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樹里ちゃん、バレンタインデーのチョコを作る

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日はバレンタインデーです。


 そして、おぞましい事に不甲斐ない夫の頂点に立つ杉下左京の誕生日という最悪の日でもあります。


「うるせえ!」


 どこかで地の文に切れる左京です。今日もまた、坂本龍子弁護士と共に遠方へ出張と嘘を吐いて不倫旅行です。


 行き先は多目的トイレ付きの高級ホテルでしょうか?


「違うよ! 純粋に仕事だよ! それからあいつと比べるのはやめろ!」


 新幹線の中で地の文に切れる左京です。あいつとは誰なのか、全くわからない地の文です。


 もしかすると、K・Wの事でしょうか?


「そうなんですか」


 それにも関わらず樹里は笑顔全開です。


 左京がいないと平和な御徒町家では、長女の瑠里と次女の冴里がチョコレート作りをしています。


 三女の乃里は溶かしたチョコを舐めて、瑠里と冴里に烈火の如く怒られました。


 四女の萌里は授乳してもらい、満足そうな顔でベビーベッドで寝ています。


 瑠里はボーイフレンドのあっちゃんにあげるためにチョコを作っているのですが、冴里は誰にあげるのでしょうか?


 地の文も知らない男の存在があるのでしょうか?


「ママはまだパパにチョコをあげるの?」


 辛辣な質問をしたのは冴里です。おそらく悪気はないのでしょう。


「あげますよ。今日はパパの誕生日でもありますから」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「そうなんですか」


 冴里は笑顔全開で応じました。


「さーたん、てをとめないで」


 瑠里が真顔で言ったので、冴里はビクッとして、


「わかりました」


 顔を引きつらせて応じました。だんだん、瑠里はそういうところも祖母の由里に似てきたと思う地の文です。


「何か言ったかい?」


 由里に凄まれて、全部漏らしてしまった地の文です。


「冴里は誰にあげるのですか?」


 樹里が笑顔全開で尋ねると、


「ないしょだよ」

 

 恥ずかしそうに冴里は言いました。


「そうなんですか」


 樹里と乃里は笑顔全開で応じました。


 


 その頃、新幹線でクライアントの家に向かっている左京は坂本龍子にチョコを渡されていました。


「心を込めて作りました。受け取ってください」


 顔を赤くして過剰包装された箱を差し出す龍子です。


「あ、ありがとうございます」


 左京は受け取らないと面倒臭い事になりそうだと思い、素直にもらいました。


「これからもよろしくお願いします」


 龍子は大きく開いた襟元を強調して言いました。


「あ、はい」


 左京は苦笑いをしてしっかりと覗き込みました。


「覗き込んでねえよ!」


 早速捏造をした地の文に切れる左京です。


(坂本先生、ちゃんとした相手を探して結婚したらいいのに)


 左京は女性蔑視な事を考えました。M元会長と同じでしょうか?


「違うよ! どうして女性蔑視なんだよ!」


 女性は結婚するものという発想が女性蔑視だと思う地の文です。


「え? そうなの?」


 昭和で思考が停止している左京にはその程度の事すらわかりません。


「ううう……」


 左京自身もそういう事に関して疎いのは自覚しており、項垂れるしかありませんでした。


 


 そして、瑠里と冴里は見事に手作りチョコを完成させました。


「いってきまーす」


 瑠里はチョコを箱に入れてラッピングし、スキップをして出かけました。


「冴里は出かけないのですか?」


 樹里が笑顔全開で訊きました。


「さーたんはでかけないよ」


 冴里はチョコを瑠里と同じように箱に入れてラッピングすると、子供部屋に行きました。


「さーたん、チョコすこしちょうだい」


 乃里が冴里を追いかけようとしたので、


「乃里にはママが作ったチョコをあげますよ」


 樹里が素早く引き止めました。


「わーい!」


 チョコなら何でもいい乃里は大喜びました。まだまだ子供だと思う地の文です。


 


 午後になりました。


 仕事が早く片づいた左京達は帰りの新幹線に乗っていました。


「左京さん、夕食をご一緒してくださいませんか?」


 品川駅に着いた時、龍子が言いました。


「喜んで」


 左京はそう言うと龍子と腕を組み、新幹線を降りました。


「やめろ!」


 妄想が暴走した地の文に切れる左京です。


「申し訳ありません、今日は俺の誕生日で、妻と娘達が待っているんです」


 左京はドヤ顔で言いました。


「ドヤ顔はしてねえよ!」


 慌てて地の文に訂正を要求する左京です。


「そうですか。そうですよね」


 龍子が寂しそうに俯いたので、左京はキュンとしてしまい、その場で押し倒しました。


「いい加減にしろ!」


 いよいよもって止まれなくなった地の文に激ギレする左京です。


「もしよろしかったら、一緒に祝ってくれませんか?」


 左京が言いました。龍子は左京を見て、両方の目からポロポロと涙をこぼし、


「いいんですか?」


「ええ。龍子さんが迷惑でなかったら」


 左京が言い終わるか終わらないうちに、


「喜んで!」


 龍子は左京の両手をギュッと握りしめました。


 左京は周囲の目が気になり、顔を引きつらせました。


 


「只今」


 左京が玄関のドアを開けると、


「お帰りなさい! そして、お誕生日おめでとう!」


 樹里、瑠里、冴里、乃里が揃って出迎え、一斉にクラッカーを鳴らしました。


「あ、りょうこさん!」


 瑠里が最初に龍子に気づきました。


「坂本先生、いらっしゃいませ」


 樹里が玄関を降りて龍子を出迎えました。


「パパ、どういうつもり?」


 瑠里がその隙を突いて左京に小声で尋ねました。


「坂本先生も祝ってくれるってさ」


「ふうん」


 瑠里は疑いの眼差しで左京を見ました。すると、


「パパ、いつもありがとう」


 冴里が左京の腕を引っ張って言い、ラッピングされた箱を渡しました。


「え、冴里、これ?」


 左京はもう号泣状態です。


「ど、どうしたんですか、左京さん?」


 樹里と話していた龍子が左京が大泣きしているので驚いてしまいました。


「さーたん、ずるいぞ」


 瑠里が冴里の背後から言いました。


「えへへ」


 それでも冴里は笑顔全開です。


「そうなんですか」


 樹里と乃里も笑顔全開です。


「左京さん、私からのプレゼントは後で渡しますね」


 樹里が左京の耳元で言いました。


 左京は更に泣いてしまいました。


 


 めでたし、めでたし。

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