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樹里ちゃん、シャーロットと別れを惜しむ

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 不甲斐ない夫である杉下左京の元不倫相手のシャーロット・ホームズが帰国する事になりました。


「元不倫相手じゃねえよ!」


 どこかで地の文に激ギレする左京です。


 では、現在でも不倫相手なのですね?


「違う! 不倫から離れろ!」


 更に切れる左京です。


「シャーロットは今日の午前十一時三十分発のヒースロー空港行きで発つようです」


 朝早く水無月皐月が現れて言いました。


 左京は思いました。ああ、皐月さんがいたと。


「やめろ!」


 更に不倫の話題を拡大しようとする地の文にまたしての切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「せっかくですから、見送ってあげようと思っているのですが?」


 皐月は左京をチラッと見てから樹里を見ました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、左京は引きつり全開です。


「左京さん、行きましょう。もう会えないかも知れないのですから」


 樹里は笑顔全開で某元アイドルのヒットナンバーの一部を抜粋して言いました。


「え?」


 左京はまさか樹里に行きましょうと言われるとは思っていなかったので、ギョッとして樹里を見ました。


(勝者の余裕、かしら?)


 皐月は苦笑いしました。


 こうして、左京と樹里は皐月、長月葉月、目黒弥生と一緒に羽田空港へ行く事になりました。


 左京が行くのを決断したのは、葉月が行くのを知ったからなのは内緒にするつもりの地の文です。


「違う! 断じて違うぞ!」


 半分以上当たっているので、動揺が隠し切れないまま地の文に切れる左京です。


 左京の車では無理なので、樹里のミニバンを使う事になり、萌里を連れて行く樹里に代わって、葉月が運伝する事になり、左京がナヴィゲーターをするために助手席に座ろうとしましたが、弥生が先手を打ちました。


「左京さん、下心が見え見えですよ」


 弥生に小声で言われ、赤面する左京です。


 左京はベビーシートに載せた萌里と共に二列目シートに樹里と座りました。


「萌里はパパの隣がいいそうですよ」


 樹里に笑顔全開で言われ、


「そ、そうか?」


 デレデレ顔で応じる左京です。萌里にはパパが誰なのかわかっていないと思う地の文です。


「うるさい!」


 正論を言ったはずの地の文に理不尽に切れる左京です。


(私も早く赤ちゃんが欲しいな)


 皐月はベビーシートではしゃぐ萌里を見て思いました。


 高齢出産ですからね。


「うるさいわね!」


 皐月の身を案じた地の文に切れる皐月です。


 あれこれ揉め事がありましたが、ミニバンは無事に羽田空港に到着しました。


「駐車場に駐めて来ますね」


 葉月は他の五人を降ろすと、ミニバンを出しました。


「取り敢えず、搭乗口の方へ行きましょう」


 皐月が歩き出しました。樹里はベビーカーに萌里を乗せて、それを左京が押します。


 弥生は萌里をあやしながら進みました。


「あ」


 皐月が最初に搭乗口近くの椅子に座っているシャーロットに気づきました。


 シャーロットは一人のようです。


「事務所自体はそのまま残して、副所長が所長になって、所員は全員日本に残るそうです」


 皐月が言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「遅くなりました」


 そこへ葉月が追いつきました。その時、シャーロットが椅子から立ち上がり、搭乗口へ歩き出しました。


「ホームズさん!」


 皐月が大声で呼びました。シャーロットはビクッとして立ち止まり、ゆっくり振り返りました。


 そして、そこに元不倫相手の左京がいたので、顔を引きつらせました。


「違うって言ってるだろ!」


 しつこい地の文に切れる左京です。


「待って、ホームズさん!」


 皐月が駆け出したシャーロットを追いかけました。葉月がそれよりも早くシャーロットの前に回り込み、弥生がすぐ横に付けました。


「な、何ですか? 皆さんで私を笑いに来たのですか?」


 シャーロットは涙ぐんで皐月を睨みつけました。


「何言ってるんですか? 友達が自分の国へ帰るから、見送りに来たんですよ」


 皐月は微笑んで告げました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「友達?」


 シャーロットはキョトンとしました。


「ええ、友達です。恋人じゃないでしょ?」


 皐月はまたチラッと左京を見て言いました。左京は引きつり全開です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。


「そう、ですか」


 シャーロットは涙をポロポロこぼして、俯きました。


「ホームズさん、あちらでのご活躍を祈っています」


 左京が白々しい事を言いました。


「やめろ!」


 的を射た発言をした地の文に切れる左京です。


「ありがとう、杉下先生」


 シャーロットは顔を上げると、左京にハグをしました。


 皐月と葉月と弥生はあっと思いましたが、


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。左京は引きつり全開で、石化していました。


「では、失礼します」


 シャーロットは涙を拭って樹里に挨拶すると、搭乗口を通過し、旅客機へ歩いて行きました。


「左京さん、顔が喜んでますよ」


 弥生が小声で言いました。


「そ、そんな事はないですよ」


 左京は慌ててシャキッとしました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開で萌里に授乳全開です。


「あ、あ!」


 皐月と葉月と弥生は慌てて樹里を囲みました。


 


 シャーロットは座席に座り、目を閉じました。左京の顔が浮かびました。


(もう二度と来ないかも知れないわね)


 また涙ぐむシャーロットです。


「お客様、ご気分がお悪いのですか?」


 客室乗務員の女性が声をかけました。


「いえ、大丈夫です」


 シャーロットは涙を拭って微笑みました。客室乗務員の女性は微笑み返して立ち去りました。


 


 皐月と葉月と弥生とは空港で別れ、帰りは左京の運転です。


 樹里は萌里を見るために二列目シートに乗っています。


「左京さん」


 樹里が不意に声をかけました。


「はい?」


 素っ頓狂な声で応じる左京です。


「寂しくなりますね」


 ルームミラー越しの樹里は涙ぐんでいました。


「ああ、そうだな。何だかんだで、騒がしい人だったからな」


 左京は苦笑いして言いました。


「そうなんですか?」


 樹里は首を傾げて応じました。


 


 めでたし、めでたし。

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