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樹里ちゃん、水無月皐月と霜月翔の仲を取り持つ

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里は四女の萌里の出産を終え、産後休に入っています。最低でも八週間です。


 でも、それは有給休暇なので、ヒモの杉下左京には何も支障はありません。


「ヒモじゃねえよ!」


 仕事がないだけだと言いたい不甲斐ない夫の左京が地の文に切れました。


「ううう……」


 切れた後、樹里に申し訳ない気持ちが大きくなり、項垂れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 そんな事なので、いつものメンバーの多くが登場しません。名前だけでも出そうかと思いましたが、面倒くさいのでやめる地の文です。


 幾人かが叫んでいるようですが、無視しました。


 


 先日、左京は住み込み家庭教師の水無月皐月の幼馴染である霜月しもつきかけるに会いました。


 そして、翔が皐月の裏の顔を知らないのを知りました。


 帰宅した左京はリヴィングルームでその事を樹里と皐月に話しました。


「そうですか」


 皐月は悲しそうな顔で応じました。左京はそれを見て欲情しました。


「してねえよ!」


 言いがかりをつけた地の文に全力で切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「皐月さん、それが理由なんですね?」


 左京が言いました。皐月は俯いて、


「そうです。知られたくないんです。昔のように会っていれば、いつかバレてしまいます」


 すると樹里が、


「いいんですか、このままで?」


 念を押すように言いました。皐月は樹里を見て、


「良くないと思います。でも……」


 口籠くちごもりました。


「水無月さん、本当に彼は何も知らないのでしょうか?」


 左京が言いました。皐月はギクッとして左京を見ました。


「どういう事でしょうか?」


 左京は皐月を見たままで、


「霜月さんは水無月さんより早く、六本木厚子さんに会ったと言っていました」


 皐月は左京の言葉にハッとしました。


「確かに彼女も同郷ですが、どうしてわざわざ名前を出したのだろうかって思ったんです」


 名探偵のふりをした左京が言いました。


「うるさいよ!」


 真剣なシーンにも関係なくチャチャを入れる地の文に切れる左京です。


「まさか……」


 皐月は目を見開きました。


 そうです。実は霜月は厚子と付き合っているのです。


「違います!」


 地の文のボケを力一杯否定する皐月です。


「六本木厚子は逮捕され、新聞やテレビに名前が出ています。そして、たびたびドロントと対決していて、二人は知り合いだと公言していました」


 左京は続けました。


「仮に霜月さんがその事を知らないとしても、どこかで六本木厚子の事を知れば、ドロントが誰なのかわかってしまうのではないでしょうか? それでも貴女にそれを言わない、問いたださないのは、そんな事は気にしていないという事ではないかと」


 皐月は泣いていました。霜月の真意がわかったからです。


「霜月さんは、貴女に何も心配しなくていいと言いたかったのではないかと思うんです。だから……」


 左京が続けようとすると、皐月はソファから立ち上がり、


「ありがとうございます。これで決心がつきました。今から連絡を取って、会ってきます」


 頭を深々と下げると、リヴィングルームを出て行きました。


「大丈夫かな?」


 左京が言うと、


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


「やあ、しばらく」


 皐月と霜月は近くの公園で落ち合いました。


「翔、全部知ってるの?」


 皐月は恐る恐る尋ねました。霜月は黙って頷きました。


「いつから?」


 皐月は更に尋ねました。


「随分前だよ。怪盗ドロントがメディアに取り上げられてまもなく、六本木さんが連絡をよこしてさ」


 霜月は言いにくそうです。皐月はアホのあっちゃんこと六本木厚子に怒りが湧いてきました。


「全部、聞いたの?」


「ああ」


 霜月は事もなげに言いました。


「それで、ずっと皐月を探していた。六本木さんは皐月の居場所は教えてくれなかったからね」


 霜月は寂しそうな目で皐月を見ました。


「そう、なんだ」


 皐月は胸が締め付けられる思いがしました。


「それからしばらくして、これは本当に偶然なんだけど、モーリー探偵事務所の所長さんに会ったんだ」


 何故か皐月はムッとしました。シャーロット・ホームズの巨乳が頭に浮かんだからでしょうか?


「違います!」


 真相を言い当てたはずの地の文に切れる皐月です。


「僕は偶然だったんだけど、ホームズさんは僕を探していたみたいで、いろいろ聞かれたし、いろいろ教えてもらったんだ。それで、君が有栖川倫子と名乗り、成城の大豪邸で住み込みの家庭教師をしていた事、その後、そこのメイドさんのお嬢さんの家庭教師を引き受けた事を教えてもらった」


 霜月は目を潤ませていました。皐月はそれを見て嗚咽をあげ始めました。


「だから、あの日の朝、突然現れたのね?」


 皐月は涙を拭って言いました。


「そうだよ。君がどんな事をしてきて、どんな職業に就いていようとも、そんな事は瑣末さまつな事だ。僕にとって君は、いつまでも大好きなお向かいのさっちゃんだよ」


「翔!」


 皐月は辛抱できなくなって、霜月に抱きつきました。


「二十年ぶりに改めて言わせてくれ。僕と結婚してください」


 霜月は泣きじゃくる皐月の顔を上げました。


「はい……」


 それだけ言うと、皐月はまた泣きました。霜月はそんな皐月を優しく抱きしめました。


 そしてゆっくり見つめ合うと、キスをしました。


(首領、おめでとうございます)


 それを木陰から涙ぐんで見ている長月葉月です。




 しばらくして、皐月と霜月は樹里の家に戻り、樹里と左京に結婚する事を報告しました。


「そうなんですか」


「おめでとうございます」


 樹里と左京は二人を祝福しました。


 ああ、また不倫相手がいなくなってしまう。左京はそうも思いました。


「思ってねえよ!」


 最後の最後に大ボケをかました地の文に切れる左京です。


 


 めでたし、めでたし。

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