樹里ちゃん、ハロウィーンパーティに出席する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
樹里は産後休を取っているので、仕事は休んでいますが、
「今度の週末にハロウィーンパーティを開くので、出席してください」
お歯黒弥生からメールが来ました。
「目黒よ!」
どこかで地の文に切れる目黒弥生です。
最近、幸せオーラ全開になっている水無月皐月のせいで、弥生はイライラしています。
何故かと言うと、仮面夫婦なので、夫の祐樹とイチャイチャできないからです。
「違うわよ! 祐樹が忙しくなって、会う時間が少なくなっているのよ!」
真実を追求した地の文にまたしてもどこかで切れる弥生です。
(首領ったら、わざわざお邸に来て霜月さんに電話するんだもん。見ているこっちが恥ずかしくなる程いちゃついていてさ……)
要するに皐月が羨ましくて仕方がないのです。
それだけではありません。住み込み医師の長月葉月も、恋人になった神戸賢太郎と頻繁に会うようになり、メールで熱いやり取りをしているのです。
(私だけ先に結婚したのに、何だか取り残された気がするのは何故?)
何となく悔しくなる弥生です。
「そういう訳で、住み込みではなく、通いの家庭教師にさせていただきたいのです」
霜月翔との結婚が決まった水無月皐月は、樹里の家を出て霜月のマンションに移る事になりました。
左京は不倫が難しくなるので反対しようと思っています。
「思ってねえよ!」
名推理をした地の文に切れる左京です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「瑠里ちゃんには私から話します」
皐月は寂しそうに言いました。
「瑠里は先生に懐いていましたからね」
左京は長女の瑠里に託けて皐月に思い留まってもらおうと企みました。
「企んでねえよ!」
続けざまの地の文の名推理に切れる左京です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「今夜は五反田邸でハロウィーンパーティですから、その時にまた」
皐月はスーツケースに荷物を詰めて出て行きました。
「寂しくなりますね、左京さん」
樹里が言ったので、
「そ、そうだな」
ビクッとして応じる左京です。
(樹里は別に深い意味で言った訳じゃない)
自分の後ろめたさを必死に誤魔化そうとするさ許です。
「うるさい!」
心情を明確に指摘した地の文にまたしても切れる左京です。
そして午後になり、瑠里が帰宅して、左京が次女の冴里と三女の乃里を保育所に迎えに行き、
「ええ、ママじゃないの?」
二人に嫌な顔をされて落ち込みました。
そして時間になったので、ゴールデンレトリバーのルーサと左京に留守番を頼み、樹里達は出かけました。
「俺も出かけるんだよ!」
留守番にされた左京が地の文に猛抗議しました。
樹里は四女の萌里をベビースリングで抱えて瑠里と手を繋ぎ、左京は冴里と乃里と手をつなぎました。
「もーたんはねてるの?」
瑠里が樹里に尋ねました。
「お腹がいっぱいになりましたからね」
樹里は笑顔全開で応じました。
「きょうはパパのくるまじゃないんだね」
冴里が嬉しそうに言ったので、
「え、どういう事かな、冴里?」
左京はドキッとして訊きました。
「パパのくるま、ボロいからこわいんだもん」
悪気なくストレートな意見を述べる冴里に、
「そうなんですか」
涙目で応じる左京です。
(買い換えたいけど、無理だ……)
その現実に悲しくなる左京です。
こうして、樹里一家は電車を乗り継ぎ、五反田邸がある成城に着きました。
「もうすぐ弥生お姉さんと会えますよ」
樹里が言うと、
「るりはさつきせんせいとあいたい!」
瑠里が言いました。弥生が知ったら、涙を流すと思うので、すぐに教えたい地の文です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
そして、案外何事もなく、五反田邸に到着しました。
「瑠里ちゃん!」
門の前で皐月と弥生が待っていました。
「さつきせんせい!」
瑠里が大喜びで皐月に駆け寄ったので、弥生は固まりました。
(瑠里ちゃんも首領に取られた)
弥生は人知れず涙しました。
「やよいちゃん!」
それでも、冴里と乃里が駆け寄ってくれたので、
「冴里ちゃん、乃里ちゃん!」
涙ぐんで二人と抱きしめる弥生です。
それを羨ましそうに見ている左京です。
「う、羨ましくはないぞ!」
若干図星だったので、狼狽えながら地の文に切れる左京です。
「そうなんですか」
樹里は目を覚ました萌里に授乳しながら応じました。
「わわ!」
左京と警備員さん達が驚きました。
「見ないでください!」
皐月と弥生が樹里を防護しました。
「今晩は」
門を入ってハロウィーンパーティ会場へと進むと、霜月が近づいてきました。
「今晩は」
樹里と左京は揃って挨拶しました。
「式はいつですか?」
左京が不躾な質問をしました。
「式は挙げません。地元に帰って、親戚や仲間に挨拶に回るだけです」
皐月が言いました。熟年婚ですからね。
「熟年婚じゃないわよ!」
年齢に細かい皐月が地の文に切れました。
「弥生がいつもお世話になっています」
そこへ仮面夫婦の片割れである目黒祐樹が来ました。
「仮面夫婦じゃないわよ!」
弥生が代わりに地の文に切れました。
「いえ、こちらこそお世話になっています」
左京が型通りの返事をしました。
「型通りとか言うな!」
真実を述べた地の文に切れる左京です。
やがて、設営されたステージに五反田氏が登壇し、開会の挨拶をしました。
「こわいよ、ママ」
冴里が言うのも無理はありません。周囲の大人達は皆、モンスターに扮しているのです。
乃里は恐怖のあまり、樹里にしがみつきました。
ステージの端には、妻の澄子と愛娘の麻耶、そして麻耶の下僕の市川はじめがいました。
「恋人です!」
素早く訂正の突っ込みを入れる麻耶です。
「ヤッホー、樹里」
そこへ一番のモンスターである松下なぎさが現れました。
「今晩は、なぎささん」
樹里は笑顔全開で応じましたが、皐月と弥生はそれぞれ別の場所に逃げて行きました。
なぎさは化け猫のコスプレをしていました。
剥き出しの太腿と胸の谷間に左京は釘付けです。
「やめろ!」
焦って地の文に切れる左京です。
「今晩は、樹里さん、左京さん」
その後ろから長男の海流と長女の紗栄を連れてなぎさの夫の英一郎が現れました。
「わっくん、しばらくね」
瑠里が声をかけると、海流は顔を真っ赤にしてなぎさの後ろに隠れました。
「どうしたの、海流? またおしっこ?」
瑠里達の前で恥ずかしい事を言われた海流はますます顔を赤らめました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
めでたし、めでたし。




