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樹里ちゃん、怪盗と対決する

 御徒町おかちまち樹里じゅりは、居酒屋で働くメイドでしたが、最近居酒屋が出て来ません。


 婚約者の杉下左京の探偵事務所での助手がメインの仕事です。


「今度は、メイドのいる探偵事務所で売り出せば?」


 金の話になると目を輝かせる左京の元同僚の宮部ありさが言います。


「それじゃ、新手の風俗みたいだろ? 俺は真面目に探偵業をやりたいんだよ」


 一瞬、いい考えかもと思った左京でしたが、そんな事はおくびにも出さず、全面否定です。


「杉下さん、お暇ですか?」


 嫌味たっぷりの挨拶をしながら、警視庁特捜班の亀島馨がやって来ました。


「何だ、人の手柄を横取りした恥知らずか? 何の用だ?」


 左京は根に持つタイプなので、前回の怪盗との対決の一件を亀島が自分の手柄にしたのをまだ怨んでいます。


「あらあ、亀ちゃん、お久ー」


 ありさが陽気に話しかけますが、亀島はそれを無視して、


「また、ドロントが予告状を警視庁に送りつけて来ました」


と左京に封筒を差し出します。左京は面倒臭そうな顔をしながらも、興味津々で中身を出します。


「親愛なるヘボ探偵様


 明晩、大東京博物館にあるマンモスの牙を頂きに参上致します


 世界的美人大泥棒ドロントより愛を込めて」


 左京はそれを亀島に突き返し、


「前回の活動費をもらっていない。そんな依頼は受けられん」


と言い放ちました。すると亀島は、


「あれ? 神戸警部に渡して、届けてもらったはずなのですが?」


 そっと事務所から逃げ出そうとしている女が一人います。


「おい、ありさ、どこに行く気だ?」


 左京がドスの効いた声で尋ねます。ありさはニコッとして、


「と、トイレに……」


「そっちは出入り口だよ。トイレは反対側だ」


 左京はありさに近づきます。


「まさか、ネコババしたんじゃないだろうな?」


「ま、まさかあ……」


 嫌な汗を大量に掻いているありさです。


「どちらにしても、怪盗ドロントは貴方宛に予告状を送りつけているのです。逃げるのですか、杉下さん?」


 亀島が挑発めいた事を言って、話を元に戻します。


「わかったよ。その依頼、受ける」


「ありがとうございます」


 亀島はそのまま出て行こうとしましたが、左京は、


「今度は直接俺に報酬を渡してくれ。この事務所には、手癖の悪い奴がいる」


とありさを睨みます。


「わかりました。ではこれで」


 亀島は事務所を出て行きました。


「ありさ」


 彼と一緒に出て行こうとしたありさを左京が捕まえます。


「ひーん、許して、左京ゥ。私を鞭で叩いていいからあ」


「気色の悪い事を言うな!」


 左京はありさをソファに座らせました。


「お前には償い切れない迷惑をかけた事は忘れちゃいないが、それとこれとは話は別だぞ」


「はーい」


 ありさはションボリして言いました。


「で、金はどうした?」


 左京は真顔で尋ねます。


「蘭と合コンで使っちゃった……」


 ありさは、テヘと笑いました。


「この前のか!?」


「うん」


 先日、ありさと左京の元同僚の神戸蘭は、三人の女性警官を呼んで、どこかの男と事務所で合コンをしていたのです。


「あのなあ……」


 左京はガックリとしてしまいました。


「ここの家賃も払わないといけないし、お前の給料も水道光熱費も……」


 頭痛がして来た左京は、ソファに倒れてしまいました。


「ごめーん、左京、今度はありさ、頑張るからあ」


 ありさがドサクサに紛れて左京に抱きつきました。


 左京はショックのあまり、跳ねつける元気もありません。


「只今帰りました」


 そこへ樹里が入って来ました。途端に左京はありさを跳ね飛ばし、自分の席に戻ります。


「お、お帰り、樹里。早かったな」


「今日は新聞配達だけですから」


 笑顔全開の樹里です。左京はまた項垂れて、


「すまない、樹里。俺に甲斐性がないばっかりに……」


「左京さん、元気を出して下さい」


 樹里が心配して左京に声をかけました。


「ありがとう、樹里」


 左京は力なく微笑みました。




 そして翌日の夜です。


 大東京博物館は、例によって蟻の這い出る隙間もないほどの警官隊で溢れています。


「ハッハッハ、これならあの怪盗も、マンモスの牙に近づく事などできませんよ、館長」


 また扇子で顔を扇ぎながら、誰の物真似かわからない一人コントをしている亀島です。


「そうですか。それは心強いですな」


 館長も扇子で顔を扇いでいます。よくわからないキャラです。


 左京は樹里、ありさと共にマンモスの牙の前にいました。


「この前みたいに入れ替られるとまずいから、合言葉を決めておく」


「はい」


 樹里は笑顔全開で返事をします。ありさはヘラヘラしていて気持ち悪いです。


「俺が、山、と言ったら、お前達は?」


「まや、です」


 樹里が答えます。ありさも、


「まや、よん」


と余計なウインクまで付けて答えました。


「よし、忘れるなよ」


 そんな事を言っていると、


「ドロントだあ!」


と叫び声がしました。見上げると、天窓にドロントが立っていました。


「オーホッホ! マンモスの牙、頂きに来たわよ、ヘボ探偵さん」


 ドロントは天窓から飛び降ります。


「確保ーッ!」


 亀島の号令で、警官隊が殺到します。


「遅いわよ!」


 ドロントはサッと警官隊をかわし、逃げ回ります。


「追わなくていいの、左京?」


 ありさが動かない左京に尋ねます。


「学習しろよ、ありさ。あれは囮だ。あの貧乳は、まだこの中にいる!」


 見回すと、さっきまでいた館長がいません。


「館長がドロントだ!」


 左京が辺りを探します。するとマンモスの牙の向こうから館長が現れました。


「ありさ、捕まえるぞ!」


「あいよ、八丁堀!」


 また意味不明な事を言い出すありさです。


「甘いぞ、ドロント!」


「ひいい!」


 館長は左京とありさに組み伏せられました。


「私はドロントじゃない! トイレに行っていただけだ!」


「ええええ!?」


 ハッとして亀島を見ると、彼はせっせとマンモスの牙を梱包して、宅配便の送り状を貼っています。


「そっちか!」


 慌てて走り出す左京とありさ。


 樹里はどこに行ったのでしょう?


「フフフ……。バカな連中だわ。私の部下はたくさんいるのよ」


 館長が言いました。彼の正体はオ○マだったのでしょうか?


「違うわよ!」


 地の文に突っ込みを入れる人第二弾です。


「私が本当のドロント。一度容疑が晴れた者は、対象から外れるものなのよ」


 ドロントは正体を現し、得意満面にない胸を張ります。


「そうなんですか」


 そこへいきなり現れる樹里です。


「ヒャーッ!」


 ドロントは仮面が取れそうになるほど驚きました。


「ど、どうして貴女がここにいるのよ!?」


「トイレから戻ったからです」


 樹里は笑顔全開です。ドロントは脱力しました。


「そういう事を訊いているんじゃないわよ……」


 左京達が騒ぎを聞きつけて戻って来ました。


「じゃあねえ、ヘボ探偵さん。マンモスの牙は、確かに頂いたわよ」


 ドロントはビュンとバネ仕掛けの脱出装置で天井へと舞い上がりました。


「ハッハッハ、引っかかったな、貧乳! あの牙は偽物だ。本物は、俺の事務所に隠してある」


 左京がここ一番と見得を切って言い返します。


 するとドロントはニヤリとして、携帯を取り出し、


「聞いた? 本物は、杉下左京の探偵事務所よ」


「何だと!?」


 左京は自分が早合点したのを思い知りました。


「今度こそ、本当にマンモスの牙は頂くわね、ヘボ探偵さん」


 ドロントは天窓から逃げて行きました。


「ううう……。失敗だ……。騙したと思っていたら、騙されていた……」


 左京は項垂れてしまいました。


「ああん、可哀想な左京」


 ありさが左京を巨乳に埋もれさせて慰めます。


「ぐおおお!」


 左京は息ができなくなってもがきました。




 ところがです。


「えええ!? 牙がどこにもない? 騙されたの、私達?」


 ドロントも牙を手に入れられず、


「杉下左京め、やるわね」


と悔しがっていました。




 牙はどこに行ってしまったのでしょうか?


 


 落ち込む左京をありさと樹里が慰めます。


「毎度、トラネコハルナの魔球便です」


と宅配の人がやって来ました。大きな荷物を抱えています。


「えーと、杉下左京様より、お届け物です」


「はい?」


 左京は素っ頓狂な声で応じました。


「はい、ここに受け取りのサインを」


 左京の代わりにありさがします。


「毎度!」


 宅配の人は笑顔で去って行きました。


「なんだ、これ?」


 一同が集まり、箱の中身に注目します。


 中から出てきたのは、マンモスの牙でした。


「はああ!?」


 左京以下、仰天しています。


「ど、どういう事だ?」


 すると樹里が、


「良かったです、届いたのですね」


「え? どういう事だ、樹里?」


 左京は呆然として樹里を見ました。樹里は笑顔全開で、


「左京さんが牙を忘れて行ってしまったので、こちらに送ったんです。大き過ぎて、私が持って来られなかったので」


「……」


 左京は気を失いそうなくらい驚きました。


 こうしてまた、樹里達はドロントに勝ったのでした。


 しかし、翌日の新聞には、


「警視庁特捜班、また怪盗を撃退!」


と記事が掲載されたのでした。




 めでたし、めでたし。

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