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樹里ちゃん、ある芸人の旅番組に偶然出演する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里達は土日の休みを利用して、樹里の母親である由里の実家があるG県S市の温泉にやって来ました。


 不甲斐ない夫の杉下左京は、ゴールデンレトリバーのルーサと一緒にお留守番です。


「来てるよ!」


 地の文のモーニングジョークに激ギレする左京です。


「そうなんですか」


 樹里は大人数の時に活躍するミニバンを運転しながらの笑顔全開です。


「そうなんですか」


 長女の瑠里と次女の冴里と三女の乃里は中部座席で笑顔全開です。


 左京は後部座席で、四女の萌里をお守りしています。


(萌里はいつまで一緒にお風呂に入ってくれるかなあ?)


 変態的な事を考えている左京です。できれば結婚するまで一緒に入りたいと思っています。


「思ってねえよ!」


 真相を解明したはずの地の文に切れる左京です。


「ワンワン!」


 実はトランクにケージに入って乗っているルーサが、


「相変わらず、ダメ親父だな」


 そう言っているかのように吠えました。


「着きましたよ」


 樹里が言いました。


「え? もう着いたの?」


 ドライブを満喫したかった左京は驚きました。


「おお!」


 そこはG県でも指折りの温泉地であるI温泉の石段の前です。


「この向かいが母の実家の旅館です」


 樹里が言ったので、左京達は一斉にそちらを見ました。


「おお!」


 そこには、「御徒町旅館」と書かれた看板がある雰囲気のある老舗っぽい木造旅館がありました。


(ここの温泉は何度も来ているけど、御徒町旅館には気づいた事がないな)


 左京は萌里をベビーシートから降ろしながら思いました。


「いらっしゃい、樹里。久しぶりだね」


 出て来たのは、由里を老けさせた感じのおばあさんでした。


「何だって?」


 由里に背後から凄まれ、全身の水分を失ってしまった地の文です。


「久しぶりです、お祖母ばあちゃん」


 樹里が笑顔全開で言ったので、


「ああ、初めまして、樹里さんと結婚した杉下左京です」


 左京は慌てて挨拶しました。


「ああ、そうかい。あんたが噂のヒモ亭主かい」


 樹里の祖母はガハハと笑って言いました。


「ははは」


 笑うしかない左京です。


(由里さんによく似ているな。璃里さんと樹里はどうして由里さんに似なかったんだろうか?)


 樹里の祖母は美玖里みくりという名前です。


「ささ、突っ立ってないで、中にお入り」


 樹里が駐車場に車を回している間に、左京は四人の娘達と一緒に旅館の中に入りました。


「その辺にかけていて。樹里もすぐに来るから」


 美玖里はササッと左京達に冷たいお茶を出しました。


「ありがとうございます」


 左京がお礼を言うと、


「ありがとう、ひいおばあちゃん」


 瑠里と冴里と乃里が言いました。


「みんな、樹里にそっくりでよかったねえ。この人に似たら、大変だったよ」


 美玖里の毒舌は切れ味が抜群です。


「ははは、そうですね」


 実際、そう思ってしまう左京です。


 


 その頃、樹里は旅館の横にある駐車場にミニバンをめてルーサをケージから出し、裏庭にある大きなケージに移しました。そして餌をあげてから玄関に向かって歩いていました。


「ああ、すみません、地元の方ですか?」


 どこかで聞いた事があるようなやかましい声が話しかけました。


「そうなんですか?」


 樹里が笑顔全開で振り返ると、そこにはお笑い芸人の西園寺伝助がいました。


「げっ!」


 伝助は樹里の事が大好きですが、何故かいつも酷い目に遭っているので、思わず後退あとずさりました。


(どうしてこの人がここにいるんだよ!?)


 伝助は後ろにいるテレビクルーを見ました。


「御徒町樹里さんですかと訊いて!」


 ディレクターがカンペを出しました。伝助はそれを無視して、


「御徒町樹里さんと違いますよね。では失礼します」


 樹里から離れようとしたので、


「ダメです、訊いてください!」


 更にカンペを見せるディレクターです。彼は樹里がとんでもなく数字を持っているのを知っているので、巻き込んで出演してもらおうと考えているのです。


 しかも、今は樹里はどの事務所にも所属していないし、一般人なので、ギャラが発生しないとセコい事も思いついていました。


「しばらくです、西園寺さん」


 樹里の方から話しかけてくれました。


「え? 俺の事、覚えていてくれたんですか?」


 そもそも樹里が大好きな伝助は、樹里が自分の名前を覚えていたので感激しました。


「もちろんです。優しくしてくださった方は忘れません」


 樹里が更に嬉しい事を言ってくれたので、伝助は天にも昇る心持ちです。


「旅館を探している事を言ってください」


 ディレクターがカンペを見せました。


「実はですね、今、電動自動車で旅をしている番組で、G県に来ているんですけど、旅館を探しているんです」


 伝助はすっかりスケべな顔になっています。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「どこか、いい旅館、ありませんか?」


 伝助が尋ねました。


「ありますよ。こちらです」


 樹里が歩き出したので、ディレクターがついて行くようにカンペを出しました。


「はいはい」


 カンペよりも早く、ノリノリで樹里について行く伝助です。


 樹里は御徒町旅館に案内しました。


「ここは私の祖母が経営している旅館です。部屋は一番いい部屋でいいですか?」


 樹里が振り返って言いました。


「はいはい、一番いい部屋でいいですよ」


 ますますデレデレして気持ち悪い顔になる伝助です。


「お祖母ちゃん、お客様をご案内しました」


 樹里が言うと、


「あいよ」


 美玖里の声が応じました。


「いらっしゃいませ」


 すると仲居の着物を着た瑠里と冴里と乃里が現れました。


「うわわ!」


 伝助はミニサイズの樹里がたくさん出て来たので、腰を抜かしました。


「一番お高いお部屋、ご案内です」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「お荷物お持ちします」


 瑠里が伝助の鞄を持ち、冴里と運んで行きます。


「お客様、大丈夫ですか?」


 樹里が手を貸して伝助を立たせました。


「はい、大丈夫ですう」


 樹里に手を握られ、ますます浮かれる伝助です。


(ああ、最高の旅の思い出だ!)


 伝助は涙ぐみました。


 


 その夜、伝助は樹里達のお酌と踊りで大満足しました。


(夢なら覚めないでくれ)


 伝助は樹里の笑顔を見て思いました。


 


 そして、一週間後、伝助の事務所に御徒町旅館から請求書が届きました。


 総額四十九万五千円(税込)の宿泊代でした。電子マネーでも払えるようで、QRコードも付いていました。


(安いもんだ)


 伝助はテレビ局に支払いを拒否されたので、自分で払いました。


 また泊まりに行こうと思っている伝助です。


 


 めでたし、めでたし。

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