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樹里ちゃん、左京と婚前旅行にゆく

 俺は杉下左京。東京五反田の駅前に事務所を構える探偵だ。


 この前、貧乳の怪盗(すまん、名前を忘れた)を撃退し、警視庁からわずかばかりの謝礼をもらった。


「みんなで骨休めに行かないか?」


 俺は宮部ありさと樹里を誘って、群馬県の湖へ出かける事にした。


 しかし、当日になって、


「ごめん、用事できた」


とありさがドタキャンして来た。


 仕方なく、俺は樹里と二人で群馬県大利根郡の士似神村しにがみむらに車で出かけた。


 何となく、嫌な思い出がある場所だが、例の雑貨屋に寄らなければいいだけだ。


 考えてみると、樹里と二人で旅行なんて初めてだ。


 これって、もしかして、「婚前旅行」?


 急にドキドキして来たぞ。


 ふと助手席を見ると、樹里は寝ていた。


 寝顔も相変わらず可愛い。


 俺は一人ニヤつきながら、高速を走った。


 


 そんな状態だったからだろうか、俺は昔の事を思い出していた。


 まだ俺が警視庁の捜査一課にいた頃の事だ。


「所轄に兇悪犯が立て籠もった?」


 耳を疑うような情報が入った。


 しかもそこは、西多摩警察。ありさが出向したところだ。


 情報を更に収集して行くと、そのありさが人質らしい。


「くそ!」


 俺は机を叩いて叫んだ。


「落ち着いて、左京。今狙撃班が編成されたわ。すぐにありさは救出されるわよ」


 その頃、本気で付き合っていた神戸蘭が声をかけてくれた。


 蘭。あの頃は本当に奇麗だった。今は見る影もないが。


「そうだな」


 俺は蘭を見て答えた。蘭は俺を抱きしめて、


「ありさは大丈夫。あの子は悪運だけは強いんだから」


「そうかもな」


 やがて警視庁選りすぐりの狙撃チームが編成され、西多摩署に急行した。


 俺達捜査一課もそれぞれ車に乗り、現場へと急ぐ。


「ありさ……」


 助手席の蘭が、


「左京、貴方、まだありさの事を?」


「ま、まさか。違うって」


 俺は慌てて否定した。何しろ蘭の右手が拳銃にかかっていたからな。


 


 そして現場に到着。辺りは機動隊だらけだ。そしてそれを遠巻きにマスコミが見ている。


 事件は大々的に取り上げられ、警視総監の進退問題まで浮上した。


 警察署が犯罪者に乗っ取られたのだ。言い訳のしようもない大失態だ。


 犯人は窓ガラスを割り、ありさを引き摺るようにして顔を出した。


「てめえら、それ以上近づくと、この巨乳の命はねえぞ!」


 犯人は錯乱しているらしく、ありさの事を「巨乳」と呼んでいた。


「私は大丈夫です! 狙撃して下さい!」


 ありさは健気にもそう叫んだ。


「うるせえよ、おっぱい姉ちゃん! 黙ってろ!」


 間違いない。犯人は「おっぱい星人」だ。


 周囲を見渡すと、あちこちから狙撃手が犯人を狙っていた。


 しかしありさが近過ぎて、撃てないでいる。


 このまま只無駄に時間を費やすのはまずい。


 犯人のストレスも溜まり、ありさの疲労もピークになる。


 俺は決断し、犯人に気づかれないように近づいた。


「左京!」


 蘭が慌てて俺を止めようとしたが、俺はそれより早く走り出していた。


 犯人は狙撃手が気になっているらしく、俺には気づいていない。


 俺は絶対に外さないと確信が持てる距離まで接近し、拳銃を構えた。


 そして、撃った。


「うわっ!」


 弾は見事に犯人の肩を撃ち抜いた。


「きゃっ!」


 しかし、その拍子に犯人の銃が暴発し、ありさを撃った。


「ありさ!」


 俺はすぐに駆け寄り、まだ動こうとする犯人を蹴飛ばしてから、ありさを抱き起こした。


「ありさーっ!」


 俺は絶叫した。


「千円です」


 ふと気づくと、俺は大利根インターの料金所にいた。


「妙な事を思い出したな」


 俺はまだ寝ている樹里をチラッと見て、フッと笑った。


 あの時は、本当にありさは死んだと思った。


 犯人は混乱に乗じて逃走し、俺は謹慎処分になった。


 しかし、危篤状態だったありさが死んだと聞き、俺は病院を飛び出し、無断で犯人を捜した。


 遂に犯人を追い詰め、逮捕したが、俺を待っていたのは捜査一課からの異動だった。


 もうどうでもよくなった俺は、蘭に罵られて、別れを告げられても、何も言わなかった。


 そして、俺は閑職である特別捜査班に移った。


 しかし、だからこそ、樹里と出会えたのだ。


 人生とは不思議なものだな。


 その上、死んだと思っていたありさも生きていたんだからな。


 


 俺は前回の教訓を生かし、手前のスタンドでガソリンを給油し、例の雑貨屋を通過した。


 ざまあ見ろ、強欲夫婦め。


 心の中でガッツポーズだ。


 見えて来た。女神湖だ。


 何だか妙に懐かしい。


「樹里、着いたよ」


「はい……」


 樹里はムクリと起きた。


 俺は車を停め、外に出た。


 あの時の情景が甦る。


 あれは本当に女神だったのか?


「左京さん」


 樹里が近づいて来た。


 いや。女神はここにいる。


 俺は笑顔の樹里に微笑み返した。

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