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樹里ちゃん、有栖川倫子と会談する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、樹里は不甲斐ない夫の杉下左京の不倫相手であるシャーロット・ホームズと会いました。


「不倫相手じゃねえよ!」


 ほぼ正しい事を言ったはずの地の文に切れる左京です。


 でも、シャーロットは何故か抗議しません。


(私、左京さんに惹かれている)


 シャーロットはおじさん好きな変な子でした。


「違います!」


 真実を突きつけた地の文に切れるシャーロットです。


 シャーロットは樹里に責められると思っていましたが、逆に謝罪され、混乱しました。


(樹里さんはズレているのか)


 そこにようやく気づいたシャーロットでした。


 


 そして、いつもの展開を省略して、樹里はすでに五反田邸に着き、一階の掃除を始めています。


 もう一人のメイドの大黒弥生は二階の掃除をしています。


「目黒よ!」


 二階のトイレ掃除をしながら地の文に切れる弥生です。


「樹里さん、ちょっといいですか?」


 有栖川倫子が現れて声をかけました。


「はい、いいですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「私の部屋で話をしませんか?」


 倫子が言うと、


「有栖川先生のお部屋は片付けてしまって、何もありませんがよろしいですか?」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうでしたね……」


 衝撃の事実を思い出した倫子は項垂れて応じました。


「では、長月先生のお部屋ではどうですか?」


 倫子は苦笑いをして言いました。


「はい、いいですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。そして二人は葉月がいる部屋へ行きました。


「話というのは、目黒さんの事なのですが」


 気まずそうに切り出す倫子と、それを見守る葉月です。


「弥生さんがどうかしましたか?」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


「左京さんとシャーロット・ホームズさんの事を何か言いませんでしたか?」


 倫子は尋ねました。


「はい。夫とシャーロットさんがキスをしたとか」


 それでも笑顔全開で樹里に少し引いてしまう倫子と葉月です。


「そんなデリケートな話をまるで挨拶のように言ってしまった弥生さんの事を許してください」


 倫子が言うと、


「大丈夫ですよ。シャーロットさんには、私から謝罪させてもらいましたから」


 樹里が笑顔全開で言ったので、今度は顔を引きつらせてしまう倫子です。


(確かに樹里さん、謝罪していたわ)


 盗聴器で聴いていた葉月は当時の事を思い出しました。


「それでですね、シャーロットさんがあの野矢亜剛と面会するらしいのです」


 倫子は思い切り話を端折はしょりました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「もし、野矢亜剛とシャーロットさんが面会してしまうと、私達の事を聞き出してしまうと思われます」


 倫子は真剣な表情です。


「そうなんですか?」


 樹里は首を傾げました。


「野矢亜剛は、私達の正体を知っています。それも、言い訳できないくらい詳細に」


 倫子は悲しげな目で樹里を見ました。


「そうなんですか」


 でも、樹里は笑顔全開なので、倫子は少しイラッとしました。


「そうなれば、私達はここにはいられなくなります。樹里さん達とも二度とお会いする事はないでしょう」


 倫子は更に続けました。


「そうなんですか?」


 また笑顔全開で首を傾げる樹里です。


「ですから、今日の夜にでも、旦那様にお話しして、ここを出ようと思っています」


 倫子だけではなく、葉月も樹里を真剣な表情で見ています。


「そうなんですか」


 樹里がそれでも笑顔全開なので、


「樹里さん、真剣に聴いてください。真面目な話なんです!」


 倫子はとうとう声を荒らげました。


「でも、皆さん、何度かそうおっしゃって、必ずすぐにお戻りになりましたよね」


 樹里に今までのドロント一味の行動を指摘され、ぐうの音も出ない程狼狽えてしまう倫子と葉月です。


(確かにそうなんだけど……)


 倫子は顔を引きつらせて葉月と顔を見合わせました。


 


「東島、面会だ」


 東京拘置所の独房にいる野矢亜剛こと東島俊秀はその声に応じて顔を上げました。


(全く面会がなかったのに誰だ?)


 警察上層部の思惑など知る由もない東島は言われるままに独房を出て、面会室に行きました。


「どちら様でしょうか?」


 全く見覚えのない白人の女性がアクリル板の向こうに座っていたので、東島は尋ねました。


「私はシャーロット・ホームズ。モーリー探偵事務所の日本支部の所長です」


 シャーロットは立ち上がって自己紹介しました。


「モーリー……。ああ、ドロント一味と対決して、見事に出し抜かれて引退したジジイの娘か?」


 東島はパイプ椅子に腰を下ろしながら、あざけるように言いました。


「ええ、そうです」


 シャーロットはムッとしながらパイプ椅子に戻りました。


「私に何の用だ?」


 東島は警戒して訊きました。


「貴方が見事にはめられたドロント一味についてお尋ねしたくて来ました」


 シャーロットは嫌味を込めて言いました。東島はフンと鼻を鳴らして、


「何が知りたい?」


 シャーロットはフッと笑って、


「ドロントの正体をご存知ですね? 一体誰です?」


 東島を睨みつけました。


「あんたに教える義理が俺にあるのか?」


 東島は目を細めて言いました。


「教えてくれたら、ここから出してあげるわ」


 シャーロットの答えに目を見開く東島です。


「ほお。あんたの親父さんは、探偵を引退しても、未だに政界に強大な影響力を持っているんだな。驚いたぜ」


 シャーロットはそれには応じず、


「どうするの? 言うの? 言わないの?」


 更に目を鋭くさせて言いました。


 


 そして、夜になりました。


 倫子と葉月と弥生は、五反田氏の帰宅を待って部屋を訪れ、職を辞する事を告げました。


「理由を教えてくれるかね?」


 五反田氏は微笑んで言いました。


「私達は、旦那様もご存知の通り、泥棒一味です。そして今日、シャーロット・ホームズという宿敵が東京拘置所の野矢亜剛に面会して、私達の正体を聞き出したと思われます。このままではご迷惑をおかけしますので、辞めさせていただく事にしました」


 倫子が説明すると、


「君達が最後に事件を起こしたのは、少なくとも七年以上前の事だ。もはや時効が成立しているよ」


 五反田氏の意外な返しに倫子も葉月も弥生も仰天しました。


「警察幹部からの話で、妙な圧力をかけて来た外国人がいたらしいのだが、それも全部私が処理しておいたから、今まで通り、ここにいてくれたまえ」


 あまりの展開に唖然としてしまう元ドロント一味です。


 


「東島を拘置所から出せないの!?」


 事務所の所長室で、父親からの電話を受けたシャーロットは大声を出してしまいました。


「すまない、シャーロット。ミスター五反田には、あれやこれやと助けられていて、彼に言われたら、従うしかないんだ」


 今にも消え入りそうな声で言い訳するモーリーです。


「わかったわ、ダディ。私一人の力で何とかするから」


 シャーロットは尚も言い訳するモーリーを無視して、スマホを切ってしまいました。


(ドロントめ、必ず尻尾を掴んでやるんだから!)


 シャーロットは夜景が広がり始めた外を見て決意を新たにしました。

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