表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
599/839

樹里ちゃん、シャーロット・ホームズとドロントを探す(前編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


「樹里さん、ちょっといいですか?」


 朝食が終わって後片付けを一緒にしている時、有栖川倫子が言いました。


「はい、いいですよ」


 樹里は洗い物を一区切りつけると、笑顔全開で倫子を見ました。


「昨日、左京さんには申し上げたのですが、樹里さんにも改めて伝えておくことがあります」


 倫子は真顔で言いました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開で応じました。倫子は、長女の瑠里、次女の冴里、そして三女の乃里が歯磨きに左京と洗面所へ行くのを確認してから、


「樹里さんはもうご存知だと思うのですが、実は私、怪盗ドロントなんです」


 それでも声を低くして告げました。


「そうなんですか?」


 樹里は少しだけ驚いたように目を見開いて応じました。その反応に苦笑いする倫子です。


「ええと、本当にご存知ではなかったのですか?」


「はい、知りませんでした」


 樹里が笑顔全開で言ったので、倫子は顔を引きつらせました。


(どこまで本当なのかわからない……)


 それでも何とか気を取り直して、


「シャーロット・ホームズには、英国にいた当時からずっと追いかけられていて、最後に彼女の父親であるモーリー・ホームズと対決して勝ち、引退に追い込みました」


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。倫子はくじけそうな心を何とか奮い立たせて、


「それを恨んでいるのか、シャーロットはとうとう日本にまで私達を追いかけてきました」


「そうなんですか」


 樹里は更に笑顔全開で応じました。倫子は真顔になり、


「シャーロットは樹里さんに何を尋ねたのですか?」


 すると樹里は考え込みました。そして、


「ドロントさんと会った事があるかと訊かれました」


「そうですか。それで何とお返事なさったのですか?」


 倫子は緊張した面持ちで尋ねました。


「はいと言いました」


 樹里は笑顔全開で言いました。倫子は拍子抜けした感じで、


「その他には?」


「亀島さんにお話を聞いたとおっしゃっていました。亀島さんが、五反田邸でドロントさんのお仲間のどなたかが働いていると聞いたそうです」


 樹里は相変わらず笑顔全開のままです。倫子は、


「それから何を訊かれましたか?」


「ドロントさんのお仲間の人が誰なのか知っているのか訊かれました」


 樹里が笑顔全開のままなので、倫子は更に尋ねようとしましたが、左京が瑠里達と戻ってきたので、


「また後程」


 話を切り上げて、左京と瑠里達に挨拶すると、部屋へ戻りました。


「有栖川先生から、話を聞いたのか?」


 左京は娘達がテレビに気を取られているので、樹里に尋ねました。


「はい。有栖川先生はドロントさんだと言われました。知らなかったので、ちょっとびっくりしました」


 笑顔全開で樹里が言ったので、


「そうなんですか」


 左京は引きつり全開で応じました。


(樹里は何度も正体を明かされていると思うんだが、忘れてしまっているのか?)


 樹里のしばらくぶりの「ど天然」に唖然としてしまう左京です。


「俺はうすうす感づいていたんだが、本人から言われて、やっぱり驚いたよ」


 左京が言うと、樹里は、


「左京さん、気づいていたのですか? さすが、警視庁の警部まで務めた人ですね。尊敬します」


 笑顔全開で褒めてくれたので、


「そ、そうか?」


 妙に嬉しくなってしまうヘボ探偵です。


「うるせえ!」


 すかさずチャチャを入れた地の文に切れる左京です。


 


 そして、時はちょっと飛んで、五反田邸前です。


「樹里さーん!」


 いつものように騒がしいメイドの目黒キャビーが走ってきました。


「その名前、やめて!」


 血の涙を流して、ヘンテコな名前で呼んだ地の文に切れる目黒弥生です。


「え?」


 次の瞬間、寂しそうに歩き去っていく昭和眼鏡男と愉快な仲間達と入れ替わるように姿を現したシャーロットに気づき、ギクッとする弥生です。


「あ、そうだ、キッチンのお水、出しっ放しだった!」


 白々しい嘘を吐くと、脱兎の如く走り去る弥生です。


「そうなんですか」


 それを笑顔全開で見送る樹里ですが、


(怪しいわね。あの子、どこか変)


 眉間にしわを寄せて駆けていく弥生を見ているシャーロットです。


 変なのは当たっていると思う地の文です。


「うるさいわね!」


 どこかで聞きつけて地の文に切れる弥生です。

 

 シャーロットは樹里と共に邸に入ると、例によって応接間に通されました。


「先程のメイドさんにお話を聞きたいのですが?」


 シャーロットが応接間を出て行こうとした樹里に言いました。


「そうなんですか。呼んで参ります」


 樹里は深々と頭を下げて退室しました。


(どうしよう?)


 応接間のドアの前で盗み聞きをしていた弥生は、慌てて更衣室に逃げ込みました。


「弥生さん、シャーロット・ホームズさんがお話をしたいそうです」


 いきなり樹里が入ってきたので、


「うひゃああ!」


 飛び上がって驚いてしまう弥生です。


「大丈夫ですか?」


 樹里が心配そうな顔で見ているので、


「だ、大丈夫です」


 顔を引きつらせながらも、何とか応じる弥生です。


「弥生さん、私が付き添いますよ。まだ体調が悪いのでしょう?」


 そこへ長月葉月が入ってきました。


「ありがとうございます、葉月さん」


 弥生は心の底から感謝して言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


 こうして、弥生は葉月に付き添われて、応接間に行きました。


「失礼します」


 入っていくと、シャーロットは窓から外を眺めていました。


「あら、そちらのお医者様は?」


 微笑んで尋ねるシャーロットです。


「五反田邸の住み込み医の長月葉月です」


 葉月は白衣を着ていませんでしたが、何故か医者と言い当てられて驚きつつも、微笑み返して言いました。


「やっぱり。ここへ来るまでに、樹里さんからいろいろと教えてもらったのです」


 シャーロットはソファに戻りながら言いました。


(樹里さん、どこまで話したのかしら?)


 不安になる葉月です。


「目黒弥生さん、貴女にいくつかお訊きしたい事があります」


 シャーロットは微笑んだままで弥生を見ました。


「はい」


 素っ頓狂な声で答えてしまう弥生です。


(キャビー、動揺し過ぎ)


 葉月は苦笑いしました。


 


 続くと思う地の文です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ