樹里ちゃん、左京とデートするPART2
俺は杉下左京。東京の五反田駅前に事務所を構える私立探偵だ。
先日、フィアンセの御徒町樹里が営業で受けて来た小学校の事件で妙な事が起こった。
いや、元々妙な奴だから、妙な事ではないのかも知れないが。
高校時代からの腐れ縁の宮部ありさが、突然奇異な行動をして走り出したのだ。
その結果、俺は犯人を見つける事ができたのだから、所謂「結果オーライ」なのだろう。
それから何度か、俺達は事件の調査の依頼を受けて現場に出向いたが、そのたびにありさはおかしな動きをした。
ありさが奇異な事をするのは、決まって動物が殺された事件の時だった。
生死の境を彷徨った挙句、幽体離脱が自由自在になったありさだから、その辺に何かヒントがあるのかも知れない。
しかし、そんな事を調べても、腹の足しにはならない。
だから無視した。
「でも、詳しく調べれば、事件の調査に役立つかも知れないわよ」
いつの間に来たのか、元同僚の神戸蘭が言った。
「お前、仕事はどうした?」
俺が嫌味を込めて言うと、
「私達はドロント特捜班になったのよ。だから、ドロントが現れないと暇なの」
蘭は奇妙な事を言った。
「ドロント? 何だ、それ?」
俺はふざけた訳ではなく、真面目に尋ねた。
「あんた、ホントのバカになったの? この前対決した、あの泥棒よ」
蘭は可哀相な子を見る目を向けて来た
「ああ、貧乳の女か。そうか、ドロントっていう名前だっけ」
呆れ顔の蘭の視線が痛い。
「只今ァ!」
そこへお騒がせ女のありさが帰って来た。
「あれ、蘭、来てたの? もうしちゃったの?」
俺は飲みかけのコーヒーを吹き出した。
「まだよ」
蘭は爽やかな笑顔で応じている。そういう意味ではないのか?
「な、何だ、ありさ!? 朝からどこへ……」
おかしな話になりそうなので、俺は話題を逸らそうとした。
「左京、今日は事務所を早じまいして、樹里とデートして来なさいよ」
「は?」
蘭にそんな事を言われるとは思わなかった俺は、キョトンとした。
「はい、これ」
ありさから手渡されたのは、東京フレンドランドのナイトツアー招待券だった。
「ありさ、お前……」
只の邪魔臭い女だと思っていたのに。どうしたっていうんだ?
「私も蘭も、あんたに救われたから。ホントはすごく感謝してるんだよ、左京」
ありさは照れ臭そうだ。俺は泣きそうになった。
「ありがとう、二人共……」
俺はこぼれそうになる涙を堪え、礼を言った。
そして、蘭とありさに追い出されるように事務所を出た俺は、樹里に連絡した。
「今夜はフレンドランドでデートしよう、樹里」
「はい、左京さん」
樹里も嬉しそうだ。俺は蘭とありさの優しさに感謝した。
そして、夜になった。
俺と樹里は、久しぶりに二人きりになり、夜の遊園地を満喫した。
「樹里……」
観覧車の中で、俺は樹里を見つめた。
夜景をバックにした樹里は、いつになく色っぽく見えた。
ああ、奇麗だ。以前、群馬の山奥で見かけた女神にそっくりだ。
「樹里、いいか?」
「はい、いいですよ」
俺は樹里の隣に座り、彼女を抱き寄せる。
俺の心臓はF-1マシン並みに速くなった。
この状態があまり続くと、死んでしまいそうだ。
樹里は目を閉じた。
おお! 俺を待ってる! 樹里が俺を待ってるぞ!
ゆっくりと俺は樹里に顔を近づけた。
「うん?」
樹里はコテンと俺の肩に倒れて来た。
「え?」
彼女は寝ていた。キスをするために目を閉じたのでなかったのだ。
「ごめんな、樹里、疲れてるんだな」
無理に付きあわせたのかも知れないと思い、樹里に詫びる。
観覧車が下に着いても樹里は起きないので、俺は彼女を背負って、そのままフレンドランドを出た。
このまま、アパートに連れ帰って……。
黒左京が囁いたが、俺はそんな事はしない。
かと言って、この時間では、樹里の実家も皆寝ている。
俺は仕方なく大枚を叩いてタクシーに乗り、事務所に向かった。
樹里が起きるまでそこで休んで、送るつもりだった。
事務所にもシャワーがあるしな。
黒左京がまた囁く。
うるさい、引っ込め、悪い俺め!
「あれ?」
何故か事務所の明かりが点いたままだ。
ありさめ、消し忘れたな。
給料から電気料を引いてやろう。
そう思って事務所の前まで来ると、何故か中が騒がしい。
「泥棒?」
いや、そうだとしたら、随分間抜けだ。こんなに騒がしかったら、すぐに見つかるぞ。
「誰だ!?」
俺はいきなりドアを開き、中に飛び込んだ。
するとそこでは、蘭とありさが、警察の同僚達を三人集め、どこかの男共と「王様ゲーム」の真っ最中だった。
「てめえら、騙したな!」
俺の怒りに恐れをなしたのか、男共は慌てて逃げ出した。
「お前ら!」
俺は蘭以下五名を説教した。
「ここで騒ぎたいのなら、ちゃんとそう言え! こそこそするな!」
「はーい」
こいつら、本当に反省してるのか?
「今度は、樹里さんも一緒にどうですか?」
知らないうちに目を覚ました樹里が、蘭の同僚達に誘われていた。
「そうなんですか」
何も知らない樹里は笑顔全開で応じていた。
はああ。蘭とありさを「いい奴」だなんて思った俺がバカだった……。