表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
653/839

樹里ちゃん、保護者会の会長に呼び出される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 以前、小学校の保護者会の会長であるみのさんが左京にある写真を渡して、夫婦仲を悪くしようとした事がありましたが、結局何も起こりませんでした。


「その呼び方はやめてください! イメージが悪くなりますわ!」


 いろいろと突っ込みどころ満載であるにも関わらず、名前ボケに抗議する御法川みのりかわ文華あやかです。


 その写真を公開すれば、大打撃なのは自分の夫の方だという事がわかっていない能天気な人です。


「うるさいですわね! それくらい、いくらでも握り潰せますのよ」


 ドヤ顔で言う文華です。


「いずれにしても、杉下樹里を学校に呼び出して、コンコンと説教をしなければ、気が収まりませんわ」


 文華はまた何かを企んでいるようですが、きっと失敗すると思う地の文です。


 


「はあ……」


 バーコード校長は校長室で大きな溜息を吐きました。


「その呼び方はやめろ! 容姿いじりはコンプライアンス違反だぞ!」


 地の文に屁理屈で抗議する今出川正太郎校長です。


 架空の人物の容姿をいじっても違反にはならないと思う地の文です。


「ううう……」


 触れてはいけない事にあっさり触れてしまう地の文の反則技になす術なく項垂れるしかない今出川校長です。


 校長は文華に樹里を呼び出すように言われたのです。


(また、御法川さんから無理難題だ。あの人はどうして杉下樹里さんを憎むのだろう?)


 それは樹里が文華より若くて美人で性格も良くて、小学校で人気があるからです。


「きいいいい!」


 ズバズバと真実を言ってしまった地の文のせいで、自宅のキッチンで怒り狂い、高級な皿を床に叩きつけて割ってしまった文華です。


(でも、言われた通りにしないと、ご主人の首相補佐官は元文教族(教育関係に影響力を持つ人政治家達の事)だから、文部科学省を通じて教育委員会に圧力をかけて、私を懲戒免職にするかも知れない)


 今出川校長は身震いしました。


 文華の夫の源四郎は、そこまで権力を持っているとは思えないキャバ嬢好きのスケベ政治家だと思う地の文です。


(でも、樹里さんと会えるのは嬉しい)


 源四郎に負けないくらいキャバ嬢好きの今出川校長はニヤニヤしました。


 ちょうどそのタイミングで校長室に入ってきた内村亜希子先生は、今出川校長の裏の顔を見た気がして、身震いしました。


「は、内村先生、どうしましたか?」


 校長は我に返って焦りまくりながら言いました。


「はい、あの、ノックをしてもお返事がないので、心配になって……」


 内村先生はオドオドして言いました。


「そ、そうでしたか。それで、ご用件は?」


 校長は苦笑いして尋ねました。


「杉下さんにご連絡をしましたところ、こちらに向かわれているとの事でした」


 内村先生は後退あとずさりながら言いました。


「そうですか。わかりました。ありがとうございます」


 校長が微笑んで応じたので、


「し、失礼致します!」


 逃げるように職員室に戻る内村先生です。


(私を怖がっているのか?)


 校長はショックを受け、ますますバーコードの幅が広くなりました。


「やめろ!」


 血の涙を流して地の文に切れる校長です。その時、廊下に面しているドアがノックされました。


「どうぞ」


 樹里が来たと思った校長はウキウキして応じました。


「失礼致します」


 しかし、入ってきたのは文華でした。露骨にがっかりしてしまう校長です。


「どうしましたの、校長先生? お顔の色が優れないみたいですけど?」


 文華は目を細めて言いました。


「いえ、大丈夫です。すこぶる健康です」


 まさか、樹里ではなかったのでテンションが下がってしまったとは言えない校長です。


 早速、文華に教えようと思う地の文です。


「勘弁してください」


 土下座をして地の文に懇願する校長です。


「杉下さんはまだお見えではありませんの?」


 文華はソファに腰を下ろして尋ねました。


「今向かっているそうです」


 校長は文華の向かいのソファに座りました。


「喉が乾きましたわ」


 文華が仰け反って言いました。ある高名な作家のおばさんにそっくりだと思う地の文です。


「誰かが悪口を言っているみたいだけど、本当は聞こえていないのよ!」


 どこかで幻聴と戦っている大村美紗です。


「申し訳ありません、今お持ちします」


 校長は慌てて職員室に駆け込みました。すると、そこにいる先生方は一斉に忙しそうに仕事をしているふりを始めました。


(私は徳のない校長だ……)


 今出川校長は項垂れて、職員室の隅にあるコーヒーメーカーでアイスコーヒーを淹れて、校長室に戻りました。


「あら、校長先生が淹れてくださいましたの? 申し訳ありません」


 全然そんな風には思っていない顔の文華が言いました。その時、ドアがノックされました。


「どうぞ」


 意気消沈していた校長が復活して、ドアを開きました。そこには予想通り、笑顔全開の樹里がいました。


「遅くなりました、杉下です」


 校長は笑顔で、


「どうぞ、お入りください」


 樹里を通そうとすると、


「申し訳ない、私もご一緒していいですか?」


 樹里の後から五反田氏が入って来ました。


「えええ!!?」


 校長と文華は異口同音に叫びました。


「ドームで株主総会をするための打ち合わせに向かうところだったので、樹里さんを送るついでに寄らせてもらいました」


 五反田氏は文華に気づき、


「ああ、御法川さんもおいででしたか。先日は失礼しました」


 文華は立ち上がって、


「いえ、こちらこそ、失礼致しました」


 緊張しまくりながら応じました。


(どうして五反田さんが一緒なの?)


 樹里を説教しようと思っていたのに計画がガラガラと音を立てて崩れていくのがわかる文華です。


「御法川さん、遅くなって申し訳ありません。今日はどのようなお話でしょうか?」


 樹里が笑顔全開で訊きました。


「おほ、おほ、おほほほほ……」


 文華は顔を引きつらせて笑って誤魔化すしかありませんでした。


 


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ