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樹里ちゃん、シャーロットに左京を譲る?(後編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里の不甲斐ない夫である杉下左京が、シャーロット・ホームズの事務所があるビルの地下駐車場で、シャーロットと濃厚接触者になりました。


「そういう不適切な使い方をするな!」


 別世界に住んでいる地の文に切れる左京です。


 失礼しました。濃厚なキスをしました。左京はその写真を樹里のスマホにメールで送信しました。


「俺が送ったんじゃねえよ!」


 捏造を繰り返す地の文に更に切れる左京です。


 シャーロットは助手席の左京にのしかかり、半強制的にキスをしました。


 そして、ここでは表現できない事もしようとしました。


「いい加減にしてくれ!」


 左京はシートベルトを外し、助手席のドアを開いてシャーロットを押しのけました。


「私の事、嫌いなんですか?」


 車の外に出された形のシャーロットが涙目で左京を睨みました。


「好きとか嫌いとか、関係ない! 貴女のしている事は、もはや犯罪ですよ! ドロントを捕まえようとしている人が、そんな事でいいんですか?」


 左京は革ジャンのポケットからハンカチを取り出して、唇に付いたシャーロットの口紅を拭い取りました。


 左京の正論にシャーロットは俯いてしまいました。


「失礼します」


 左京は助手席から立ち上がると、地下駐車場を出て行きました。シャーロットはそれを黙って見ていました。


 


 一方、シャーロットと左京がキスをしている写真を見てしまったらしい樹里はまだ固まったままです。


「樹里さん、しっかりしてください!」


 目黒弥生が住み込み医師の長月葉月を連れてきました。


「樹里さん、大丈夫ですか?」


 葉月は樹里に呼びかけながら、脈拍や呼吸、瞳孔を調べました。


「軽いショック状態ね。でも、呼吸も脈拍も正常だから、心配いらないと思う」


 葉月は聴診器を首にかけて言いました。


「よかった」


 うわべだけ心配してみせた弥生が言いました。


「心の底から心配しているわよ!」


 真実を言い当てた地の文に切れる弥生です。


 葉月はすぐに水無月皐月に連絡しました。


「わかった。左京さんの救出に向かうわ」


 皐月は左京の探偵事務所を飛び出すと、シャーロットの事務所へ走りました。


「左京さん!」


 しばらく進んだところで、左京が歩いてくるのに出くわしました。


「あ、水無月先生」


 なんとなくバツが悪い左京です。


「大丈夫ですか? シャーロットがあそこまでやるとは思いませんでした」


 皐月が言ったので、


「え? どういう事ですか?」


 左京は樹里のスマホにメールで写真を送られた事を知らないのです。


 真相を知った左京は、遂に離婚されると思いました。


「思わねえよ!」


 左京は地の文に切れながら、樹里のスマホに連絡しました。


 ところが、樹里は出ませんでした。嫌な汗がしこたま出てくる左京です。


(樹里、怒ってるのかな?)


 それを見ていた皐月が、


「樹里さん、ショックで動かなくなってしまったみたいなんです。すぐに五反田邸に行ってください」


「ええ!?」


 左京は仰天しました。


「早く!」


 皐月に急かされ、左京は自宅へ走りました。


「この時間は道が混んでいます。電車の方が早いですよ」


 皐月が後ろから言いました。


「わかりました!」


 左京はUターンして、JR水道橋駅へ走りました。


(樹里、すまない!)


 左京が走っていると、今度はストーカーが四人現れました。


「ストーカーじゃありません!」


 代表して切れる坂本龍子弁護士です。


「左京さん、無事でしたか。どこへ行くんですか? そっちは危険ですよ」


 斎藤真琴が尋ねました。左京は立ち止まらずに、


「樹里が大変なんだ!」


 それだけ言うと、駅へと走りました。


「樹里さんが?」


 真琴は龍子と顔を見合わせました。勝美加弁護士と隅田川美波探偵も顔を見合わせました。


 


 しばらくぶりに電車に乗った左京は慌てていたので、逆方向の電車に乗ってしまい、危うく千葉県に行ってしまいそうになりました。


(車で行った方が早かったかも)


 自分のバカさ加減に呆れる左京です。


 それでも御茶ノ水駅で気づいたので、それ程のタイムロスではないと思う地の文です。


 その後は慎重に駅構内を進んだので、左京は何とか成城学園前駅に着きました。


「樹里、待っててくれ!」


 左京は必死になって五反田邸へと走りました。




「樹里さんは先程早退しましたよ」


 五反田邸に着くと、門の前で半目の弥生が言いました。


「ええ!?」


 また仰天する左京です。


「行き会いませんでしたが?」


 左京が言うと、


「葉月さんが車で送りましたから」


 弥生は更に半目で言いました。


「そうなんですか」


 樹里の口癖で応じる左京です。


「樹里さん、酷くショックを受けたみたいで、しばらく瞬きもしませんでしたよ」


 弥生が非難めいた口調で告げると、


「そうですか……」


 左京はがっくりと項垂れてしまいました。


「多分、もう左京さんの事、嫌いになったのではないですかね。ホームズさんと話をするって言ってましたから」


 弥生は何故か嬉しそうです。さすが腹黒です。


「違うわよ!」


 地の文の的確な描写に切れる弥生です。


「ホームズさんと?」


 左京はギョッとして弥生を見ました。


「もう左京さんを譲りますって言いに行ったんだと思いますよ」


 弥生は更にニヤリとして言いました。


「樹里ーっ!」


 左京は成城学園前駅へと走り出しました。


「弥生さん、庭掃除終わりましたよ」


 そこへ笑顔全開の樹里が現れました。


「あ、すみません、すぐに行きます」


 弥生は樹里に走る左京が見えないように邸へと歩きました。


「樹里さん、びっくりしましたよ。もう大丈夫なんですか?」


 弥生が言いました。


「大丈夫ですよ。ちょっと熱中症になりかけただけですから」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(結局、樹里ちゃん、写真を見ていないのよね)


 小さく肩をすくめる弥生です。


(左京さん、今度こそ、懲りてよね)


 弥生はチラッと駅の方を見ました。


 


 めでたし、めでたし。

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