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樹里ちゃん、シャーロット・ホームズと会う(前編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 五反田氏の愛娘である麻耶の家庭教師の有栖川倫子が樹里の長女の瑠里の家庭教師として樹里の家に住み込みで入ってから、数週間が経ちました。


「かはあ……」


 何故か衝撃を受けて、血反吐を吐く不甲斐ない夫の杉下左京です。


 樹里はいつものようにいつものおかしな集団に伴われ、出勤しました。


 背中で泣いている昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


 瑠里は小学校へと向かいました。


「パパ、いっちゃうよ!」


「ちゃうよ!」


 次女の冴里と三女の乃里に言われ、


「わかったよお、冴里、乃里」


 デレデレして応じる左京です。


 今日は倫子は休暇を取り、朝早くから出かけています。


 もしかして、どこかの美術館でも狙っているのでしょうか?


「違うわよ!」


 五反田邸に向かう途中で地の文に切れる倫子です。


(シャーロットが動いた。ヌートとキャビーを交えて、話し合わないと)


 倫子は焦っていました。


(まさか、刑務所に行くとはね。亀ちゃんにいろいろと訊かれると、まずい事になるわ)


 シャーロット・ホームズは、かつてドロント一味に加わっていた事がある元警視庁ドロント特捜班の亀島馨に面会に行くようなのです。


 倫子はいつの間にかシャーロットの探偵事務所に忍び込み、盗聴器を仕掛けていたのです。


(冴里ちゃんと乃里ちゃんを利用したようで申し訳なかったけど、保育所からの帰りに回り道をして、シャーロットがジョギングに出ている隙に忍び込ませてもらったわ)


 万事、抜かりがない倫子です。ドロント一味の面目躍如です。


(思った以上にフットワークがいいわ。余程、父親が引退したのが悔しかったのね)


 倫子は成城学園前駅で電車を降りると、一気に五反田邸まで走りました。


 五反田邸の前で、メイド服を着た目黒弥生ことキャビーが待っていました。


「しばらくです、有栖川先生」


 弥生がわざとらしい挨拶をしました。


「元気そうですね、目黒さん」


 倫子も白々しい挨拶をしました。警備員さん達がジッと見ています。


 でも、二人共パンチラはしないと思う地の文です。


「そんな事、考えていません!」


 地の文の妄想に切れる警備員さん達です。


 倫子は警備員さん達に会釈して、弥生と共に邸に入りました。


「首領、どうしたんですか?」


 住み込み医師の長月葉月ことヌートが言いました。


「私の部屋で話しましょう」


 倫子が言うと、


「首領の部屋、樹里さんが掃除して片付けちゃいましたよ」


 弥生の言葉に転けそうになる倫子です。


「じゃあ、ヌートの部屋で」


 頭が痛くなりそうな倫子です。


「はい」


 苦笑いをして応じる葉月です。


「おはようございます、先生」


 するとそこへ二階から降りてきた麻耶が声をかけました。


「おはよう、麻耶ちゃん」


 倫子は顔を引きつらせて応じました。


「どうしたんですか、先生?」


 麻耶は嬉しそうです。久しぶりに倫子に会えたからです。


「麻耶ちゃんの顔が見たくなったので」


 倫子は咄嗟に嘘を吐きました。


「そうなんだ。私、まだ時間があるから、お話ししましょう」


 麻耶は強引に倫子を連れて、自分の部屋に戻って行きました。


 顔を見合わせる葉月と弥生です。


「大丈夫なんですか? シャーロット・ホームズが動いたんですよね?」


 弥生が言いました。葉月は溜息を吐いて、


「麻耶お嬢様が相手では、どうしようもないわよ」


 肩をすくめました。


 


 その頃、シャーロットは刑務所の面会室にいました。


 アクリルの板の向こうの小さい部屋に刑務官に連れられた亀島が入って来ました。


 亀島はシャーロットを見ると目を見開き、ニヤッとしました。


 スケべだからです。


「うるさい!」


 しばらくぶりに地の文に切れるので嬉しそうな亀島です。


「初めまして、亀島さん。私、モーリー探偵事務所のシャーロット・ホームズです」


 シャーロットは立ち上がって言いました。亀島はパイプ椅子に座りながら、


「探偵? 何の用ですか?」


 訝しそうにシャーロットを見上げながら言いました。シャーロットはパイプ椅子に座り直して、


「ドロントの事を知りたくて来ました」


「ドロント?」


 亀島は右の眉を吊り上げて言いました。シャーロットは大きく頷いて、


「はい。貴方はかつて、ドロントと一緒に盗みを働いていた事がありましたよね?」


「そんな昔の事は忘れましたね」


 亀島はフッと笑って顔を背けました。シャーロットは微笑んで、


「忌まわしい過去を思い出したくないのはわかりますが、思い出してくれませんか?」


 グッと前屈まえかがみになりました。すると、大きく開いた襟元から、胸の谷間が見えました。


 思わずジッと見てしまう亀島です。


「確かにそんな名前の人間と仕事をした事がありましたね」


 胸元を覗き込むようにしている亀島の視線に気づき、シャーロットは身体を起こして胸元を隠しました。


 どうやら、わざと見せた訳ではなさそうです。亀島は露骨に舌打ちをして、


「でも、細かい事は思い出せませんねえ」


 するとシャーロットは、


「そうですか。ではこれを貴方の元の勤務先に送ってもよろしいですか?」


 A4のコピー用紙に印刷された文書を見せました。


「え?」


 亀島の顔が蒼ざめました。それは警視庁時代にちょろまかした捜査費用の明細だったのです。


「どうしますか、亀島さん? 話しますか、話しませんか?」


「は、話します……」


 ガックリと項垂れてしまう亀島です。


 


 樹里も五反田邸に着きました。


「おはようございます、樹里さん」


 いつもなら、門のところまで出てくる弥生が、ロビーで挨拶しました。


「おはようございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。葉月は自分の部屋に戻ったようです。


「おはよう、樹里さん」


 そこへ倫子と共に麻耶が現れました。


「おはようございます、お嬢様」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「今日は、朝食要らないわ。行って来ます!」


 慌ててスマホで時刻を確認しながら玄関を飛び出していく麻耶です。


「有栖川先生は、こちらでしたか」


 樹里に笑顔全開で言われたので、


「ええ、まあその……」


 苦笑いをするしかない倫子ですが、樹里は気にした様子もなく、更衣室に行ってしまいました。


「とにかく、急いで話しましょう」


 倫子は弥生と一緒に葉月の部屋へ行きました。


 


 一方、左京は猫探しを終えて、事務所に戻っていました。


(有栖川先生がいないと、落ち着く)


 ソファに寝転んで寛ぐ左京です。倫子に教えようと思う地の文です。


「やめろ!」


 涙ぐんで地の文に切れる左京です。倫子のポニーテールに惚れてしまったようです。


「やめてください」


 土下座をして地の文に懇願する左京です。


 


 樹里は庭掃除を終えて、玄関に戻って来ました。


「すみません、樹里さん、遅くなってしまって」


 弥生は倫子との話に時間がかかり、庭掃除をサボりました。


他人ひと聞きが悪い事、言わないでよね!」


 地の文に抗議する弥生です。その時でした。


「こんにちは」


 不意にシャーロットが現れました。


「ひっ!」


 思わず悲鳴をあげてしまう弥生です。


「いらっしゃいませ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 樹里が尋ねました。するとシャーロットは、


「怪盗ドロントの事で伺いました」


 心臓の鼓動が急速に速くなる弥生です。


 続くと思う地の文です。



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