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樹里ちゃん、入間市に現る

 御徒町おかちまち樹里じゅりは、居酒屋で働きながら難事件にも挑む探偵助手です。


 先日、貧乳の怪盗ドロントが、樹里がメイドをしていた五反田邸のシャンデリアを盗もうとしたのを見事阻止しました。


 しかし、手柄は警視庁特捜班の亀島警部補に横取りされ、所長の杉下左京は地団駄踏んで悔しがりました。


「亀島の奴、いつか締めてやる!」


 怒りが収まらない左京所長は、事ある毎にそう言います。


「まあまあ、左京。落ち着きなさいって」


 幽体離脱助手の宮部ありさが慰めます。


「警視庁はこれからお得意様になるんだから、大事にしないと。貴方も大人なんだから、それくらい理解しなさいよ」


 ありさがいつになく真面目に話すので、左京は怖くなってありさから離れました。


「何?」


 ありさは菩薩のような顔で左京を見ます。


「お前、まさかあの貧乳の泥棒じゃないだろうな?」


「まさかあ。何なら、確かめる?」


 ありさがズンと胸を突き出した時、樹里が帰って来ました。


「お、おう、お帰り、樹里。どうだった、反応は?」


 左京は危うくありさの胸の「真偽」を確かめそうになった自分を戒めました。


「今日は入間市まで行けましたが、飯能市までは行けませんでした」


 ありさは知らないフリをしています。左京は椅子から転げ落ちそうになって、


「いや、だから、その飯能じゃなくてだな、反応だよ。アクセントが違うだろ?」


「字で書いていただければ、よくわかるのですが」


 樹里は笑顔全開です。左京は項垂れました。


「って事は、今日も仕事は無しか……」


「いえ、仕事はあります。入間市で仕事を受けたので、飯能市まで行けなかったのです」


 樹里の言葉に、左京は涙ぐんで彼女を抱きしめます。


「ああ、さすが樹里だ! やっぱりお前は素晴らしい!」


「左京さん、ありささんが見てます」


 樹里はニコッとして言いました。左京はハッとして赤くなり、


「おっと、すまん」


と樹里から離れました。


 


 こうして、左京達一行は、埼玉県南西部に位置する入間市へと出かけました。


 依頼主は入間市のある町の小学校の校長先生です。


 学校で飼っているうさぎが、何者かに殺される事件が起こりました。


「初めまして、所長の杉下左京です」


 左京が校長先生に名刺を渡します。


「副所長の宮部ありさです」


 ありさが勝手に作った名刺を教頭先生に渡します。教頭先生は三角眼鏡が似合う女性です。


「お前なあ」


 左京はありさを睨みますが、何も言いません。


「いやあ、樹里ちゃん、久しぶりだねえ。キャバクラ、潰れたんだってね」


 校長先生が樹里に話しかけます。樹里は笑顔全開で、


「そうなんですか」


 教頭先生が軽蔑した目を校長先生に向けたままで、左京に、


「校長が以前通いつめていたキャバクラのナンバーワンだったらしいですね?」


「はあ、そうみたいですね」


 左京も嫌なことを思い出し、汗を掻いています。


「早速、現場に行きましょうか」


 左京が校長先生に言いました。しかし校長先生は樹里と話していて、見向きもしません。


「校長!」


 教頭先生が怒鳴ります。校長先生はビクッとして、


「は、はい!」


 ようやく我に返った校長先生です。




 左京達は、校庭の端にある飼育小屋に行きました。


「網が鋭い刃物で切り裂かれていますね。計画的な犯行です」


 左京が虫眼鏡で現場検証をしていると、


「きゃふ、きゃふ!」


とありさが叫びました。


「どうしたんですか、ありささん?」


 樹里が驚いて声をかけます。


「ありさ、ふざけているのなら、帰ってもらうぞ! もちろん、自腹でだ!」


 左京の叱責を無視するかのように、ありさは四つん這いになって走り出しました。


 まるでうさぎのようです。


「どこへ行くんだ、ありさ!?」


 左京は怒り心頭でありさを追います。それを樹里が追いかけます。


 校長先生と教頭先生は、呆気に取られて動けないようです。


 ありさは素早くて、なかなか追いつけません。


「何考えてるんだ、あいつは?」


 左京は日頃の運動不足が祟り、倒れそうです。


「お!」


 やっとありさが止まりました。そこは理科室の前です。


「あら、私、何してたのかしら?」


 ありさはバカな子のような事を言いました。


「む?」


 左京はその時、、理科室の壁に血がついているのに気づきました。


「そういう事か!」


 左京は校舎を回り込み、理科室の中に入りました。


「どうしたのよ、左京?」

 

 ありさと樹里が追いかけて来ました。


「犯人はあんただ!」


 左京は理科室で実験をしていた白衣の男に言いました。


「何を言ってるんですか? 僕はうさぎなんて殺していませんよ」


 白衣の男は理科の先生のようです。彼はシラを切ります。


「バカめ。俺はウサギを殺したなどと、一言も言ってないぞ!」


「うわあ、しまった!」


 三文芝居のようなやり取りがあり、理科の先生は左京に組み伏せられました。


「しかも、お前の白衣には、血がついている。それが動かぬ証拠だ!」


 左京は思い切り気取って言いました。


 こうして、事件は気の毒なくらい呆気なく解決しました。


 うさぎを殺した動機は、うさぎを飼育している国語の先生が、犯人の先生を冷たく振ったからでした。


「人間は醜いな、本当に」


 左京は事件の残虐性に拳を震わせて言いました。


「私は整形はしてないし、豊胸もしてないわよ」


 ありさが意味不明な事を言います。


「帰ろう、樹里」


「はい、左京さん」


 左京はボケるありさを完全に無視して、小学校を出ました。


「探偵料は、後日振り込むってさ」


 ありさが苦笑いして告げます。


「それにしてもさ、私、途中から記憶ないんだけど、何があったの?」


「それはこっちが訊きたいよ!」


 左京は、ありさの謎めいた習性を恐れました。

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