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樹里ちゃん、シャーロット・ホームズと会う(後編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 モーリー探偵事務所の所長であるシャーロット・ホームズが五反田邸を訪れました。


 そのせいで元泥棒のキャビーこと目黒弥生はテンパり、あたふたしています。


「その呼び方はやめて!」


 涙を流して地の文に懇願する弥生です。しかし、そんな弥生を完全に無視して、樹里とシャーロットは邸の中へ入って行きました。


(今のうちに首領とヌートさんに知らせないと!)


 慌てて玄関の中に入る弥生ですが、


「おはようございます」


 すでに有栖川倫子とシャーロットは対面していました。


(遅かった……)


 項垂れる弥生です。


「以前はここのお嬢様の家庭教師をしていたんです」


 ごく冷静にシャーロットと話している倫子を見て、自分が恥ずかしくなる弥生です。


 そして、五反田邸を辞める決意をしました。


「してないわよ!」


 勝手なストーリーを展開した地の文に切れる弥生です。


「そうでしたか」


 シャーロットもごく普通に倫子と話しています。


「どうぞこちらへ」


 樹里が笑顔全開で応接間にシャーロットを招き入れました。


 その瞬間、倫子が弥生に目配せして、廊下を奥へと歩き出しました。


「シャーロットは私が樹里さんの家にいるのを把握しているから、顔は合わせておいた方がいいと思ったの」


 歩きながら倫子が言いました。


「そうなんですか」


 顔を引きつらせて樹里の口癖で応じる弥生です。


「でも、油断はできないわ。彼女は亀ちゃんと話しているはず。亀ちゃんがどこまで話したかはわからないけど、最悪のケースを考えておかないとならないわ」


 倫子の真剣な表情に血の気が引いてしまう弥生です。


「あんたは何としても守るから。私とヌートが捕まったとしても」


 倫子の言葉に涙ぐむ弥生です。


「首領……」


 二人は住み込み医師の長月葉月の部屋に入りました。


「来たみたいですね」


 葉月が言いました。倫子は黙って頷き、


「最悪の事態も想定しないとね」


「ええ」


 葉月は真剣な表情で応じました。


「あんたは目黒邸に戻りなさい。シャーロットに質問されないためにも」


 倫子が弥生を見ました。


「でも、何て言って帰るんですか?」


 弥生は心臓が爆発しそうなくらい焦っています。


「私がうまく言い訳しとくから。裏口から帰って」


 葉月が言いました。


「すみません、首領、ヌートさん」


 弥生は涙ぐんで部屋を出て行きました。


「さて、どうしようか、ヌート?」


 倫子が苦笑いをして言いました。葉月は腕組みをして、


「出たとこ勝負しかないですよ。シャーロットは格闘技の達人ですから、簡単にはいかないでしょうけど、二人で同時にかかれば、何とかなると思います」


「そこまではしたくないけど、麻耶ちゃんの事を思うと、やっぱり捕まる訳にはいかないわ」


 倫子は鋭い目をしました。


「そうですね。奥様のお身体にさわるような事にはなりたくありません」


 葉月も、元々身体が弱い五反田氏の妻の澄子の身を案じました。


「決まりね。最悪の場合は、シャーロットを倒してでも、ここから脱出する。そして、五反田家の皆さんにはご迷惑はかけない」


 倫子は念を押すように言いました。今までも十分迷惑をかけていると思う地の文です。


「うるさいわね!」


 いつも通り、地の文に切れる倫子です。


 


 その頃、樹里は応接間のソファに座って、シャーロットと話していました。


「樹里さんは、何度かドロントと会っていますね?」


 シャーロットは周囲を警戒しながら尋ねました。


「はい」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「実は、ドロント一味にいた事がある元警視庁の刑事だった亀島馨という人物に話を聞いてきました」


 シャーロットは樹里を見て言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「そして、そのドロント一味がこの邸で働いていると聞きました」


「そうなんですか?」


 樹里は首を傾げて応じました。シャーロットは出された紅茶を一口飲んでから、


「貴女はそれが誰かご存知ですか?」


 もう一度樹里の顔を見ました。


「知りません」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「本当に知らないのですか?」


 シャーロットはイラッとして言いました。


「はい」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「そうですか。わかりました」


 シャーロットは溜息混じりに応じると、スッと立ち上がり、


「では、他の方とお話ししたいのですが?」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で立ち上がり、


「お待ちください」


 応接間を出て行こうとしました。その時、ドアがノックされました。


「はい」


 樹里がドアを開くと、倫子が顔を出して、


「目黒さんは体調不良で帰宅しました」


 その言葉にシャーロットがピクンとしました。


「いつ帰宅されたのですか?」


 シャーロットは大股で倫子に近づきました。


「ついさっきですけど」


 倫子は一歩退いて言いました。


(あの子、さっき玄関先で様子がおかしかったけど、ドロントとは違うと思って気にかけていなかった。もしかして、ここにいるのは手下の誰かで、ドロントは別の場所にいるの?)


 シャーロットは亀島の証言を完全に信用してはいません。何か隠していると考えているのです。


 少しずつ推理が外れ始めていると思う地の文です。


(だとすると、帰宅した目黒弥生が怪しい!)


 ある意味当たっていますが、ある意味外れていると思う地の文です。


「失礼します」


 シャーロットが凄まじい勢いで邸を出て行ったので、倫子は後から来た葉月と顔を見合わせました。


(キャビーが危ない?)


 二人は頷き合ってから、


「申し訳ありません、早退します」


 葉月が言い、


「お邪魔しました」


 倫子は樹里に会釈して一緒に出て行きました。


「お気をつけて」


 何も気にした様子もなく、樹里は笑顔全開で見送りました。


 


「速いわね。もう姿が見えない」


 倫子と葉月は邸の前の通りを見渡しましたが、シャーロットの姿を見失いました。


「キャビーに連絡を取って。シャーロットが後を追ったって」


 倫子が葉月に言いました。葉月は頷いてスマホを操作しました。


 


 しばらくして、シャーロットは目黒邸に着きました。しかし、警備員に尋ねても、弥生が帰宅したかは教えてもらえませんでした。


(流石に大富豪のお邸は簡単には入れないわね)


 シャーロットは苦笑いしました。


 でも、五反田邸には案外簡単に誰でも入れていると思う地の文です。


「そんな事はありません!」


 誹謗中傷をした地の文に抗議する五反田邸の警備員さん達です。


 


「今日はどうしたんですか? お仕事は休みですか?」


 不甲斐ない夫の杉下左京は、急な訪問者に驚いていました。


「ちょっと、いろいろありまして」


 苦笑いをして探偵事務所に入る弥生です。


 


 めでたし、めでたし。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 世の中いろいろとストレスがたまるようになってきましたが、ここの主人公たちが何も変わらないのは幸せだなあと思いますね。 はい、このまま頑張ろう!
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