樹里ちゃん、シャーロット・ホームズに協力を要請される
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
シャーロット・ホームズの突然の五反田邸訪問で、ドロント一味は大きく揺れ動きました。
しかし、有栖川倫子ことドロントの予想とは違い、シャーロットは五反田邸にいるのは手下だけと推理していました。
そして、目黒弥生ことキャビーに目をつけ、目黒邸まで行きました。
しかし、目黒邸の警備員の皆さんは、どこかの警備員と違い、しっかりとした対応を取り、弥生が在宅かどうかをシャーロットに明かしませんでした。
「誹謗中傷はやめてください!」
真実をありのままに語ったはずの地の文に抗議する五反田邸の警備員さん達です。
その頃、弥生は樹里の家に逃げ込んでおり、不甲斐ない夫の杉下左京と不倫をしていました。
「していないわよ!」
顔を真っ赤にして地の文に切れる弥生です。
「やめろ!」
そして、ついでに左京も地の文に切れました。本命は倫子なので、不満があるようです。
「違う!」
少しだけ当たっているので、動揺しながら切れる左京です。
「やっぱり」
ドン引きしている弥生です。
「誤解だ、目黒さん、有栖川先生とは何でもないんだよ」
必死に弁解する左京ですが、弥生のドン引き度は上がる一方です。
「ううう……」
なす術なく項垂れる左京です。
弥生はその後、倫子に連絡し、左京の事務所にいる事を告げました。
「よかった」
倫子は事務所に来ると、涙ぐんで弥生と抱き合いました。
左京はそれを羨ましそうに見ていました。
「そんな事はない!」
すぐさま地の文に切れる左京です。本当の本命は長月葉月だからですね?
「いやその、それはえーと……」
何故か切れずにもじもじする左京を倫子と弥生は半目で見ていました。
「ごめんね、私のせいで。樹里さんの家に移ったせいで、シャーロットが五反田邸に来てしまって」
倫子は自分の判断ミスを謝罪して、弥生に頭を下げました。
「やめてください。別に私はそんな風に考えていませんから。悪いのは亀ちゃんです」
そこまで話してしまってから、左京がいるのに改めて気づく倫子と弥生です。
「やっぱり、お二人はドロント一味なんですか?」
左京は真剣な表情で尋ねました。倫子は肩をすくめて苦笑いし、
「もうとぼけても仕方がないですよね。そうです。私がドロントで、この子がキャビーです」
弥生も倫子に言われて苦笑いをして左京を見ました。
「シャーロットに言いますか? 私達に左京さんを止める権利はありません」
倫子も左京を見ました。左京は倫子を見て、
「いや。少なくとも、貴女方はこの何年か、事件を起こしていない。そして何より、俺達は何度も貴女方に救われました」
左京の言葉に倫子と弥生は顔を見合わせました。
「もし、私達が捕まれば、左京さんも樹里さんも犯人蔵匿の罪に問われますよ」
弥生の言葉に左京はギクッとしました。
樹里はともかく、俺は困る。俺はまた警視庁に復帰したいのだから!
身勝手な左京は思いました。
「思ってねえよ!」
超捏造をしようとした地の文に激ギレする左京です。
「それは困りますね」
左京の返事に倫子と弥生はハッとしました。
この人は平気で人を裏切るやばい奴だと。
「違います!」
同時に地の文に切れる倫子と弥生です。
「それはどういう意味でしょうか?」
倫子が眉をひそめて訊きました。左京はフッと笑って、
「それは困りますので、捕まらないでください」
倫子と弥生はまた顔を見合わせました。
「ありがとうございます、左京さん」
二人は同時に言い、左京の手を握りました。
(二人と不倫か。いいかも)
左京は思いました。
「思ってねえよ!」
更に妄想をした地の文に切れる左京です。
しばらくして、弥生は帰りました。倫子と二人きりになった左京はそわそわし始めました。
「どうしたんですか?」
倫子がそれに気づいて尋ねました。
「いや、有栖川先生がドロントだってはっきりわかって、何かドキドキしてきて……」
左京は顔を赤らめて言いました。倫子はクスッと笑って、
「どうしてですか? 私が怖いですか?」
「いや、逆です。ドロントとのギャップがあって、まだ完全には信じられないんです」
左京は頭を掻きながら言いました。倫子は目を見開いて、
「そうですか。それは嬉しいです。ドロントとして対峙した時は、左京さんには酷い事を言われましたから」
左京は倫子の返しにビクッとして、
「あの時は、本当に失礼しました。そんな俺なのに、あれこれ助けてもらって、感謝し切れません」
「もうすんだ事ですから」
倫子は微笑んで応じると、サッと髪を束ねてポニーテールにし、
「掃除しますね」
給湯室の奥から掃除機を持ってきました。
「ああ、すみません」
左京は邪魔にならないように部屋の隅に行きました。
樹里は勤務を終えて、五反田邸を出ました。そして、昭和眼鏡男と愉快な仲間達と共に成城学園前駅へ向かいました。
「樹里さん」
そこへシャーロットが現れました。眼鏡男達はシャーロットの巨乳に釘付けです。
「そんな事はありません! 我らは樹里様一筋です」
胸を張って気持ちの悪い事を言う眼鏡男達ですが、
「はっ!」
我に返ると、樹里とシャーロットはすでに成城学園前駅に向かっていました。
「お待ちください、樹里様!」
慌てて追いかける眼鏡男達です。
「樹里さん、お願いがあります」
歩きながらシャーロットが言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「私に協力していただけませんか?」
シャーロットは樹里を見ました。
「そうなんですか?」
樹里は小首を傾げてシャーロットを見ました。
「怪盗ドロント一味を見つけ出して、法の裁きを受けさせるために、力を貸して欲しいのです」
シャーロットは樹里に顔を近づけました。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開で応じました。シャーロットは少しイラッとして、
「どうやらドロント一味は、別々の場所にいるようです。五反田邸にいるのは、手下の一人だけかも知れません」
まだ推理がぶれているシャーロットです。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開で応じます。シャーロットは前を向いて、
「一度に捕まえないと逃げられる可能性があるので、慎重に進めたいのです。お願いできますか?」
半分強制のような言い回しで迫りました。
「いいですよ」
樹里は笑顔全開であっさり応じました。
「そうなんですか」
あまりにも樹里が二つ返事で承諾したので、樹里の口癖で応じてしまうシャーロットです。
めでたし、めでたし。