樹里ちゃん、シャーロットに左京を譲る?(前編)
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
男の趣味が悪いシャーロット・ホームズが、遂に本格的に樹里の元の夫の杉下左京を狙い始めました。
「うるせえ! それから、元の夫じゃなくて、今でも夫だよ!」
何故か左京が地の文に切れました。シャーロットは顔を赤くしているだけで切れません。
「すみません、私のせいで、余計燃えてしまったらしくて……」
水無月皐月が樹里に謝りました。
「そうなんですか?」
樹里が笑顔全開で小首を傾げたので、偶然その時現れた昭和眼鏡男と愉快な仲間達が卒倒しました。
このまま放っておけば、帰らぬ人となるのでちょうど良いと思う地の文です。
「僕らは死にません!」
すぐに復活するしぶとい眼鏡男達です。しかしすでに樹里はJR水道橋駅へと向かっていました。
「樹里様、お待ちください!」
涙ぐんで樹里を追いかける眼鏡男達です。
「毒を以て毒を制すでいかせてもらいました」
苦笑いして、左京に説明する皐月です。
「どういう事ですか?」
左京も首を傾げました。
「実はですね……」
皐月は左京の耳元に囁きました。左京は目を見張りました。
一方、シャーロットは探偵事務所を出て左京の事務所へ行こうとしましたが、事務所のエントランスにやばいおばさん達が集まっていました。
「やばくもないし、おばさんでもない!」
地の文の紹介に理不尽に切れる坂本龍子と斎藤真琴、勝美加、隅田川美波です。
「おはようございます」
シャーロットは四人の素性を皐月から聞いていたので、後退りして挨拶しました。
「おはようございます。どちらに行かれるのですか?」
目だけが笑っていない笑顔で尋ねる龍子です。他の三人も同様の顔をしています。
「クライアントのところです」
シャーロットは作り笑顔で龍子を見ました。
「なるほど。貴女はクライアントのところに行くのに、すれ違った人が立ち眩みがしそうな程、香水を着けて行くのですね」
真琴がすかさず言いました。シャーロットはギョッとしました。
「一つご忠告しますが、左京さんは香水が嫌いですよ」
美波が言いました。更にギョッとするシャーロットです。
「やはり左京さんのところに行くつもりなのですね?」
美加が一歩前に出て詰め寄りました。
「私がどこへ行こうと、皆さんには関係ないと思いますが?」
シャーロットは四人を避けてエントランスを出ようとしました。
「関係なくありません。妻帯者である左京さんに色目を使って近づく女を見過ごす事はできないのですよ」
前に回り込んだ龍子が右手の人差し指をシャーロットの目の前に突き立てて言いました。
「貴女方の行動も、左京さんを困らせているのに気づいていないのですか? 左京さんは大変迷惑だとおっしゃっていましたよ」
シャーロットはハッタリをかましました。
「え?」
四人は一様に目を見開き、言葉を失いました。
「ここは私の事務所の一部です。出て行っていただけますか? もし、従わないのであれば、刑法第百三十条により、不退去罪が成立するのは、釈迦に説法ですかね?」
シャーロットがたたみかけると、四人は渋々エントランスから出て行きました。そして、公道に立ち、シャーロットが出てくるのを待つつもりのようです。
「残念でした」
シャーロットはくるっと背を向けると、地下駐車場へ向かい、裏から車で出ました。
「ああ!」
目の前を真っ赤なジャガーで走り去ったシャーロットに気づいたのは、一番若い美波でした。
「一番若いはどうでもいいでしょ!」
年齢に敏感な残りの三人が地の文に切れました。
「あの無駄に巨乳女、騙したわね!」
おっぱい体操を密かにして胸を大きくした龍子が地団駄を踏みました。
「余計な事言わないで!」
口が軽い地の文に切れる龍子です。
皐月は自分の部屋に戻り、五反田邸の住み込み医師である長月葉月から連絡を受けていました。
「シャーロットがバリケードを突破したようです」
「了解。左京さんは今、猫を探しに出かけているから、シャーロットが来たら、すぐに戻ると言って事務所に留めるわ」
皐月は葉月に言うと、スマホを切りました。
ところが、皐月の読みは外れていました。
「おはようございます」
左京は路地裏を歩いているのをジャガーで近づいてきたシャーロットに見つけられていました。
「お、おはようございます」
龍子達の防衛網を突破したシャーロットに仰天して挨拶する左京です。
「乗ってください。ストーカー達が迫ってきています」
シャーロットの言葉にキョトンとした左京ですが、
「早く! 危険です!」
シャーロットに怒鳴られたので、
「あ、はい」
つい助手席に乗ってしまいました。ジャガーは急発進してその場を走り去りました。
「あの、どこへ行くんですか?」
左京はシートベルトをしながら尋ねました。
「区役所です」
シャーロットはにっこり笑って言いました。
「えええ!?」
流石にそれがどういう意味なのか気づき、驚愕する左京です。
「樹里さんと離婚して、私と結婚してください」
シャーロットは前を向いたままで言いました。
「何言ってるんですか? そんな事、できる訳ないでしょう?」
左京が怒気を込めて言うと、シャーロットはフッと笑い、
「冗談ですよ。私もそこまで図々しくありませんから」
ジャガーはシャーロットの事務所の地下駐車場へと戻りました。
「ここなら、人目につきません」
シャーロットはシートベルトを外して、助手席に身を乗り出してきました。
「ホームズさん、どういうつもり……」
左京がそこまで言った時、シャーロットの柔らかい唇が塞ぎました。
左京はもがいて抵抗しようとしましたが、シャーロットが全体重をかけて押さえつけてきたので、身動きできません。
しかも、大きな胸がのしかかってきていて、嬉しくなっていました。
「嬉しくねえよ!」
そんな状況でも地の文に切れる左京です。
「どうします? この先までいきます?」
シャーロットが尋ねました。
「俺は○田○二か!」
左京が特定の人物の名前を出したので、伏字にした地の文です。
「いい加減にしろ!」
相手が女性なので、遠慮していた左京でしたが、このままではまずいと思い、シャーロットを力任せに押しのけようとしました。
ところが、身長が大きくて、ボンキュッボンな身体のシャーロットなので、びくともしません。
(これ、やばいんじゃないの?)
汗まみれになる左京です。
ちょうどその頃、庭掃除を終えた樹里は、スマホが鳴ったのに気づきました。左京からのメールの音です。
こんな時間にメールが来る事はないので、樹里は不思議に思ってスマホを見ました。
メールを開くと、動画が添付されており、それにはシャーロットと左京が激しくキスをしているのが映っていました。
メールには文章もあり、
「シャーロットさんのキス最高」
衝撃的なものでした。
樹里が動かなくなったので、
「どうしたんですか、樹里さん?」
目黒弥生がスマホを覗き込み、その内容に仰天しました。
(左京さん、何してるんですか!?)
弥生は最悪の結末を予想しました。
続くと思う地の文です。




