樹里ちゃん、実家に帰る
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
「そう言えば、樹里のご先祖の墓参りをしていなかったな」
いつも暇なヘボ探偵である夫の杉下左京が言いました。
「いろいろうるせえ!」
正しい事しか言っていない地の文に理不尽に切れる左京です。
「うちはお墓はありませんよ」
樹里は笑顔全開で応じました。
「ええ?」
左京はギョッとして、
(まさかとは思うが、御徒町家は誰も死んでいないとか?)
バカな事を考えていました。
「赤川の父は次男なので、本家を出ていてお墓がありません。母も次女なので、家を出ていてお墓がありません」
樹里は更に笑顔全開で告げました。
「そうなんですか」
左京は引きつり全開で応じました。
「でも、由里さんは今、西村由里だろう? 西村さんの家のお墓はあるんじゃないか?」
「西村の父も次男なので、家を出ていてお墓がありません」
樹里がまた笑顔全開で言いました。
「そうか」
もはやそれ以上尋ねるのは無駄だと思った左京です。
「でも、お盆にはみんなで集まるのは昔からしています」
樹里は笑顔全開で付け加えました。
「え? 集まるの? 何のために?」
左京は不思議に思って訊きました。
「さあ」
樹里は笑顔全開で予想外の答えを言いました。
更に顔が引きつる左京です。
「そう言えば、樹里の妹さん達に何年も会っていない気がするな。俺も参加していいか?」
ロリコンの左京が言いました。
「違う、断じて違う!」
久しぶりに言われたので、いつも以上に動揺して地の文に切れる左京です。
「みんな何年生になったんだ? すぐ下の真里ちゃんはもう高校生か?」
JKが大好きな左京はよだれを垂らして言いました。
「垂らしてねえし、JK好きじゃねえし!」
根も葉もない事は言わない事にしている地の文に切れる左京です。
「はい。真里は高校一年生で、希里は中学三年生で、絵里は中学二年生です」
樹里は笑顔全開で言いました。
「そうかあ。俺も年を取る訳だな。樹里と出会ってから、十二年経つんだなあ」
左京は感慨深そうに言いました。
「私も今年で三十一歳ですから。年を取りました」
樹里が十二年前とほとんど変わらない笑顔で言ったので、
(俺が老人になっても、樹里はほとんど変わらないのか?)
急激に寂しさがこみ上げてくる左京です。
「樹里は若いよ。瑠里と姉妹だって言っても誰も疑わないよ」
左京はお世辞ではなく、本当にそう思って言いました。
「それでは瑠里が可哀想です」
時々冗談が通じない事がある樹里が真顔で言ったので、
「そうなんですか」
左京は強張り全開の顔で応じました。
そして、樹里達は揃って由里の家に行く事になりました。
由里も夫の西村夏彦の家から実家に行くようです。
樹里の姉の璃里も来ると聞き、左京はウキウキしていました。
「し、してねえぞ!」
半分以上当たっているので、慌てて地の文に切れる左京です。
「いらっしゃい、左京ちゃん!」
真里と希里と絵里は、身長は大きくなっていましたが、昔と同じ口調で左京を出迎えてくれました。
「瑠里!」
「紅里、瀬里、智里!」
同い年の四人は抱き合って再会を喜びました。
「左京ちゃん、しばらくだね」
由里がいつものようにウィンクして言いました。
「お久しぶりです」
左京は顔を引きつらせて言いました。夏彦は苦笑いしています。
「左京さん、しばらくです」
璃里の夫の竹之内一豊が言いました。
「しばらくです、竹之内さん」
左京はようやく同世代の男性に会えてホッとしました。
(あれ? 竹之内さんて、幾つだっけ?)
全く一豊について知らないと思った左京です。
璃里の長女の実里はますます璃里に似てきて、瑠里にはない色気があると左京は思いました。
「勘弁してください」
ことごとく心情を見抜いてしまう地の文に土下座する左京です。
「こんにちは、左京おじさん」
実里にそう挨拶され、現実に引き戻された左京です。
「わーい、阿里ちゃん!」
冴里が一つ年上の璃里の次女の阿里に声をかけました。
「冴里ちゃん!」
阿里も一番歳が近い冴里に会えて嬉しそうです。
「乃里と萌里は小さい頃の瑠里と冴里にそっくりだね」
一番お姉さんの真里が、萎縮している乃里にしゃがんで声をかけました。
「まりおねえちゃんはママにそっくりでびじんだね」
乃里が言ったので、
「ありがとう、乃里」
真里がギュッと乃里を抱きしめました。
「でもね、胸は残念なんだよ」
真里より胸が大きい希里が言いました。
「うっさいわね!」
真里はキッとして希里を睨みつけました。
そうか、胸は残念なのか。左京は思いました。
「思ってねえよ!」
深層心理の奥底まで見抜いてしまう地の文に切れる左京です。
(もしかして、かわりばんこに胸の大きさが決まるの、御徒町家は?)
璃里がこっそり反応していました。
「大丈夫だよ、真里。まだまだこれから。お母さんは璃里お姉さんを産んでから、大きくなったんだから」
由里がガハハと笑いながら大声で言ったので、璃里と真里は顔を赤らめました。
(二人産んだのに大きくない私はどうすればいいの?)
ますます落ち込む璃里です。
(こんな時、何て声をかければいいんだろう?)
一豊は妻の璃里が落ち込んでいるのに何もできない自分を責めました。
「さあさあ、ご馳走たくさん作ったから、早く座って」
由里が言いました。
(作ったの、俺なんだけどな)
そう思っても、決して口にしてはいけない事はよくわかっているので、黙っている夏彦です。
「この集まりは何の集まりなんですか?」
気になっていた左京が由里に尋ねました。
「別に。みんな、お盆で勤務先が休みなんで、何となく集まっているだけだよ」
またウィンクして応じる由里です。
「そうなんですか」
左京は引きつって応じました。
という事は、いつも仕事が休みの左京は、いつでも由里の家に来ていい事になりますね。
「うるさい!」
機転が利く地の文に切れる左京です。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開です。
めでたし、めでたし。




