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樹里ちゃん、キャバ嬢になる

 御徒町樹里は「メイド」でした。


 彼女はある夫妻の屋敷でメイドの仕事をしたのを最後に、点々と仕事先を変えました。


 彼女が次に勤めることになったのは、「キャバクラ」です。


 樹里はそこがどんな仕事をするところなのかよくわからないまま、面接に行く事になりました。




 そして面接日当日です。


 樹里は面接場所であるキャバクラへと行きました。


「お名前は御徒町樹里さんですか?」


 面接の相手は店長です。彼は履歴書を見ながら尋ねました。


「はい、多分」


 樹里は笑顔フルスロットルで応じました。店長はギャグでも言ったと思ったのか、


「真面目に答えて下さいよ。貴女は御徒町樹里さんですね?」


「はい、多分」


「何で多分なんですか?」


 店長はイラッとして尋ねました。樹里はそれでも笑顔満載で、


「名前は親がつけましたので、私には確証がありません」


と妙な返答をしました。

 

 店長は職業柄、ワケありの女性達をたくさん見て来ています。

 

 きっとこの子も過去を知られたくないのだろうと勝手に思い込み、それ以上は突っ込みません。


「わかりました。それで、今まではメイドをされていたようですが、当店のようなところに勤務経験はないのですか?」


「はい」


「勤められそうですか?」


「はい」


「よし、採用です」


 店長は、樹里を見た瞬間採用を決めていました。


(この子は化けるぞ。ナンバーワンになる)


 店長はそう確信していました。




 そして数日後、樹里は出勤しました。


「これに着替えて」


 店員に手渡された衣装は、とんでもなく肌が露出するものでした。


 店員はニヤニヤして樹里を見ていましたが、


「はい、わかりました」


と樹里はいきなりその場で服を脱ぎ始めました。


「お、おいおい、更衣室で着替えてくれ。こんなところで服脱ぐなよ」


「そうなんですか」


 店員は樹里の突然の「爆弾投下」に仰天し、心にもない事をつい言ってしまいました。


 本当はこっそり着替えを覗こうと思っていたのです。


 まさか目の前で服を脱ぎ出すとは夢にも思いませんでした。


「止めなきゃ良かった……」


 後悔する店員でした。


「あのー」


 早くも着替えを終えた樹里が登場です。


「ブッ」


 店員は鼻血が出そうでした。


 樹里の着替えた衣装は、チューブトップの超ミニスカートで、肩も胸の谷間も太腿も丸見えです。


 さっきまでのどちらかと言うとダサい普段着からは想像ができない程、樹里は色っぽい身体をしていました。


「これはちょっと……」


 樹里はモジモジしながら言いました。


 店員は顔を真っ赤にして、


「そ、そうだな。露出が多過ぎだな」


と言って、別の衣装を取りに行こうとしましたが、


「ちょっと寒いです。おしっこが近くなってしまいます」


と突拍子もない事を返して来ました。


「お、おしっこ?」


 恥ずかしいんじゃないのかよ!


 店員は嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちでした。




 そして開店時間になりました。


 店長の読み通り、樹里は大人気でした。


 来店客のほとんどが、樹里の大胆な衣装に釘付けです。


 エロ親父達が、次々に彼女を指名します。


 しかも樹里はお触りされても全く怒りません。


 笑顔全開で対応します。


 樹里の全開の笑顔にやられ、エロ親父達はエロを封印し、お触りをやめてしまいました。


 男とは不思議なもので、嫌がられないと触らなくなってしまうようです。


 でもその屈託のない笑顔に親父達はノックアウトされ、樹里は指名ナンバーワンになりました。


 そして時々、


「ごめんなさい、おしっこ漏れそうです」


と立ち上がり、親父達を妙に興奮させてしまいます。




 そんな樹里人気を快く思わない他のキャバ嬢達がいます。


 それはまた別のお話で。


 


 ある日の事です。


「いらっしゃいませー」


 キャバ嬢達の声に迎えられて、懐かしい顔が現れました。


「あ」


 樹里は席を立ってそのお客のそばに行きました。


「来て下さったんですね、刑事さん」


 そう、現れたのは杉下左京。警視庁特捜班の刑事です。


 店内全体がギョッとして左京を見ます。


「刑事さんはやめてくれよ。客が驚いてるよ」


 左京は樹里の衣装の過激さに驚き、顔を背けてしまいました。


「ご指名は?」


 店員がすかさず尋ねます。


「ジュリーさんで」


 左京は顔を真っ赤にして答えました。


「ありがとうございます、刑事さん」


 樹里は左京の手を取ると席に案内しました。


「だから刑事さんはやめろって……」


 左京はまだ樹里を見られません。




 半分夢のような状態で、左京は樹里との時間を過ごしました。


 樹里はその時店長に言われていた事を思い出し、左京に尋ねました。


「刑事さん、明日同伴して下さいませんか?」


「だから、刑事さんはやめ……ど、同伴?」


 左京は鼻血を吹き出し、その場に倒れてしまいました。つい、樹里を見てしまったのです。


「刑事さん、大丈夫ですか?」


 樹里の声が遠くに聞こえます。


 左京は意識を失いかけながら呟きました。


「俺は杉下左京……。刑事さんはやめろ」


「はい、刑事さん」


 樹里は笑顔全開で答えました。

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