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樹里ちゃん、おむすびを作る

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。不甲斐ない夫の杉下左京は、毎日が日曜日です。


「かはあ……」


 急所を突かれた左京は悶絶しました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


 日曜日なので、いつもの変態集団と騒がしいだけのメイドは登場しません。


「変態集団ではありません!」


 どこかで地の文に切れる昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「騒がしいだけって何よ!」


 休日出勤をしている目黒弥生が五反田邸の車寄せで地の文に切れました。


 


「今日はおむすびを作りますよ」


 樹里は笑顔全開で娘達に言いました。


「そうなんですか」


 長女の瑠里と次女の冴里はエプロン姿で笑顔全開です。


(可愛いなあ、瑠里と冴里のエプロン姿)


 デレデレしている気持ち悪い父親です。


「余計なお世話だ!」


 正確な描写を信条としている地の文に理不尽に切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず笑顔全開です。


(でもやっぱり、樹里のエプロン姿が一番だ)


 自分の妻をエロい目で見る究極の変態です。


「違うよ!」


 若干当たっていたので、左京は動揺しながら地の文に切れました。


(それにしても、どうして急におむすびを作る事にしたんだろう?)


 無知な左京は首を傾げました。


「うるせえ!」


 正しい事を言った地の文に更に切れる左京です。


「おにぎりじゃないの?」


 瑠里が尋ねました。すると樹里は瑠里を見て、


「おにぎりとおむすびは違うのですよ」


 その言葉に瑠里よりも左京が驚きました。


「そうなんですか」


 瑠里、冴里、そして三女の乃里と共に応じる左京です。


「おにぎりはどんな形でもよいのですが、おむすびは山の形をしたものだけと言われているのですよ」


 樹里が笑顔全開で豆知識を披露しました。


「そうなんですか」


 左京と娘達三人はまた樹里の口癖で応じました。


「では、おむすびを作ってみましょう」


 樹里は笑顔全開で、炊飯器で炊いたご飯を木のお櫃に移しました。


「まだ熱いので、少し待ってください」


 すぐに手に取ろうとした左京を樹里がたしなめました。


「はい」


 娘達に笑われて、顔を赤らめるドジな父親です。


「ううう……」


 全くの正論なので、ぐうの音も出ないで項垂れる左京です。


「握る前に手を水で冷やします。瑠里達は型に入れて作るので、やらなくて大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 瑠里は残念そうですが、冴里はホッとしています。冷たい水が苦手なようです。


「瑠里と冴里はその型にご飯を詰めてください」


 樹里はテキパキと指示をしていきます。


「左京さん、手の水気みずけはタオルで拭き取ってください」


「はい」


 左京は濡れた手をタオルで拭き取りました。


「では、左手にご飯を適量載せ、右手で山を作る要領で握っていきましょう」


 樹里は実演しながら左京に告げました。


「はいはい」


 左京はしゃもじでご飯をよそって、左手に載せました。


「うわっち!」


 まだ熱かったようですが、左京は何とか堪えてご飯を握りました。


「少しずつ、形を整えていきます。何度か手の平で転がすように握ってください」


 樹里の的確な指示で、左京は不器用ながらもおむすびを作っていきました。


「できた!」


 瑠里と冴里は型に入れたご飯を取り出し、塩を振って完成させました。


「いいですよ、瑠里、冴里。もう一つ、作ってください」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「はい!」


 瑠里と冴里も笑顔全開で応じました。


「できたぞ!」


 左京も最終段階で形を整え、塩を振って完成しました。


「左京さん、もう少し整えてください。それだと俵形で、おむすびではなくおにぎりになってしまいます」


 左京には容赦なくダメ出しする樹里です。


「はい」


 でも、左京はそんな樹里が好きなM体質なので、問題ありません。


「よくできました」


 左京が形を整えたので、樹里は笑顔全開で褒めました。


「はい!」


 喜ぶ左京です。そして、大人気なく、瑠里達にドヤ顔をして見せました。


「パパ、きらーい」


 瑠里と冴里に揃って言われ、涙が出そうになる左京です。


「左京さんももう一つ作ってください」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「はい」


 左京は落ち込みながらも再度挑戦しました。


 樹里はその間に四女の萌里に授乳し、おむすびを三個作りました。


(樹里はどうして『おむすび』にこだわるのだろう?)


 また疑問に思う左京ですが、無学なのでわかりません。


「やかましい!」


 的確な表現をした地の文に切れる左京です。


 


 そして、白い大皿にみんなで作ったおむすびが載せられました。


「さあ、いただきましょう」


 樹里は左京と自分には緑茶を、瑠里と冴里と乃里には麦茶を淹れました。


「いただきます!」


 瑠里と冴里は貪るようにおむすびを食べました。乃里は少しずつ食べています。


 左京は樹里が注意するかと思いましたが、樹里は笑顔全開で見ているだけです。


「そうだ、樹里」


 左京は樹里に声をかけました。


「何ですか?」


 樹里は笑顔全開で左京を見ました。


「どうして急におむすびを作る事にしたんだ?」


 左京が尋ねました。すると樹里は、


「今日は、おむすびの日なんですよ」


「何だ、そうなのか」


 左京は微笑んで応じました。


「おむすびの日は二千年に制定された記念日です。そのきっかけはそれより五年前に起こった阪神淡路大震災にあります」

 

 樹里の解説に左京の記憶がフラッシュバックしました。


(俺が大学一年の頃だ)


 同時に元カノの加藤ありさを思い出しました。


「思い出さねえし、元カノじゃねえよ!」


 素早く地の文のボケに切れる左京です。


「被災者の皆さんのために、ボランティアの人達がおむすびの炊き出しをして助けた事を受け、いつまでもこの善意を忘れないようにとこの日をおむすびの日にしたのだそうです」


「そうか、今日は阪神淡路大震災の起こった日か」


 忘れんぼの左京はようやく思い出しました。


「だから、おにぎりではなく、おむすびなのか」


 左京は樹里を見て言いました。


「本当はどちらでも一緒なのですが、記念日ですから、ちょっとこだわってみました」


 樹里は笑顔全開で言いました。左京は娘達がまた喜びの踊りを踊って夢中になっているので、


「さすが樹里だ。優しいな」


 樹里の手に自分の手を乗せました。


「左京さん」


 樹里も娘達が見ていないのを確認して、そっと目を閉じました。


「樹里」


 左京はそのもぎたてのさくらんぼのような唇にキスをしました。


「おお、おあついね、ママ、パパ!」


 瑠里が気づき、はやし立てました。


「ヒューヒュー!」


 冴里がそれに便乗しました。乃里は冴里の真似をしようとしましたが、できませんでした。


 左京と樹里は顔を見合わせて顔を赤らめました。


 


 めでたし、めでたし。

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