愛いと思っている長田アナが言いました。


「可愛いのよ!」


 素早く地の文に切れる長田アナです。


「西園寺伝助の昼食食べたらいけませんか?秋のスペシャルです」


 長田アナが続けました。そこにディレクターが樹里にカンペを出しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で読みました。カンペは要らないと思う地の文です。


「お楽しみに!」


 中下アナ、長田アナ、樹里の三人が声を揃えて言いました。


「はい、オッケーです!」


 ディレクターが感動して言いました。


「さすが、樹里さん! 一発で決まりました。お疲れ様でした」


 ディレクターはこんなご時世なのに樹里に握手をして来ました。


「そうなんですか」


 人を疑った事がない樹里は笑顔全開で応じました。


(セクハラオヤジ)


 中下アナと長田アナは羨ましそうに思いました。


「違うわよ!」


 心情を読み違えた地の文に揃って切れる中下アナと長田アナです。


「あの」


 樹里が言ったので、ディレクターはビクッとして樹里から手を放しました。


(やばい? 訴えられる?)


 終わったと思ったディレクターでしたが、


「今日は、西園寺さんはいらしていないのですか?」


 樹里が尋ねたので、ホッとし、


「ああ、西園寺さんは別ロケで外に出ていますよ」


 すると樹里は寂しそうな顔で、


「そうなんですか」


 応じました。


(おお、これは必ず西園寺さんに伝えないと!)


 芸人を乗せるためなら、多少の嘘も辞さないディレクターはニヤリとしました。


 


 しばらくして、樹里が帰った後、外ロケから伝助が帰って来ました。


「何だよ、樹里さん、帰っちゃったの? 引き止めてよお」


 残念そうに言う伝助ですが、


「それが、樹里さん、西園寺さんに会えなくて、残念そうでしたよ」


 ディレクターが耳打ちすると、


「そ、そうなの?」


 とても嬉しそうになる伝助です。


 


「もしもし、お祖母ちゃん」


 テレビ局からの帰りの駅のホームで、樹里は御徒町旅館の女将で樹里の祖母である美玖里みくりと話していました。


「西園寺さんには会えなかったです。持ち帰ってしまった浴衣の件を話せませんでした」


 樹里は残念そうに告げました。


「言伝をするとご迷惑になると思ったので。今度お会いした時、直接お話しします」


 樹里は言いました。


 伝助に会いたかったのは、業務連絡のためでした。その頃、何も知らない伝助は有頂天になっていました。


 


 めでたし、めでたし。

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