樹里ちゃん、いろいろと相談される
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
「ママ、よるにそうだんがあるんだけど」
出がけに長女の瑠里が言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じて、
「お仕事から帰ったら、聞きますね」
「うん!」
瑠里は笑顔全開で返して、元気よく登校しました。
「では、行って参ります」
樹里は笑顔全開で告げると、四女の萌里をベビースリングで抱いて、昭和眼鏡男と愉快な仲間達と共に駅へと向かいました。
「パパ、いっちゃうよ!」
「いっちゃうよ!」
次女の冴里と三女の乃里に言われ、
「わかったよお、冴里、乃里」
不甲斐なさだったらトップクラスの杉下左京はデレデレして応じました。
「ワンワン!」
それを見ていたゴールデンレトリバーのルーサが、
「相変わらず気持ち悪い奴だな!」
あたかもそう言っているかのように吠えました。
そして、樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。
「それでは樹里様、お帰りの時にまた」
眼鏡男達は敬礼して去りました。
「樹里さーん!」
まともな登場は久しぶりのキャビーが挨拶しました。
「私は目黒弥生よ! いつまで名前を間違えてるのよ!」
名前ボケで見せ場を作ってあげた地の文に恩を仇で返すように切れる弥生です。
「おはようございます、弥生さん」
樹里は笑顔全開で挨拶を返しました。
「あの、実はご相談したい事があって」
弥生は体をクネクネして言いました。頻尿なのでしょうか?
「違います!」
身体の事を心配した地の文に理不尽に切れる弥生です。
「わかりました。お昼休みに伺います」
樹里が笑顔全開で応じると、
「ありがとうございます!」
弥生は嬉しそうに駆け去りました。
「樹里さん、ちょっといいかしら?」
玄関を入ると、五反田氏の愛娘の麻耶が言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「部屋で待っているわね」
麻耶は二階への階段を駆け上がっていきました。
「畏まりました」
樹里は深々とお辞儀をしてから、萌里に授乳をすませて育児室のベッドに寝かせて更衣室でメイド服に着替え、キッチンに行って紅茶を淹れると、麻耶の部屋へ行きました。
「実は来週の事で樹里さんに相談に乗って欲しい事があるの」
麻耶が恥ずかしそうに言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。きっと、下僕の市川はじめの事ですね。
「下僕じゃありません! 恋人です!」
地の文のボケに素早く抗議する麻耶です。
「来週の日曜日にはじめ君にチョコレートをプレゼントしようと思うんだけど、手作りだと重い気がして、どうしたらいいか迷っているの」
麻耶は真剣な顔で言いました。
「そうなんですか」
それにも関わらず樹里は笑顔全開で応じました。麻耶は少しだけイラッとしましたが、
「手作りと買ったものとどちらがいいと思う?」
苦笑いをして尋ねました。
「お嬢様はどちらをあげたいと思っていますか?」
樹里が笑顔全開で質問し返しました。
「私は手作りをあげたいの。はじめ君て、大学で結構女子に人気があって、チョコをたくさんもらいそうなの。だから、そこは差をつけたいから、手作りがいいかなって思ったんだけど、逆にドン引きされたら嫌だし……」
惚気と愚痴が入り混じった話で、麻耶のイタイところが浮き彫りになっていると思う地の文です。
「うるさいわね!」
言い得て妙な地の文の分析に動揺しながら切れる麻耶です。
「お嬢様ははじめ君とお付き合いしているのですから、そのような事は考えなくて大丈夫ですよ。はじめ君が好きなのは、お嬢様だけなのですから」
樹里は笑顔全開で何の根拠もない事を言いました。
「そ、そうかな」
顔を赤らめて微笑む麻耶です。
「他の女子と差をつける必要はありません。お嬢様も買ったチョコレートをあげればよろしいかと存じます」
樹里が更に笑顔全開で言うと、麻耶はホッとした顔になり、
「わかった。ありがとう、樹里さん。ごめんね、忙しいのに」
「お気遣いなく」
樹里は笑顔全開で応じて、麻耶の部屋を出ました。
「弥生さん、申し訳ありませんでした」
樹里は、さっきまで麻耶の部屋の前で聞き耳を立てていたにも関わらず、樹里が出てきそうになったので慌てて階段の手すりを拭くふりをしている弥生に言いました。
「いえいえ、大丈夫ですよ」
嫌な汗を掻いて応じる元泥棒です。
「やめてー!」
涙ぐんで地の文に懇願する弥生です。
お昼休みになりました。
「弥生さん、相談は何ですか?」
樹里が笑顔全開で訊きました。すると弥生は、
「ああ、すみません、解決しましたので、大丈夫です」
何故か慌てた様子で言いました。
「そうなんですか?」
樹里は小首を傾げて応じました。
(麻耶お嬢様の話を聞いていて、解決しちゃったから)
苦笑いする弥生です。夫の目黒祐樹にチョコを渡そうと思って、麻耶と同じように悩んでいたのですが、樹里の解決方法を聞き、それだと思ったのでした。
いい年をしてそんな事で悩んでいたのかと思うと、ちょっと気持ち悪いと思う地の文です。
「余計なお世話よ!」
正直な地の文に切れる弥生です。
夜になりました。
瑠里は玄関の近くの廊下でそわそわしています。
「どうした、瑠里? おしっこがしたいのか?」
バカな父親が無神経な質問をしました。
「パパ、さいてい!」
瑠里がムッとして左京を睨みつけた時、
「只今帰りました」
樹里が眠っている萌里を抱いて帰宅しました。
「パパはあっちにいって!」
瑠里は左京をリヴィングルームに追い立てました。
「あっちゃんの事ですか?」
樹里が尋ねました。瑠里ははにかんだ笑顔で、
「うん。あっちゃんにチョコをあげたいんだけど、ライバルがおおくて、どうしたらいいか、こまっているの」
樹里は笑顔全開で、
「困らなくてもいいのですよ。あっちゃんは瑠里の事が大好きなのですから、何も心配せずに瑠里の気持ちを込めてチョコをあげればいいのですよ」
「そ、そうだよね! クラスでわたしがいちばんかわいいから、へいきだよね!」
瑠里はすぐにポジティブに考えました。
そんなところが祖母似だと思う地の文です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
めでたし、めでたし。




